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「・・・とりあえず確認しておきてェんだけど、お前に何かあったって家族が気付くのは何時くらいだと思う?」


体育倉庫に閉じ込められたわたしと銀ちゃんは、悲しいかなふたり仲良く体操マットに並んで座りこれからどうするかについて考えるはめになってしまった。

はあ・・・好きな人とのドキドキ密室シュチュエーションだけど、全然まったく喜べない!体育祭の準備でわたしぜったい汗臭いし・・・!!!!!



第七話





「えっと・・・たぶん11時前くらいかな、いつもそれくらいに家に帰るし」
「は?そんな遅くまで何してんだ」
「10時まで予備校で自習してから帰るとそんなもんだよ」
「お前いまの志望大なら余裕だろ?偉いな・・・」
「ありがとう?・・・ってそんな場合じゃなくて」

いったいどうしたらいいのかわからない。23時を過ぎても娘が帰ってこず連絡もつかないとなると親は確実にめちゃめちゃ心配するだろうし、普通に考えて警察沙汰になってもおかしくない。ぜんぜん体育倉庫にいますけどね・・・。

っていうかもし朝まで出られないとしたら飲み物とかトイレとかどうしよう。食べ物も。
幸いカバンは持ってるから、たしか飲みさしのペットボトルとポッキーがあったような気が・・・そう思いながらカバンの中を探る。両方入っていて少しほっとしたものの、ペットボトルの中のお茶はそんなに残っていなかった。銀ちゃんとわたしでこれを分け合って明日の朝まではキツい・・・。


「ちょっと待ってろよ」
「ん?うん」

どうしたものか、と考えていたら銀ちゃんは立ち上がり体育倉庫のさらに奥に進んだ。そして何が入っているのかわからない引き出しを開ける。


「・・・よし。ひとまずは大丈夫だな」
「なにが?」
「災害用の備蓄がある。何かあったときのために学内のいろんな箇所に置いてあるんだよ。体育倉庫もそのひとつ」

ほれ、と銀ちゃんは引き出しの中を指差して言った。確かに水の入ったペットボトルが見える・・・!た、助かった。


「飲料水と食糧、あと携帯トイレもあるな」
「神じゃん!体育倉庫に閉じ込められたひとたちのためにあるようなもんじゃん!」
「そんなヤツが以前にもいたらもうちょっと対策されてたんだろうけどな・・・」


そう言いながら銀ちゃんはよっこらしょと備蓄をいくつか持ってきてくれた。ペットボトルの水、乾パン、携帯トイレがマットの上に並べられる。


「ほれ。水はしっかり飲めよ、きょうも体育祭の準備で疲れてるだろうしここ蒸し暑いから。トイレは向こうの跳び箱の陰ならそこまで気になんねェだろ、別に覗いたりしねえから安心しろ」
「うん・・・ありがとう」
「いや、こんなことになっちまって悪かったな」
「ううん、元はと言えばわたしが携帯忘れたせいだから・・・巻き込んでごめんね、銀ちゃん」


申し訳なくなり肩を落としながらそう言うと、銀ちゃんは仕方ないなと優しく笑った。あたたかくて大きな手をぽんっとわたしの頭に乗せる。



「お前が俺に謝らなきゃいけねェことなんてこの世にひとつもねーよ。よし、とりあえず身の安全は確保したし改めてどうやったら出られるか考えるぞ」


その声は、眼差しは、あまりにも優しくて。そんな状況じゃないってわかってるはずなのにわたしの心臓はどきどきばくばくと音を立てた。
・・・ああ、わたし。本当にこのひとがだいすきなんだな。

ゲンキンなわたしは災害用の備えを見つけた安心感も相まって、このまま明日の朝まで銀ちゃんとふたりきりでもいいんじゃないかという気持ちになってきた。・・・なんて、そんなこと思ったらいけないんだろうけど。



























とは言ったものの。


「だめだね・・・」
「だな・・・」


その後わたしたちは脱出に向けて思いついたこと(携帯の蘇生であったり大きな音を立てたり出口を探したり作ろうとしたり)をあらかたやったが、結局特に何の進展もないまま時間だけが過ぎていく形となってしまった。やはりいざ出られないとなると無念である。



「・・・いま何時?」
「7時半」
「けっこう経ったね・・・」


幸い銀ちゃんが腕時計を持っているおかげで時間はわかった。しかしけっこう時間が経ったと言えどもまだ7時半。もしかしたら助けが来るかも・・・という希望はどんどん消えていくのに朝まで待つには途方もなく長い。さすがにちょっと心が折れる。

閉じ込められていまで一時間半ほど。体育倉庫に入る前にお手洗いは済ませていたからまだ大丈夫だけど、ずっとがまんできるものでもないし本当にいろいろと腹をくくらないといけないのかもしれない。鬱だ。トイレに関しては本当に鬱である。どうしてこんなことになってしまったんだろう・・・まあ落ち込んでてもしかたないんだけど・・・。



「・・・出してやれなくて悪いな」
「ううん、銀ちゃんが謝ることじゃないよほんとに」
「なんかせめて気が紛れるモンでもあればいいんだが」
「うーん・・・あっポッキーならあるよ!いっしょに食べる?」
「いいのか?」
「うん!」


そう言ってわたしはカバンからポッキーの箱を取り出す。これを買ったときにはこんなことになるなんて、本当に思ってなかったな・・・。

なんて考えながらわたしは銀色の袋を銀ちゃんに渡し自分の分を開けた。2袋あるので半分こである。・・・場所さえ違っていたら本当に友達とか恋人みたいなのに。少しだけチョコの溶けかかったポッキーを口に運びながらおもう。


「銀ちゃんは銀ちゃんがいないことに気づいてくれるひといないの?」
「うーん・・・職員室で最後まで俺が残ることって基本ないからそこでワンチャン」
「あ、や、そうじゃなくて家に・・・あれ、銀ちゃんって一人暮らし?」
「そうだけど」
「ふーーーーん・・・」


そんなことを話しているとわたしって本当に銀ちゃんのことを知らないんだなって少し寂しくなった。わたしは銀ちゃんの先生をやっているところしか知らない。
先生じゃない銀ちゃんはいったいどんな感じなんだろう。この前彼女はいないって言ってたけど好きなひとは?どんな人が好きなの?いままでどんなひとと付き合ってきたの??

生徒はやっぱり恋愛対象外だよね。でも例えばもしここでわたしが銀ちゃんに・・・



「すき」
「は?」
「えっ?」
「え?」

・・・好きって言ったら、どうするんだろうと。

ふと考えただけの、はずだったのに。



「・・・え?」
「・・・・・・・なまえチャン?」



待って、待って、待って待って。
ちょっと待ってちょっと待ってちょっと待ってちょっと待って。



「待っていまわたし好きって言った?」



口を両の手で押さえても当然飛び出た言葉が戻ってくるはずもなく。
目を見開きながらぎこちなくうなずく銀ちゃんに、「冗談だよ!」と取り繕う頭もないほどにわたしはテンパっていた。


どうしようどうしようどうしよう。次に発する言葉が見つからずわたしはあわあわあわあわと慌てふためくのみ。


「えっと、えっと、えっと、えっ・・・」




その時だった。



ガチャン!少し離れた扉の方から重たい金属音がする。



「坂田先生、もしかしていんの?」


日本史の服部先生の声だった。よかった気づいてくれたんだ!!!!!助かった、助かっ、たす、助かっ・・・なんでもっと早く来てくれなかったの?!?!?!