02



と、とりあえずこうなった経緯を思い出そう。
わたし(伊弉冉一二三の体をしている)は、わたし(おそらく伊弉冉一二三が入っている)を抱えながらショッピングモールを出てからの事象について考える。

ええと・・・そう、そうだ。



「確か、帰り道にうずくまっている男の人がいたんだ・・・」





そう。
ショッピングモールからの帰り道、わたしが麻天狼の音楽を聴きながら歩いていると、路傍に蹲るスーツを着た男の人がいた。
長生きしている分世話焼きなところがあるわたしは、大丈夫かしらとその彼に近づき、肩をトントンと叩いて「あの、大丈夫ですか」と声をかけた。
その男はちゃんと反応し、確か「ああ、ごめんね・・・子猫ちゃん・・・」とか言ってきた気がする。ああ、うん、言ってた。なんだこいつと思ったけれど、ホスト一二三ならそりゃそうだわ。納得。

そして彼はこちらを見て、わたしと目が合った。
綺麗な金色の瞳に端正な顔立ち。わたしは考えるより先に、いざなみひふみ・・・?と声を発していた。

そのときだ。突然ものすごい頭痛がした。
割れそうな頭の痛さにわたしは耐えかねて目を閉じる。それが確か十数秒は続いたように思う。

しかしそれが突然治まって、ふわっと体が浮いた後にまた戻ってくるようななんだか不思議な感覚がして、(そう、例えるならエレベーターに乗っているときの浮遊感と、止まったときの着地感とでもいうべきなんだろうか)、いったいなんだったんだと目を開けたが最後。


目の前にはわたしがいたというのだ。
・・・回想に入ってもなにもわからなかったな。



しかし、どうしたものか、と思う。
うずくまっている際の彼は間違いなくホストモードだったけれど、倒れた際の彼は女性恐怖症の通常ひふみんだったように思う。それも当然なのか?スーツを着ていないわけだし。
・・・通常モードの一二三くんが女の体になってしまったなんて、ものすごい悪夢ではないのか。そりゃ気を失うのも当然だ。




とりあえず、どうしよう。病院に行った方がいいのかしら。

救急車を呼ぶ?しかしこの状況、いったい誰が信じてくれるというんだ。どう説明すれば。そう考えていたとき、ふいにお尻のポケットが震えた。なんだろう、一二三くんの携帯かしら。
悪いかなとは思いつつ、いま一二三くんがスーツを着ているということは出勤前の可能性が非常に高いのでお店だったりしたらまずいと思いわたしはその携帯を手に取る。

画面には、神宮寺寂雷という差出人の名と「来週ならイカ釣りが良さそうですね^_^」というメッセージが浮かんでいた。


・・・・・かっ?!?!?



かわいい・・・・・!!!!!!!!!!!





えっイカ???イカさん釣るの?????ひふみん、寂雷てんてーとイカさん釣りにいくの・・・?かわいい・・・その写真死ぬほど撮りたい・・・かわいい・・・シンジュクがNo. 1・・・死ぬ・・・死んだ・・・


どぼちんはきっとその日も社畜なんだろうなあ、などと考えるともう愛しさと切なさと心強さが相まって息切れしてきた。・・・ってだめだいまは萌えている場合ではない!わたしはブンブンと頭を振る。

そして申し訳ないけれど一二三くんの携帯のロックを一二三くんの指紋で開けさせていただいて(ごめんね、ごめんね、中身は見ないからね、でも待ち受け画面みんなで勝ったときのやつなんだね、うれしかったんだね、かわいい、すき、だいすき、一生、いや何度輪廻転生してもジュク女だからねわたしは、)電話帳から神宮寺寂雷先生の箇所を探す。
そして少し震える指で、先生に電話をかけた。



プルルルル。プルルルル。プル・・・




「はい、もしもし。どうしたんだい?」



2コール半で出た神宮寺先生の声は穏やかで優しく、耳元でそれを聞いてしまったわたしはまた死にそうになりながら、なんとか声を振り絞るのだった。



「す、すみません・・・いま、お時間よろしいでしょうか・・・!」


自分の口から出るのはやはり一二三の声で非常に違和感がある。先生、お仕事中かな。忙しい人だろうに申し訳ないな。
そう思いながら電話可能かどうかを聞くと、寂雷先生は少し驚いたような声を出した。




「!
ああ、いいけれど・・・なんだかいつもと様子が違うね、どうしたんだい一二三くん」
「はぁあッ・・・!!!わかるんですね・・・?!」
「?うん。どうしたの、本当に」


すごい、さすが、神宮寺寂雷。声は一緒なのに電話のやりとりだけで普段と違うとわかるなんて、これが、これがチーム、これがわたしの応援する麻天狼・・・!!!

感極まったわたしはその勢いのまま、矢継ぎ早に寂雷先生に話しかけた。



「あのっ、あの、わたし、一二三くんじゃないんです、わたし、みょうじなまえといいます、あの、わたし、あの、・・・ひ、一二三くんと入れ替わっちゃったみたいなんです!!!!!」
「・・・!?
どういうことかな」
「ひ、ひふみくん、いま、わたしの腕の中で、わたしの体で気を失って寝てるんですー!!!!!!!」


助けてくださいー!!!!!!!!

どうやらわたしも相当混乱していたようで、説明しながら半ば叫んでしまっていた。寂雷先生は驚きながらも、どうやら只事ではないと察してくれたようだった。



「ええと、とりあえず救急車を向かわせるから、それに乗ってこれるかな?迎えに行きたいんだけどまだ少し抜けられなくて・・・」
「だ、大丈夫です!すみません、ありがとうございます!!!」
「じゃあ、いまどこにいるか教えてくれるかい?」
「はい、ええと・・・」


そしてわたしは寂雷先生にいまどこにいるのかを説明するのであった。
一二三くん!!!!寂雷先生に会えるから!!!!!もう、もう大丈夫だからね!!!!!!!!!!!!!!!!