執念の完封 甲子園で見せたプライド


関西浪速と播州姫路の甲子園決戦。


甲子園で野球をする喜びを噛みしめ、もう2度と立つこともないかもしれないこの場で勝つ為に両チームが全力で衝突した。

「やっと戻ってきたんだなと思った。ここは色々詰まった場所だから。」


そう話すのは浪速・森満監督。

森満自身、この試合で勇退が決まっていた。

また相手方の姫路も山岡監督の退任が決定していた。


八幡、今藤ともにこの一戦「覚悟はできている」と一歩も譲らない姿勢を見せた。


その言葉通り初回から両者が実力を見せる。


先にマウンドに登った八幡は気合満点のマウンド。

初球でいきなり自己最速143キロを計測すると3番今藤に146キロを投じて空を切らせた。

「絶対に甲子園で森満先生を連れているのに負けるわけにはいかない。今日は球数に関係なく完封を狙う。」

そう話していたが、想像以上にロケットスタートを切った。



対する今藤も浪速打線に圧倒的な速球を見せる。


最速の148キロを軽々と計測すると3番八幡をカーブでセンターフライに打ち取る。


4回まで八幡は力で押すも押し切れずに粘りの投球を要される。


5回。ついに流れを変える大きなプレーが生まれる。


2死から今藤が一塁の横を破る二塁打で出塁する。


その次の4番山野がライト前へ巧く弾き返し先制かと思われた。


しかし素早いチャージからライトの川端がホームへストライク返球。

タイミングは完全にセーフかと思われていたものがベースの手前でタッチアウトとなる超ファインプレーとなった。


そしてその裏。


先頭の八幡が今藤の初球のストレートを捉える。


高々舞い上がった打球は色んな思いが詰まった甲子園のバックスクリーンへ飛び込んだ。


「入れ!!」

スタンドから聞こえた声がそのまま大声援に変わった。


ダイヤモンドを一周するその姿が雄々しく映る。



今藤は「コースは失投にはなったんですけど、力自体は伝わってたのでまさかあのまま叩き込まれるとは思わなかったです。あいつ一人に負けました。今日は根負けです。」

試合後に思わず笑って完敗を認めた。


止めは8回。川端が出塁すると、またもや3番八幡が左中間を真っ二つ。


ここまで160球を投じ、満身創痍の状態でも気持ちが切れなかった。


「もうここに森満先生と、監督と立てないので・・・」試合後には涙を浮かべる姿があった。


ガッツポーズなどの派手なパフォーマンスをこの世代では禁止していたがこの一打で、あの激走でそんな制約を忘れさせてしまった。


しかし9回。最後の山が訪れる。


無死から連打で2・3塁の大ピンチを作る。

更には二塁手・佐山の野選でピンチを広げた。

「もうあかんかな」


内野陣が集まった中、そんな言葉を思わず溢した八幡に捕手の辻山が

「あともうちょいやん。頑張るで。もうちょいやから。」

伝令の斉藤が

「ここまで来たし、諦めんと拘ろう。完封しよや。」


その言葉に再び息を吹き返した。


1・2番を「ストップウォッチ」とも言われる緩急をつけたチェンジアップで打ち取る。

1番阪本の痛烈なライナーはこの試合精彩を欠いた佐山が前進守備の位置からスーパーキャッチ。

「足引っ張ってばかりだったので、あれくらいしないと。あれで負けたらもう顔向けできなかった。」


しかし最後に宿命のライバル・今藤を打席に迎える。


この時すでに180球。疲労はピークに達していた。


「まさかのあの場面での今ちゃんだったんで、もう変化球なんて考えなかった。三振に取ったろうと思ってました。ストレートだけで。」


高校3年の夏、阪神地区準決勝で対戦した両者。

今藤は八幡に対して変化球は1球も投げていない。それは忘れていなかった。


「覚えてるよ、今ちゃん」



小声で囁いて、無心でストレートで押し続ける。


7球目、球場がどよめいた。

ここに来て自己最速148キロ。


11球目。



インハイの146キロストレートで今藤を空振り三振に打ち取ると両手を突き上げて声を上げた。



そこからマウンドへ歩む足取りは重かった。
帽子で顔を隠し、必死で溢れ出る涙を堪えた。


しかし今藤と握手を交わすと堪えきれず、涙があふれ出た。


試合後、来場者への挨拶でも涙は止まらず。


↓挨拶全文↓

今日は平日にたくさんご来場いただいて本当にありがとうございます。
試合前には、姫路の父兄の方までご挨拶いただきました。

この甲子園で戦う意味は自分には到底、測り得ないものです。
それでも何か重いものを背負っていました。

それが野球人としてのプライドであって、ここに立つにはそれを背負わなければならないのだと自分なりに考えています。

高校時代に散々ケガで時間を無駄にしましたが、まさかこの様な形で甲子園という舞台を用意していただくことができるとは思っておりませんでした。

嬉しかったです。

(言葉に詰まり、スタンドから拍手が贈られる)

姫路の選手からも、プライベートでは仲良くしていたこともあってか
甲子園で投げるのか、ケガはどうやと声をかけてもらい、ここに立つことができました。

今日は僕がこの場に立ってご挨拶させていただきましたが、姫路のチームの関係者方のみなさま
今日はありがとうございました。(姫路スタンドに向かってお辞儀)


試合後の談話

八幡「どうしても甲子園で完封したくて、森満先生にそこを見てもらいたかった。辛かったこともあったし、楽しいこともあった。でも辛いことのほうが印象に残っている。なんでかな、という反面そりゃそうかとも思った。ただ、辛くても本当にここでまた投げたいという強い気持ちは絶対に切らさなかった。そのおかげでここに立って完封で来た。(今藤との直球勝負については)高3の時に投打が逆でしていたのを覚えていたので、今度はこっちからしかけようと。最高に楽しかったです。」

今藤「本当に、凄いやつだなと。体は僕のほうが大きい。大きなケガもあいつほどしていない。でもハートというか見えない力が本当にすごいなと思う。勝てないのはそこが原因かなと。何回やってもあいつとの勝負は飽きない。今回は甲子園でできてよかった。本当に気持ちよかった。」

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