なりふりなんて構ってられない



「本当に人間界に行くのか?人間界よりも霊界の方が安全だし、退屈しそうであれば仕事も与えるぞ。戸籍がないお前が人間界にいっても苦労するのは目に見えとるだろう」


こちらの世界について、初めて会ったのはコエンマ様だった。
時空の管理人から先にいろいろ聞いていたらしい彼はとても親身になってくれて、わたしの衣食住の世話も何もかも請け負うと言ってくれた。もったいないお話に頭が上がらない。


「お気持ちは本当に嬉しいです、ありがとうございます」


しかしわたしの心は決まっていたのだ。
トリップするとわかったとき、わたしの胸は踊り心臓は高鳴りかつてないほど高揚した。

まるでこれからどこに行くのかわかっていたかのようだった。


そして目覚めてコエンマ様の姿を見たとき、わたしは叫びだしたくなるような思いでいっぱいになった。

勝った、と。


何に勝ったのか。それは今まで何をすることもできなかった自分に?それとも自分に粗雑な扱いをしてきた知人達に?


いいや、違う。
わたしは運命に勝ったのだ。


けして交わるはずなどなかった平行線上の世界・・・いや、そもそも存在すらしていないと思っていた世界に飛び込むことができた。
数多ある世界の中からわたしはそこを無事に選び取れた。

運命への勝利、それ以外にどう表せば良いというのか。



そこからのわたしは小賢しく、優しいコエンマ様ならどう対応するかを脳内でシュミレートしながら話していく。けして興奮を気取られないように、何もかもを素直に話しているかのように。


「やっぱり、せっかく他の世界に来たんだから一度は人間界に行ってみたくて。苦労は重々承知の上で、どうしても好奇心が勝ってしまうんです。誰も知らないところにいくのはもちろん不安ですけど」

眉を下げながら笑顔で言えば、優しいコエンマ様は頷いてくれると思っていた。狡い女でごめんなさいと心の中で謝る。



「…そこまで言うならワシは止めん。どちらにせよ、時空の管理人にもお前を人間界で生かすよう散々言われておるしな」
「本当ですか?ありが・・・」
「ただし」


許しが出てぱあっと笑顔になるも束の間、突然遮られてわたしは首を傾げる。
そんな間抜けなわたしにコエンマ様は言った。


「やはり一人では心配だ・・・霊界探偵をやっている男がいるから一旦そいつと行動するといい。まだガキだが悪いやつではないからな。
そいつの名前は浦飯幽助。幻海という腕の立つ師範の元で修行をしているから、しばらくそこで世話になるといいだろう」
「!」


それはある意味、わたしが一番望んでいた言葉でもあり。
話の流れでもしそうなればと薄く期待はしていたが、まさかこんなにも簡単にコエンマ様の方から提案してもらえるとは思えずわたしは天にも昇るような思いだった。



「はいっ・・・!ありがとうございます!!!」


こんな奇跡がわたしに起きていいんだろうか。あの人を一目でも見られたらもう命すら惜しくはない。
わたしの人格を形成するに当たって、もう切っても切り離せない彼についに会える。

もはやそれだけで自分が完全体になれるかのような気がした。


ただ、会いたかった。
ただただ会いたかった。


もちろん欲を言い出せばキリがないけれど。

なによりも会いたかった。すれ違うだけでもいいから、あなたの存在をわたしの脳裏に焼き付けたかった。


会いたかった、あなたに。
もう何年も、十数年も。




第九話






「わーーー、すごいホテル」
「ふえ〜〜〜〜〜ホントにここに泊まっていいのかよ」


到着した首縊島には豪華絢爛なホテルがそびえ立っていた。自然が多く岸壁も多数見受けられる中でその建築物は一層引き立ち、そのせいか都市部にある五つ星ホテルなどよりもゴージャスに見える。
その外観に圧倒されているとホテルマンが現れ丁寧にお辞儀をしてきた。


「当ホテルにようこそ。部屋へご案内いたします」

そのホテルマンに続くようにして入った建物内はやたらと煌びやかで、日常を生きている中では出会うこともなさそうなセレブじみた人間ばかりいる。人目もはばからず二人きりの世界を作り出すカップルなどもいた。
やよいはもちろんそのことを知っていたが、そうではない桑原はイメージとちがうそれにキョロキョロと辺りを見回す。

「なんか逆に不安になってきたぜ、本当に暗黒武術会場かよ」
「ほんとだね。まさかこんなところに来ることになるなんて」

正直やよいとしてはホテルのことなどもうどうでもよかったのだが、桑原に対して敬語を使わずなるべく普通の態度で話すという目的のもと一生懸命話を合わせていた。
もちろん、いけにえゲストを見る金持ちたちの目線や少し離れたところにいるぼたん達のことなど一切目にも入らない。


そして一向はホテルマンに連れられて404号室へと向かうのだった。







「ひえ〜〜〜ことのほかリッチ!こんな大会なら何度きてもいーぜ!!」

通された部屋は驚くほど広く庭まであり、柔らかそうなベッドに豪華なソファと至れり尽くせりなものだった。
桑原は喜びながら手近なところにあったベッドに幽助を寝かせて隣に座る。
そこではたと気づいたようにやよいの方を見上げた。


「しかしもしかしてやよいも同じ部屋なのか?さすがにそれはまずいんじゃ・・・」


視線をずらし、6つ並べられたベッドを見て桑原が少し慌てる。見上げる形で桑原に見つめられて頬を染めていたやよいは、それを聞いてあたふたとしながらさらに顔を赤くした。


「(そ、そんな・・・朝から晩まで桑原くんといっしょなんてドキドキしすぎて死んじゃう・・・!)」


願ったり叶ったりのことではあるけれどすっぴんを見られたりするのも恥ずかしいし、と頭を悩ませるやよい。すると部屋を見渡していたらしい蔵馬が声をかけてきた。


「向こうに小部屋が二つありましたよ。やよいにはそのうちの一つで生活してもらえばいいでしょう、あとでベッドを運びますか」

そう言われてやよいはほっと胸を撫で下ろす。寝起きからの桑原を見ることができるのはこの上ない喜びだが、記憶の中での彼はタンクトップにトランクスのようなゆるい格好で生活をしていた。さすがにそんな彼とずっと一緒にいるのは心臓が持たないと判断する。


「ありがとう蔵馬、助かるよ。あ、だったら覆面さんももう一つの部屋にいくのがいいですね、いろいろ見られたくないものもあるでしょうし」


蔵馬にお礼を言った後、そういえばとやよいは幻海に話しかけた。彼女はコクリと頷く。覆面の正体が幻海師範かもしれないと想像していた桑原なども特に異は唱えない。

これで決まりだな、そう思ったときノック音がしてルームサービスがやってきた。


「失礼します」


そしてテーブルに並べられた6つのカップ。
あ、そういえばこの展開って。


桑原がこのティーカップの中に毒が入っているのではと疑う中、やよいはひとつ思いあたる節がありカップに口をつけながらキョロキョロと辺りを見回す。



「(あ、やっぱり)」


ふとソファの裏側に視線をやったとき、そこにはカップを持ってそろりと動く鈴駒の姿があった。


小さくてかわいいなあと思いながらやよいが鈴駒を見ていると、彼も視線に気づいたようで振り返り目が合う。
向こうに敵意がないことはわかっているし、自分としても鈴駒はそれなりに好きなキャラクターなので(対桑原戦では毎回ものすごい感情を抱いてしまうけれど)にっこりと微笑んだ。

ビクッと驚いた鈴駒はその微笑みに目をパチパチと瞬いた後、やよいが自分をどうこうする気はなさそうだと判断したのかシィーっと人差し指を口元に当てた。


そして彼は奥にあるチェストの上に乗り込む。少ししてようやくそれに気づいた一向が驚いている中、やよいは今度は是流のことを思い出して反対側の壁を見た。
腕組みして立っている是流を見つけ、展開は知っているものの本当にこのメンバーで大丈夫かしらと少々心配になるのであった。