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「好きだ」
「好きなんでさァ」

「「俺と、付き合ってくれ」」


人生には約3回のモテ期が発生すると何かで聞いたことがあるけれど、もしもそれがいまきているのだとしたら、神様、ちょっと、やりすぎです。



第一話





わたしが通う銀魂高校はこの少子化の時代になんとZ組まであるマンモス校だ。あまりのデカさにドン引きしてしまい志望校を変えようと中学生だった頃のわたしは思ったが、学校見学の際にありえないくらいゆるい挨拶をした坂田銀八、通称銀ちゃんに惹かれて受験しバッチリ合格。あの見学の日から早いものでもう3年もの月日が流れ、気づいたらわたしはまた受験生になっていた。

念願叶って3年次では銀ちゃんが担任するZ組になり(といっても今までも国語は銀ちゃんだったけど)、いまは修学旅行中。ちなみに今日が最後の夜。うちの学校は各クラス好きに目的地を選べるのだが、場所は銀ちゃんが「修学旅行と言えば北海道だー。洞爺湖行くぞ洞爺湖〜」とか言い出し、神楽ちゃんが「北海道行くなら函館も行きたいアル!はーるばる来たぜはっこだって〜!!! 」とか乗っかったのでちょうどいいかと函館→洞爺湖という旅程になっていた。


基本的には班行動を義務付けられていて(じゃないと管理がめんどくせェって銀ちゃんに言われた)、わたしの班は女子がお妙ちゃんに神楽ちゃんにわたし。男子が土方くんに沖田くんに近藤くんの風紀委員トリオだった。しょっちゅう土方くんと沖田くんが揉め?たり、神楽ちゃんと沖田くんが揉めたり、近藤くんがお妙ちゃんに言い寄ってぶちのめされたりしつつもなんだかんだで笑いが絶えずいい思い出になるなあと思っていたところ。
まだ桜咲く5月の洞爺湖、いっしょに夜桜でも見ようと土方くんと沖田くんに誘い出されて(お妙ちゃんと神楽ちゃんも誘おうとしたら近藤くんがお妙ちゃんにアタックしたいみたいだから気を利かせてやろう、神楽ちゃんの方は新八くんを引き連れて洞爺湖の周辺施設すべての土産屋の試食をするのに忙しいらしいとやんわり流された)夕食後の自由時間に三人で外を出て。
なんか空気がへんだな?ふたりともあんま喋らないな?桜に見とれてるのかな?とか思ってたら。



「・・・ほ、本気???」

「冗談でこんなこと言うかよ」
「土方さんじゃあるめェし」
「アァ!?俺ァめちゃめちゃに本気だが!?」


何故かこんなことになってしまった。



・・・土方くんとはZ組まであるというのに何故か奇跡的に三年間同じクラスで、沖田くんは土方くんの幼なじみらしくとても仲がいいのか(?)しょっちゅう土方くんに会いに違うクラスからでも乗り込んできていたから一年のときからちょこちょこ話していた。
わたしは三年間学級委員をやっていて(一年のときに全然決まらなくてだったら・・・と挙手したら三年間押し付けられた)行事ごとの度に駆り出されたんだけど、風紀委員も似たようなものなので必然的に二人とは話す機会が増えた。・・・ので、仲良くはしてたつもりだし、二人とも優しくしてくれるなあとは思ってたけど。



「あ、ありがとう・・・。でも、ちょっとその、びっくりしちゃって」

「まあそらそーだろうな。悪かったな、急にこんなこと言ってよ」
「互いに抜け駆けしないようにしてたらここまでズルズルきちまって、もうここでふたりまとめて言おうかってなったんでさァ。隣で土方が振られんのも見たかったし」
「んだとォ!?それはこっちのセリフだ」
「わ、わー!!!喧嘩はやめてー!!!」

目の前で熱くなるふたりに焦って止めると二人は同時にこちらに向き直る。ガシガシと頭をかいたあと土方くんは困ったようにため息をついて口を開いた。


「まァなんだ、答えは別に急かさねェからよ。言いたくなったら言ってくれ。俺らは言えただけで十分だ」
「コイツは言うだけで満足したらしいんでもう忘れていいですぜィ、俺とのことを前向きに考えてくれれば」
「お前なァ!!!」

告白の後だというのに相変わらずなふたりに笑ってしまう。ふふ、と思わず声が漏れたらふたりはそこでようやく安心したように微笑んだ。

「呼び出して悪かったな、んじゃそろそろ風呂の時間だし宿に戻るか」
「変に気負わず、残りの修学旅行も楽しみやしょーぜ」
「・・・うん。ありがとう」


そしてわたし達三人はその後は他愛もない話をしながら夜桜を見つつ宿へと戻った。土方くんと、沖田くん。ふたりとも変わってるけど優しくていい人でイケメンで、学校内にはこっそりファンクラブもある程。
そんなふたりにこんなこと言われるなんてあした隕石でも落っこちてきて奇跡的にわたしだけが死んでもおかしくないような話だ。有難いけれど実感がわかないというか、本当に夢のようである。


(・・・いつから好きでいてくれたんだろう)



情けないことに全く気づかなかった。普通に高校生活を送ることに精一杯で。要領が悪いからなんだかんだ毎日生きるだけで十分大変だった気がする。

自分の学園生活を振り返って呆れてしまった。ふとその時、学校見学の際に銀ちゃんが言ってた言葉を思い出す。『一度きりの人生だ、後悔しないように・・・とは言えまあこの高校に入ろうが他所に行こうがやることは大して変わんねェ。程々に勉強して程々に部活して恋愛にうつつぬかすくらいだ。何を選んだってだいたいそれなりに満足できるもんだから、ピンときた方に進めばいい』・・・わたし、ぜんぜん恋愛にうつつ抜かせてなかったなあ。っていうかボーッとしすぎてたのかも、もしかして。

当時、その力の抜けた台詞に受験で追い込まれていたわたしはなんだかすごく肩の力が抜けて楽になったのを覚えてる。その後たまたま銀ちゃんと二人で話す機会があって(向こうは覚えてないだろうけど)、これがピンッてやつかな?と思いここを選んだんだけど、こういうときはどうしたらいいんだろう。ピンッていうのがわからない。

それこそ土方くんと沖田くん、どちらもとても素敵な人だけど・・・。


(銀ちゃんに相談したらなんて言うかなあ)


まあ、こんなこと言えないけどね。
























「・・・よォ。宿飛び出してこんな時間に何してんだ、学級委員のなまえチャン。」
「ギャーーーーーー!!!!!」


とか思っていたのになぜわたしはいま銀ちゃんの目の前にいるんだろう。答えは簡単、あの後お風呂に入り恒例のガールズトーク(とはいえ3泊4日で初日と二日目に飛ばしすぎたためきょうは疲れきっていてみんなすぐに眠ってしまった)を終えたあと、ひとり寝付けなくてしんどくなりもう一度夜桜を見たくてこっそり部屋を抜け出して外に出てしまったのだ。

案外バレないじゃんザルだな〜さすが銀ちゃん、とか思っていたのにフッツーに宿出て10歩も歩かないうちに捕まった。あああああーーーーー怒られるーーーーーー!!!!!


「・・・ちょ、ちょっと夜桜が見たくて?」
「お前こんな深夜にすることじゃねェだろ、危ねーぞバカ。だいたい夜の自由時間に見れたんじゃねェのか?」
「いやー・・・見た気がしなかったというか、いやー・・・」


しどろもどろになっていると銀ちゃんはハァ、とひとつ小さくため息をついた後ボリボリと頭をかいて言った。


「しょうがねェな付き合ってやるか。悩み事なら聞いてやるよ、いちご牛乳でも飲みながらな・・・ほれ、夜は冷えるからこれ着てろ」
「い、いいよ銀ちゃん、大したことじゃないから」
「風紀委員ふたりに告白されたのに?」
「!?どうして知ってるの!?!?!?」
「おっ当たりか。やるねェアイツらも」
「・・・」


かまかけられた!そう思ったときには時すでに遅し、ニタァとした笑みをわたしに向けた銀ちゃんはくるりと方向を変えて自販機の方へと向かった。この自販機珍しくいちご牛乳入ってんだよ、そう言われた頃にはもう銀ちゃんのペースで。わたしはたぶん洗いざらいぶちまけることになるんだろうなとため息をつき、投げられた白衣にしぶしぶ腕を通した。デカイ。なんだか安心するにおいがする。・・・銀ちゃん、いいにおいだなあ。ちょっとドキドキした。
















「ほれ、かんぱーい」
「か、かんぱーい・・・」


時間も時間だから人はおらず、わたしたちは手頃なベンチに腰掛けた。そこで渡されたいちご牛乳。いったい何に乾杯なんだろうと思いながら銀ちゃんのいちご牛乳とわたしのを軽くぶつけて、久しぶりのそれに口をつけた。甘い。たまに飲むとおいしい。でも甘い。いい加減このひと本当に体がヤバイんじゃないだろうか。



「で、どうすんの?見たところおめーはふたりとも全然そんなふうに見てなかった!って感じだけど」
「な、なんでわかるの」
「わかりやすいんだよ、まったく」


そうかなあ・・・そう思いながらわたしがポリポリとほっぺたを掻くと、銀ちゃんはいつも通りの気の抜けた声で言った。


「ま、どっちと付き合っても悪いようにはされないだろ。なんだかんだでアイツらいいやつだし」
「う、うん・・・そうなんだけど・・・」
「まーふたり同時に告白ってのは悪手だけどな。若いねェ」


そう言いながら銀ちゃんはごくりといちご牛乳を飲む。それを見ていてわたしはふと銀ちゃんのほうが気になった。


「・・・銀ちゃんは彼女とかいないの?」
「オッなんだなんだアイツらじゃなくて俺がいいってか?まァ俺はフリーだが、さすがに生徒には手を出せねえなァ」
「じゃなくて!なんかふと気になっただけっていうか、正直恋愛とは無縁のところで生きてたからいまいちピンとこないっていうか・・・」

そう言いながらなんだか情けなくなってきた。3Zのみんなは確かにそういうの疎いけど、それでもわたし、仮にも高校生なのに・・・。
なんだか頭を抱えたくなっていると、銀ちゃんはまるで漏れ出たように仕方ないなあと優しく笑った。

「まったくオメーはいつまでも最初に会った中坊の頃のままだな・・・」
「え?」

「なまえチャンは忘れてるだろうけど、オメーが中学生のときにも話してるんだよ、俺ら。学校見学の日で、道に迷ったなまえチャ・・・」
「えっ、おっ、覚えてるよ!うそ、忘れるわけないじゃん。わたし銀ちゃんと話してここ受験するって決めたのに!」
「え、そうなの?」

突然発覚した事実にわたしは目をぱちくりして前のめりで遮った。銀ちゃんはその勢いに少し驚きながらこっちを見ている。


「うん!銀ちゃんこそ忘れてると思ってた、うちマンモス校で見学人数もいっぱいいるから・・・わたし、銀ちゃんの生徒になりたくてこの学校に入ったんだよ。覚えててくれたんだ」


そう。
わたしは三年前の授業見学の日、やたらと広い校舎内で迷子になって。どうしていいかわからず困り果てていたら、直前までのゆるい挨拶でわたしの胸を打っていた銀をちゃんに声をかけられたのだ。あのとに心底ホッとして、わたしはまるでヒーローが現れたんじゃないかくらいに思った。だってその頃わたしは中学生で、壇上で話す志望校の先生というのはフィルターがかかってとてもかっこよく見えたから。


あのときわたしは確かに銀ちゃんから目を離せなくなっていた。もちろん月日が流れてそんなフィルターが消えて、銀ちゃんがもっともっとだらしないところを見せていてもなんだか少しキラリと輝いて見えるのは変わらないけれど。



「だからね、実はわたし銀ちゃんのクラスになれてとってもうれし・・・えっ?」


そこでわたしはびっくりして固まってしまった。何故か銀ちゃんが、カァッと音がしてもおかしくないくらいの勢いで顔を赤くしたからだ。え、え???なぜ?????ていうか、銀ちゃんもこんな顔するの?????
わたしは信じられなくてびっくりして心臓がバクバクいうのを感じた。これは、もしかしなくとも、さっき土方くんと沖田くんに告白されたときと同じかそれ以上にドキドキしている。なんで、なんで?銀ちゃんはそれを隠すようにいちご牛乳を煽ったけど、夜桜を照らすライトに当てられた一瞬をわたしは見逃すことなんてできなかった。わたしの鼓動は馬鹿みたいに脈打って、その表情はしっかりと網膜に焼き付いて、もしかして、もしかしてと思うよりも前にピンときていた。



「・・・コホン。そりゃあ、先生冥利に尽きるな」

いちご牛乳を飲み終えた後の銀ちゃんはいつもの死んだ魚のような目をしていたけれど、わたしは瞬間的に大爆発したこの感情に完全に頭が埋め尽くされて、その後どうやって会話をしたのかいまひとつ覚えていない。気づいたらそろそろ戻るか、と銀ちゃんに声をかけられて宿への道のりを歩いているところだった。どき、どき、といまだに心臓が音を立てている。


「に、にしてもやっぱり綺麗だね、夜桜。ありがとう」
「どーいたしまして。満足できたなら何より」


銀ちゃんのふわふわの髪の毛は時折夜風に揺れて、肌寒い5月の洞爺湖、まだ返すのが惜しいと銀ちゃんに着せられた白衣の裾を握りしめた。時が止まればいいのにと、ふわり舞う桜の花びらの中で気づいた気持ちを噛み締める。



(どうしよう、わたし・・・銀ちゃんのことが好きなんだ)



たぶん、初めて会ったときから、ずっと。