CQCQ、CQCQ



「わたしは蔵馬派だなー」
「えーウソ、わたし飛影派〜」
「あたしはコエンマ様がすきー!」

きゃいきゃいと物語のキャラクター達の話で盛り上がる友人達。
もちろんその流れに乗るかのようにわたしにも一つ名前が浮かんでいたけれど(というか、なんなら四六時中考えているに近いんだけれど)、わたしの思いはいつのまにか非常に拗れたものとなっており、その名を人前で口にすることすら憚られるほどになっていた。

だって、どうせ否定されるし。


「やよいはどう?」
「んー、みんな好きだよー」
「えーっじゃあ飛影か蔵馬ならどっち派?」
「どっちだろー」


あのときわたしはなんて答えたか思い出せないけれど、嘘偽りをスラスラと述べたことだけは覚えている。

わたしの思いはそんな、簡単に笑顔で語れるようなものではないのだ。


愛おしいんだ、彼が。愛しているんだ。
あの、真っ直ぐでひたむきで実直で友情に厚くて、愛する女性を全身全霊で大切にしようとする彼が。


夢の中だけでも同じ世界で生きられたらと思っていた。
だけどそんな希望を持って眠りについたところで、夢の中でも彼はあの可愛い女の子のことばかり見ている。そしてわたしはいつだってひとり、本心すら言えずにこっそり涙を流すのだ。


どうか誰か、笑って。



第八話





口に入れたパウンドケーキはしっとりとしていて、甘さはそこまで過度ではないがしっかりと漬けられていたのだろうドライフルーツとナッツが程よくきいておりとても美味しかった。
なるほどこれはうまい、幽助が気に入っているとのことだがわかるなと蔵馬はひとりそう思う。

お礼を言わねば、と蔵馬は人好きする笑みを浮かべてやよいに話しかけた。


「やよい・・・さん、でいいのかな?やよいでいい?」
「あ、やよいでいいですよ!幽助も呼び捨てにしてるし」
「じゃあやよいも敬語はやめて、オレのことも呼び捨てにしてくれていいよ。すごく美味しいね、これ」
「ほんとう?よかった」


にっこりと笑顔を向けるやよいはやはりかわいらしい。少し桑原について詮索したくなったが、まだ出会って間もないしあまり踏み込むのも得策ではないだろうと思い適当な話題を考える。
無難なのは、彼女を連れてきた幽助の話だろう。


「幽助とはどういう関係なの?」
「ああ、えっと実はわたしの事情がちょっと込み入ってい・・・」
「ウメェーーーーー!!!!!!!」
「!」

その問いに対してにこやかに答えようとするやよい。しかしそれは全て言い終える前に桑原の絶叫により遮られた。いや、まあ、たしかに美味かったけれども・・・リアクションが豪快だなあと蔵馬は苦笑する。


「めっちゃウメェですやよいさん!やよいちゃん?!いやオレも呼び捨てでいいっすか?!」
「えっあっ、はい、もっもちろんっ」
「これめっちゃウメェよやよい!マジでいくらでも食べれるぜ!」
「は、はひ・・・あひがとうございま・・・」


ぷしゅう。
湯気が出るくらい顔を赤くしたやよいはもごもごと口もごりながら必死で受け答えをする。

この反応はやはり確実にそういうことなんだろうけれど、二人も初対面らしいし、ではやよいはどうして桑原にこうなっているんだろう。もしかして一目惚れ・・・?相当重度のB専なのか・・・?失礼ではあるが蔵馬は真剣に考えていた。


「やよいも敬語やめてくれよ!あっもしかしてオレ怖がられてる・・・?」
「いややややそんな!!!めっそうもない!!!」
「ならいいんだけどよォ」


顔こえーってよく言われるからなァと一人呟く桑原は、どう考えても好意を寄せられているからこそのこの慌てぶりに気づかないようだった。まあ無理もないだろう、今までこういった好意を向けられたこともなさそうだし(自分でも辛辣であるということは重々承知している)。

よかったらまだあるのでどうぞ、と震えながらもう1つパウンドケーキを渡すやよいはまるで初恋を知ったばかりの少女のようだった。
どうして桑原なんだろう、もちろん悪いヤツではないけれど。単純にそこが気になってくる。



「オイ」
「はい!」
「オレもくれ」


どうやら同じくその様を見ていたらしい飛影がやよいに近づきぶっきらぼうに声を出した。コイツ、こういうものも食べるんだな・・・とまじまじと見つめながら、自分ももう一つ食べたくなってやよいに声をかける。


「オレももう一つもらっていいかな?」
「あ、うん!よかった気に入ってもらえて」


嬉しそうに笑うやよいはかわいいけれど、やはりこうも明らかに差がある反応をされると男として少し悲しいものがある。しかもよりによって桑原に・・・と痛くなりそうな頭を押さえて受け取った。
うーん、今までオレが女の子に黄色い声をあげられていたときにやっかんできた男たちの気持ちってこんな感じだったのだろうか・・・。まさかこんな形で知ることになるとは。ため息が出そうになるのを蔵馬はこらえた。




そうこうしているうちにも船は進み、どんどん目的地へと近づいてくる。
それに気づいた桑原が立ち上がって、すこし芝居掛かったように声を出した。


「見えてきたぜ首縊島!!
どんな恐ろしい場所かわからねェ、ふんどししめてかかんぜ!!皆の衆」
「はいっ・・・!」


その掛け声にうっとり、といった様子で瞳を輝かせたやよいが返答をする。
初めてのシチュエーションに驚き隠せないまま、蔵馬と飛影は二つ目のパウンドケーキを口に運んだ。やはりおいしい。