小話 - なんとはなしに

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「なーっはっはっは! よお見とおせ、『だんしんぐふらわあ』の花子じゃ!」
 秋の暮方。御殿の長い縁側で、陸奥守吉行はもらったばかりの土産を仲間に披露していた。
 日が落ちた今、辺りは仄暗く、誰かに物を見せるにしては明かりが少々足りない。現に、彼の手に乗るダンシングフラワーはうっすらとした夜の影に覆われ、色合いが分からなくなっている。形ばかりが薄闇に浮かび、周囲の刀剣男士は怪訝そうな目で小さな機械を観察していたが──喜びはしゃぐ陸奥守吉行にとって、それは気にもならないことであった。
「何だこれ、どうやって動いてんだ?」
 おっかなびっくり。獅子王は背を丸めて花子を覗き込む。
「へえ。すごく揺れてるね、上下に。……ソレの事だよ?」
 意味深な台詞を舌に乗せ、妖しく笑うにっかり青江。
「どこで拾ったんですか?」
「……ずっと同じ動きしかしないのか」
「拙僧の修行に役立つものであるか?」
 堀川派の刀たちに囲まれた陸奥守吉行は、ニンマリと口角を上げる。
「なんじゃなんじゃ、知りたいか」
 勿体つける付喪神を、堀川派の刀剣らは興味津々な瞳で見つめた。獅子王やにっかり青江もまた、花子の説明をせんとする陸奥守吉行に視線を移す。
「この花子は、離れの人間にもろうた。わしらの時代にはない珍しい機械ぜよ」
 ういんういんと静かに動くダンシングフラワーが手のひらごと差し出され、皆、物珍しさに花子に見入る。
「ここの出っ張り……『すいっち』を押すとな」
 電灯も行灯もない黄昏時。もちろんスイッチなぞ見えなかったが、神々はまじろぎもせず陸奥守吉行の指先を凝視し続けた。聞こえるか聞こえないかの「カチッ」という音と同時に、花子はピタリと静止する。
「お、止まった」
「そら、もう一回じゃ」
 ……カチ。
「わあ、動いた」
 感嘆の声をあげた堀川国広。気を良くした陸奥守吉行は得意満面で胸を張る。
「むっふっふ……まっことすごいカラクリにゃあ。この動きしかできんようじゃが、十分ぜよ」
「で、その『だんしぐふらわあ』にはどんな効果があるんだい?」
 にっかり青江に尋ねられ、坂本龍馬の佩刀は笑顔のまま固まってしまった。
「おお、気になるな。どんな用途があるものか。拙僧に新たな修行を指し示してくれればよいのだが」
 不自然なまでにフリーズする陸奥守吉行へ、山伏国広は何の他意もなく問う。
 しばらく無言で思考停止していた刀剣男士は、か細い声で「そりゃあ──わからんのう」と言い、癖毛の伸びる頭をガシガシ掻いた。
 効果、用途。どちらも大事なことであるというのに、あの時彼は、喜びのあまり聞きそびれていたのである。
 女が土産にくれた花子、もといダンシングフラワー。それが自動で揺れるだけのオモチャだということを、彼はまだ知らない。

 *

 紺青の空に星が輝く。審神者の土産を珍奇の眼差しで注視していた刀剣男士らであったが、皆次第に飽きて方々へ散っていった。
 ちょっとしたお披露目会の最後の最後まで残っていたのは、山姥切国広。彼は翌日、陸奥守吉行のもとを訪ね、何をするでもなくダンシングフラワーをじっと見つめていた。姿勢や座る位置を時折変え、正面から、斜めから、隣から、後ろから──無論、花子は稼働しっぱなしである。
「なんじゃ、山姥切。そんなに気に入ったがか?」
「……そういうわけじゃない」
「嘘はつかんでええ。朝からずーっと花子を見ゆうやか」
「……」
 ぐっと黙り込む写しの刀。陸奥守吉行は豪快に笑って背を叩く。彼には分かっていた。何せ、昨晩の山姥切国広といったら別れる間際まで花子を眺めており、今日は今日で陽が昇ってすぐ会いに来たのだ。山姥切国広がこの小さな機械を好いているであろうことは、明らかである。
 ただ、陸奥守吉行に花子を譲る気は毛頭ない。なので……。
「よーし。今度、もう一つもらえんか聞いてみるき」
 彼はダンシングフワラーをもう一体頂戴することにした。まだ残りはあるのか、金銭面は大丈夫なのか、気がかりは幾つかあったが、彼はなんとなく、あの審神者は、あの審神者ならくれるだろうと思っていて。
 坂本龍馬の愛刀はニカッと破顔し、目深に被られた布の中を覗く。山姥切国広は、青とも緑ともとれぬ色の瞳を見張った。
「……いいのか?」
「まっはっは! まーかせちょけ!」
 写しの刀剣は頼もしき返事を耳にして、心にぽっと嬉しさを灯す。やはりこの刀、花子をいたく気に入っているようだ。
 実力は充分なくせに色々とこじらせてしまっている打刀。どういうわけか、彼は上下運動しかできぬダンシングフラワーに癒やしを感じていたのである。
「すまない」
 感謝の気持ちも交えて言えば、陸奥守吉行は「なんちゃあない」と明るく笑った。
 若草色の畳の真ん中、花子は静かに動いている。障子越しに太陽の光を浴び、ゆらゆらと体を踊らせる姿を、山姥切国広は飽きもせずに眺めていた。

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