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 気付けばいつもどう生きたいかより、どう生きれば良いかを考えていたように思う。

 物心ついた頃に両親を亡くしてから育ての親となった優しい祖母を安心させようと私は一生懸命で、私の行動の指針はいつも祖母にあった。

悪いことはしない。
弱音は吐かない。
感謝と努力を忘れず笑顔を絶やさない。

 そんな大好きな祖母が風邪を拗らせて呆気なくこの世を去ったのは、私が高校にあがる少し前のことだった。祖母が残した遺産でなんとか高校進学を果たした私は勉学・アルバイト・一人暮らしのあれこれに追われて気付けば1年が過ぎていた。
 高校生になって迎える2度目の春は、朝から晩までわざとアルバイトで埋めた。祖母が遺してくれたお金になるべく手をつけないように、というのは建前で実のところは何も考えたくなかったからだ。ひたすら身体を動かせば思考も止まる。
どこへ向かえばいいのか分からない。
 祖母という指針を無くした今、私は繁忙の渦中に自ら飛び込むことでなんとか形を成しているに過ぎなかった。


 春の少し冷たい夜風が私の頬を撫でる。
 フルタイムで入ったアルバイトの帰り道、へとへとに疲れた頭で課題やらなきゃとか洗濯物がとかお腹空いたなとか取り留めもないことを考えた。
 ふと、足を止めてため息をつく。

「もー…どっか行っちゃいたいなー…」

 視線をあげた先には淡く霞んだ儚げな月。そういえば今日は満月だったっけ。朧月夜という言葉を思い出す。濃紺の空をぼんやりと見上げて一歩踏み出したとき、がくんと身体が落ちた。

 やばい、階段を踏み外した、そう思ってぎゅっと目を瞑ったがいつまで経っても身体に衝撃はこず、代わりにずっと落ちてる感覚が続いた。



潮の香り。


「え!?」


 違和感に目を開けると、一面の青。
 太陽の光を受けて眩しく反射する水面がざぷりと音を立てた。

「なになになになになに!!!????」

 眼前にはあるはずもない青海が迫っていた。


確かにどっか行っちゃいたいなーとは言った!!
でも!なぜ!どうして!!??


 さっきまで春の夜道を歩いていたはずなのに、明らかにここは真昼の海。
 状況をつかめないまま私の身体はまっ逆さまに落ち続け、ついに海面との距離はもう10mもない。

ああこんな訳の分からない死に方をするなんて……!

 私は小学校のプールで初めて味わった腹打ち飛び込みの痛みに備えて身を固くした。


 荒々しく波を掻き分ける音が近付くと同時に、海水ではない何かの上に身体が収まった。温かい。

「なァ、大丈夫か?」
「へ……?」

 頭上から降ってきた男の声にきつく瞑っていた目を開ける。帽子の影と逆光で顔がよく見えない。上手く回らない頭で呆然としているとようやく目が慣れてきた。

「いやァ驚いたな!あんたこんな海のど真ん中でどっから落ちてきたんだ?」

 私を横抱きにしたお兄さんはにかっと笑った。
 そんなの私が聞きたいわ。

青海にて
(君と出会う)