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ひどく困っているようだった。とても焦っているようだった。
ならば自分が力になれないかと、いや、力になりたいと思った。そして、あわよくば──。
*
(くそっ……どこにあるんだ?)
草木も眠る丑三つ時。へし切長谷部はひんやりとした地面に膝を着き、背丈の低い草むらへ目を凝らしていた。
空は晴天。今宵も夜空で月と星が静謐に光を放っている。されど、月明かりで闇の全てを払えるわけではない。
(こう暗くてはある物も見えん)
心の内で悪態をつきつつ地に手を這わす彼は、とある探し物をしていた。離れの女が失くしたという、細く小さな筒状のものを。
体調が悪い中、よろめきながらも彼女が探そうとしていた物。管狐が前足で示した大きさは三寸ほどで、幅はへし切長谷部の指より少し太いくらい。臙脂色の生地に兎の柄が入っているという、それは。
(──こんのすけは「とても大切な物」と言っていた)
見つけて返せば助けになるだろうか。喜んでもらえるだろうか。
今、へし切長谷部を動かしているのは、純粋な厚意と、そして──。
(俺が役に立てば、あの方は)
仄暗くも熱く焦がれる、「主」への強い憧れ。
彼は、見事成果をあげれば女に「使いたい」と思われるようになるかもしれないと、ほんの僅かに考えていた。
役に立ちたい。立ってみせる。
ひたむきな気持ちで一心不乱に草の根を掻き分けるへし切長谷部。そこへ、一振りの刀剣男士が訪れる。
「長谷部、何をしている」
身幅が広く、切先のよく反った長柄の武具を携えたその神は、巴形薙刀だった。
「……巴形、薙刀」
へし切長谷部は膝立ちの状態で片眉を顰め、どこか苦々しくかの付喪の名を呟く。
「地面に何かあるのか」
薙刀が打刀へ尋ねれば、少しの沈黙ののち、歯切れ悪く「探し物だ」という返答がなされた。物探しの手を止めている付喪神は、女が失くし物をした事や、己がそれを探しているという事を知られたくなく、言い換えれば、自分以外の刀剣男士に見つけて欲しくなかった。他の誰でもない「自分が」という思いが強かったのだ。
「ふむ、探し物か。手伝おう」
親切心から出た申し出だったが、この時のへし切長谷部にとっては妨害でしかない。万が一に巴形薙刀が見つけてしまったら、と考えると、得体の知れぬ不快感がじわりじわりと滲んでくる。
「いや、俺だけで十分だ」
決して荒い口調ではない。しかし、頑なで、強張っていて、遠慮をしている声音とは程遠かった。つまるところ、断固たる拒否である。
打刀の態度に異変を感じた薙刀の目つきが、探るようなものへと変わった。星明かりを照り返し、片眼鏡がきらりと光る。
「……何を探している?」
「なんだっていいだろう」
つっけんどんに返される言葉に「これはおかしい」と懐疑を深め、巴形薙刀は熟考する。そうして、ピンときた。
「離れの人間の持ち物か」
「──っ」
かくもあっさりと言い当てられ、へし切長谷部はひどく動揺した。すぐに違うと否定し、適当な嘘でもつけばよかったものの、面食らったせいでそれができない。打刀の気持ちの乱れを見抜いた薙刀は、己の解が正しいことを確信する。
「そうか。……そうだったか」
新たな審神者に惹かれ始めているへし切長谷部が、新たな審神者の持ち物を探している。こんな夜更けに一振りで。しかも、その事実を隠そうとした。誤魔化そうとした。
これらが意味することは、如何に。
顎に手をやり、「ふむ」と独りごち、どうするべきかを思案する巴形薙刀。敏い彼は、目の前の付喪神がとった行動の意図を、心情を、どことなく分かっていた。
これまでの付き合いの中で、それなりに知っていたのだ。へし切長谷部の内面を。