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『テキーラ瓶ごと・・・飲ましてやる』


「うーん、何度聴いても物騒」



先日のディビジョンラップバトル、勝利を収めたのはシンジュク代表麻天狼であった。彼らが優勝したことにより最近ではどこに行ってもshinjuku style〜笑わすな〜やthe champion、そして個々のソロ曲を耳にする。やっぱりどれもものすごい歌詞だなあと思いつつも、わたしはすべてのCDを発売初日にしっかり予約した上で購入していた。

実はなんとこれらのCDをわたしが手にするのは2度目である。いや、あの、何枚も買ったとかそういうわけではなくて。



・・・この話をしたところで誰にも信じてもらえないだろうというか、正直わたしもいまだに飲み込めていないのだが、わたしには前世の記憶がある。
そしてこれがまたびっくり、前世ではこの世界は『ヒプノシスマイク』とかいう作品になっていて、わたしはそれの大ファンだったのだ。

わたしは幸運なことに寿命をまっとうして孫と曾孫に看取られて死んだため、ヒプマイに関する記憶はもうずいぶんと薄れていたのだが、TDDが台頭した瞬間確信した。わたしは転生トリップをしてしまったのだと。

しかしまあだからといってわたしは別に彼らに関わりがあるわけでもなく、モブ女Aとしてこの世界で一生懸命働き社会の歯車となっている。ただ前世の推しをこの目で見られるというのは非常に有難く、CDや雑誌はすべてチェックしているしバトルの会場にも行ったし完全に一介のファンとしてヒプノシスマイクの世界を楽しんでいた。
いやまあ、けっこう大変なんだけどさ、この世界。でも女性はだいぶ優遇されてるし、当事者じゃないからわりと気楽なんだよね。




たまたま入った服屋でshinjuku styleが流れていたのでそんなに欲しいものも見当たらないが留まってしまっていた。しかしそれが終わったので踏ん切りもつきわたしは店から出る。
今日は日曜日だ。そしていまは夕方。幸せな休日も終わり、また明日からは憂鬱な仕事が始まる。そう考えると気分は晴れないがだからといって逃げられるわけでもない。しょうがない、そろそろ帰るかとわたしはショッピングモールを後にする。


今日の晩ご飯は昨日作ったカレーがまだ残っているのでそれを食べるつもりだ。昨晩の自分に感謝してわたしは帰路につく。何か音楽を聞こう、と携帯にイヤフォンを差し込みプレイリストから麻天狼を選んだ。そしてわたしは鼻歌混じりに歩を進めるのであった。






















そう。

そんな取り留めのない日常を過ごしていたというのに。




のに。







「え、な、なんで、わたし・・・?!」
「俺っち・・・?え、女・・・えっ、あ、え、」
「あっちょっと?!」


わたしは目の前で自分が自分の声で自分のことを俺っちと呼んだあと酷く混乱したような声を上げ、両の手を見つめながら気を失うのを見届けた。
待って、と咄嗟に伸びた腕はいつもより圧倒的にリーチが長い。そもそも出た声はいつもより数段低く、甘く、そう、わたしがさっきまで聞いていたもので。


わたしは失神した自分を腕に抱きながら、震える手で自分のカバンから鏡を探しそれを見る。
やはりというかなんというか、そこに写っていたのは。


「い、いざなみ・・・ひふみ・・・」



わたしが前世から推し続けているシンジュクナンバーワンホスト、伊弉冉一二三の姿だった。



わ、わたしたち。




「入れ替わってる・・・・・?!」




いったい何がどうなればこうなるんだ。
どうせ違法マイクかなんかのせいなんだろ。

わたしは何十年も昔に読み漁ったその設定を思い出し、頭を抱えるのであった。





神様、荒療治が過ぎます!