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全裸よりも質が悪い。
 ナイスアイディアとでも言うようにしてやったりと笑顔を掲げながら目の前で広げられたキングタンクスラッシュを見下ろした瞬間、触れてもいないのに心臓が跳ね上がる自身の邪さに思わず溜息が落ちる。
 まさか幼馴染が急にあのような提案をするとは思ってもみておらず、自覚する程に微妙な反応をしてしまったせいか、恐らく着用済みのものを提供した事により嫌な気持ちにさせてしまったのではと変に気遣わせてしまったようだったがその点に関しては全く不満はなかった。
 そもそも店に一人暮らしをしていた時から持っているフクが少なかった事、そして元より清潔さが保たれた生活からはかけ離れていた為(毎回しっかり洗濯していたのは恐らく貸出用のタオルのみである)、洗濯物を溜めてしまった時は仕方なしに裸で寝たりずっと洗っていなかったFCジャージーを何度も繰り返し着続けていた事も少なくはなかった。それ故に勿論、幼馴染の提案はとても有難いものではあったのだが、今となっては恋人でもある彼のフクを、しかも既に一度着ているものを着用するとなると正直冷静を保っていられる自信が今の自分にあるとは到底思えなかったのだ。

(っ…ただでさえ、最近お店忙しくてシてなかったのに。アレ着ちゃったら、もう我慢できないよ)

 あまりに沸いた頭を冷やしてこようとデッキブラシを持って店の風呂掃除を試みるも結局行く先の突破口は開けそうにもなく、しかし性欲が収まらないからといってフクを着ない事を選べば、自然と幼馴染を傷付けてしまいそうな気がしてその選択肢はさらさらと風と共に消えていった。となるとつまり、今日は互いに疲労が溜まっている事もあり、例えフクを借用してでもすぐさま布団に入ってしまえば眠りにつく事が出来るであろうと自制心を信じる他なかった。

「…よし、スッキリ。っと、その前に…布団、先に敷いちゃおうかな」

 今日は色々と我儘を聞いてもらった建前、さすがにこれ以上は幼馴染にお願いする訳にもいかず。よし、と独り言のように覚悟を決め、ふと水道の蛇口を捻る前に居間の様子を窺おうと足を湿らせたまま静かに戻ってみれば、そこには意外にも既に布団を敷き寝息を立てている彼がいて。

(あらら…それだったら、俺ももう寝ちゃおうかな…)

 着ていたフクを畳の上に投げ捨て、いつもの通り裸で転がっては直に伝わる布団の肌触りが気持ち良かったのか、そのまま意識を沈めてしまったらしい幼馴染を見下ろしながら小さく苦笑を漏らす。
 それならばと風呂は早々に諦め自分も着替えてこのまま寝てしまおうと思い立ち、畳みに散らばったフクの上へ重ねるように自身が着ていたフクも全て脱ぎ捨て、ぶるりと感じた寒さに耐えかねて慌てて部屋の片隅に畳んで置かれていたキングタンクスラッシュに着替えたその直後、油断をしていたばかりにその軽率すぎた行動をすぐさま後悔する羽目になったのだった。

(あっ…う、うぅ。やっぱり、すごく匂いがするっ…!)

 彼のフクの中でも比較的新しく購入したフクとはいえ、既に何度か着用をしているものである故か、彼自身の匂いとぬくもりが不思議と強く感じられ、まるで媚薬のように頭がぼうっと熱で逆上せていく感覚に慌ててぶんぶんと首を振っては払い除け、考えれば考える程沼に嵌ってしまうと危惧し急いで彼が眠っている布団の中へと潜り込んだ。

(は、早く寝なきゃ。寝ちゃえばきっと、大丈…)

 思っていた以上に幼馴染が夢の世界へと旅立ってから時間が経過しているのか、足を入れてみると体温によってじんわりと温まった布団はとても気持ちが良く、下を履いていないおかげで肌が野晒しになっていた両足がそのぬくもりに包まれた瞬間、思わず体を丸めてはふへへと情けない声が漏れてしまった。
 これならば良い具合に眠気を誘ってくれるかも知れないと期待を胸に込め瞼を落としてから三十分が経過した頃。

「…っ、だ、ダメダメ…! ダメ、だって…俺の、ばかぁっ…!」

 結局眠気のねの字さえ訪れる様子もなく、それどころか布団よりも彼に包まれているかのような温かさに胸の奥は暴れ続け、そのあまりにうるさすぎる鼓動のせいで、羨ましいくらい気持ち良さそうに隣りで沈んでいる幼馴染を起こしてしまわないか不安で仕方がなかった。
 そっとフクの裾を捲り、自身の下半身を覗いてみればそれはそれは完全にアレが勃ちあがっているものだから、これだけは絶対に見られる訳にはいかない。と言えど、この興奮が収まらない限りは眠りにつけない事は分かり切っている為、どうにかして溜まりに溜まったものを放たなければならなかった。

(うぅ…どうしよう、我慢、出来ないっ…!)

 兎にも角にも、彼が欲しくて堪らない。
 自慰だけでは到底鎮火してくれそうにもない熱に頭の中はくらくらと靄を帯び、少し油断でもすれば無意識に彼へと手が伸びてしまいそうなくらい意識が混濁している自身に対して慌てて唇を噛み首を振った。それでもやはり奥底から込み上げてしまったものを止める術はなく、自身でも気付かない間に仰向けに眠っている幼馴染を覆い被さるよう腰の辺りを跨ぎ、そのまま両脇に手を着いては太腿の間へと擦りつけるように腰を動かしていた。

「あっ…ん、ヨリ…ッ! ごめ、ごめん…っ、ぁ…んぅ」

 既に先端から溢れ始めている白濁が彼の褐色肌の上に浮き、にゅくにゅくと温もりの中で上下に擦れる陰茎はみるみるうちに膨らみを増していった。必死に噛み締め抑えていた声もいつしか熱い息と共に零れ始め、今にも奥底から溢れ出しそうな欲にごくりと息を呑んだその時。

「……なーに、勝手にやらしい事してんだ。お前は」
「う、わぁあ! お、起き…お、起きちゃっ、た?」
「ご覧の通り、ぱっちりお目覚めでございます。人が寝てる間にんな事おっぱじめちまうどっかの誰かさんのせいで、なッ!」

 行為に夢中になっていたせいで彼がいつ目覚めたかさえも覚えておらず、小さく溜息を吐きながらこちらの腕を掴んではそのまま体を押し倒される。先程とは打って変わり布団に沈んだ背と天井を背景に映る幼馴染のにやにやとした意地の悪い表情が目の前に浮かび、すっかり主導権を握られては額に落ちる口付けと、距離が縮んだ事により強くなる彼の匂いにぞわぞわと震える正直な体にげんなりと肩を落とした。

「っ、う…だ、だめだよ…! 今日はヨリだって疲れてるのにっ…」
「これからケツ突かれんのはお前だけどな」
「うっわ、最悪。何そのクソつまんないギャグ、ふざけんな今すぐ寝ろ」
「まぁまぁ、まぁまぁまぁまぁ」

 一体何処からその自信が生まれているのか、得意げに寒すぎる冗談を放つ幼馴染に少々引きつつも、そっと耳元へ寄せられた顔、何だと問いかけようとした寸前に我先にと小さく呟かれた言葉を瞬時に理解する事が出来なかった。

「…そう言う割には、そんなになっちまう程、俺とセックスしたかったんだろ?」
「あ、うっ…うる、さい…! ばかっ…」
「最近忙しくてシてなかったもんなぁ、まぁそろそろ我慢できなくなっちまっても仕方ねぇか」
「う、ぅうぅうっ…! よ、ヨリがこれ着ろなんて言うから悪いんだからねっ、このスカポンタン!」

 さすがに八つ当たりもいいところだという自覚があったものの、何も反論せずにいられる程他に照れ臭さを誤魔化す方法など知らず。
 ぽかぽかと彼の胸元を握り締めた手で殴っていると、辛抱堪らんとばかりにその両腕ごと片手で頭上へと縫い付け、そのままたくし上げられたキングタンクスラッシュの中からはらりと露出した傷一つない体をもう片方の手のひらで撫でるように滑らせる。ぴんと立ち切った、仄かに赤く染まる胸元が擦れる度に小さく声が漏れ、我慢をしようと口を塞ぐも舌を捻じ込むように重ねられた口付けに一瞬で暴かれてゆく。

「んっ…ふ、ぁあっ…!」
「…へへっ。俺のフク着たマゴと今からすんのかって考えただけで、なんかスッゲー興奮する…」
「こ、この変態っ! もしかして、最初からそのつもりで…!」
「えっ!? あ、その…決してそういう訳ではなく、あくまでもお前が風邪引かねぇように、って…まぁでも、ちょっとはそう思っては…いっでぇ!」

 やれやれと呆れた表情から一転、本心を突かれたのか急に萎んでいく声に腹が立ち、唯一自由に動かせる足で股間を蹴り上げると、腕を拘束していた手を離しては後ずさりするように距離を取ってゆく。さすがに手荒くしすぎたかと少々心配をしていた最中、あろう事かそのまま立てていた膝と膝の間、肉付きの悪い太腿の間に顔を沈ませぎんぎんに勃った自身の陰茎を咥えては厭らしい水音を立てながら口内で扱き始めたものだから居た堪れない。
 右手で根元から握り押し上げるように上下しつつ、その先端はしっかりと口の中で搾り取るように扱く動きに思わず体から力が抜けそうになり、あまりの気持ち良さに涙が溢れそうになるのを必死に耐えながら側で丸まっていた布団をぎゅっと握り締める。それでも最早限界だった欲は収まる事を知らず、もう駄目だと咥えた彼の中で出してしまいそうになったその時だった。

「っ、は、あ…ん、うぅうっ! な、なん、でっ」
「…出していいなんて、一言も言ってませーん」
「ひ、ひどいっ…も、苦しくて、死んじゃ…ぁ、やあぁ!」

 全てを吐き出そうと体から力を抜こうと思った瞬間、根元を握っていた彼の手に痛みが生じる程の力が籠もり、激流となって流れていたものが止められあまりの辛さに思わず涙が零れそうになる。
 そんな苦しみなど素知らぬふりの幼馴染は臀部の下へと手を潜らせて、まだ閉じたままの後孔からずぶずぶと指先を押し入れていく。肉壁と肉壁の間を剥がすようにぐりぐりと捻じ込み、もう何度弄られたかも分からない程に熟知されている奥の一ヵ所をとんとんと突かれる度、びくりと体が震え抗う術などなく自然と腰が浮いてしまっていた。

「そこ、やだっ…! やめて、ぁっ…ん!」
「今日は俺がいいって言うまで勝手に出すの禁止だかんな」
「ぁ、やぁっ…なんで、そんな意地悪、言うの…!」
「勝手に俺でオナった罰。悪い子にはお仕置きしねぇと、だろ?」

 にやにやと厭らしい笑みを浮かべながら、まるで楽しい悪戯でも思い付いた子供のように見下ろす幼馴染に腹を立てるも、この状態では今にも外へ出たいと訴えてくる欲にさえ打ち負けそうになり、仕方なくゆっくりと上げた足を彼の両肩へと掛けた。そしてそのまま腰を浮かせ、慌てて指を引き抜かれた後孔をしっかりと見せつけては、自覚がある程に顔を真っ赤に染め上げながらほぼほぼ八つ当たり気味に言い放ったのだった。

「へぇ、そう…だったら、ヨリが気が済むまでお仕置きでもなんでもすれば!」
「うおっ! な、なんだよ…いつもギャーギャー文句言うクセに今日はやけに素直じゃねえの…」
「っ…仕方、ないじゃんっ…だってヨリの事、ほんとに、好き、なんだもんっ…! ぐすっ…シたいってっ、思うの…そんなにおかしい…?」

 正直申しまして、こんな言い回しをするつもりはありませんでした。
以上、後日この夜の事を思い出しては幼馴染にからかわれては咄嗟に口から出てしまった、あまりにも恥ずかしくいくらなんでもアホすぎる自身の言葉である。
 全く言い返せない悔しさで気付けばぷっくりと涙が浮かび、声も情けない程に濁りを含めては次第に萎んでいく。完全に後戻りのできない拗ね方をしてしまったばかりに頬を膨らませながらふんと横に振った首、そのまま視線を外して静かに黙っていると、しんとしてしまった空気の中へ重い溜息がどすんと落ち、無意識に再び向けた視線の先には何故だか落胆し俯いてしまった幼馴染がそこにいた。

「あ…の、どうか…しました?」
「……はぁ…。マゴよぉ、お前さぁ…自分で今何言ったか分かってんのか?」
「な、何って…別に…」
「ま、そんなこったろうと思ったけど…俺もお前とシてぇなって思ってたのは事実だし。今の今まで気付いてやれねぇで悪かった。だから…」
「でも、本当に疲れてない…? 今日は買い物とか色々、付き合ってもらっちゃったし」
「俺だって行きたかったんだからよ。付き合ってやったとか、そんな風に思っちゃいねぇっての。つーか、寧ろ…」

 めちゃくちゃ興奮してる、とそっと零してゆっくりとどこか嬉しそうな笑みを浮かべながら顔を上げた幼馴染は、肩に乗せたままだった両足の足首を掴み上げ胸元に膝が付くまでにぐいぐいと押し込むと、いつの間にか太く垂直に勃ち上がっていた陰茎を宛がい、そのままゆっくりとその先を中へと沈ませていた。

「はっ…うぅ、よ、りっ…!」
「まだ…もう、ちょっと…」
「ふ、あぁっ…ん、ひ、あぁ…! っあ…や、ん…あついっ…」

 腰を上げぬちぬちと厭らしい音を立てながら更に奥へと押し入れ、その根本までが入り切ったと同時に互いに大きく吸った息を吐き出す。はらりと胸元まで捲り上がったキングタンクスラッシュからちらりと覗いた飾りに口付けを落としながら、そのまま目の前へと顔が近づきすり寄るように首元に埋めた直後、ちくりと小さな痛みが生じて思わず声を漏らした。

「ひ、うっ」
「おっ、付いた」
「ば、ばか! 見えるとこ、やだって言ったのに」
「隠せるフク持ってんだろ、恥ずかしいならそれでも着とけ。それとも…嫌だったか?」
「う、ぐぐ…その聞き方はちょっとずるいぞっ」

 今は見えずとも恐らく赤く跡が付いているであろう首元をそっと摩りながら、目の前でさぞ嬉しそうに口角を上げる幼馴染の純粋な笑顔にふつふつと熱が昇った。ごくりと息を呑んでいる間にも腰を前後に動かしては挿入を繰り返し、布団に沈んだ後頭部に右手を差し入れてそのまま持ち上げては何度も何度も口付けを落とされ、口元から抑えられるはずもない自身の甘い声とかさついた褐色の手のひらに頬を撫でられながら嫌でも耳に入るぐちゅぐちゅという水音に頭の中はふわふわと浮かされていた。

「は、ぁっ…や、ぁあ! よ、りっ…ぁ、んッ! だめ、ほんとに、俺、出ちゃ…ぁ、んうぅ!」
「っ…もっと、素直になれって…! ここ、お前好きだろッ」
「は、ひぅっ! や、やだ…そこ、そんな激し…の、だめぇっ! より、よりぃ! ぁ、ん、うぅ…ひ、あぁあっ!」

 自然と彼の首に回る両腕、密着する互いの体と突かれる度にびりびりと電流のように体全体へ流れる強い快感に耐えられず、二人しかいない部屋の中で響く甲高い嬌声と、ぽろりと瞳から落ちた涙が頬を伝い敷かれた布団の染みとなったその時。抑え込んでいたはずの熱がどくどくと腹の底から一気に湧き出そうになった瞬間、あまりにも優しい薄茶色の瞳がそっとこちらを静かに見据えていた。

「…一緒に、イくぞ。いいな」
「う、んっ…俺も、一緒がいい…っ、ぁ、あんっ! は、早く、ちょ、だ…ぁ、ヨリが、欲し…ぁ、ふあぁ…っ、やあぁん!」
「マゴッ…!」

 中でぐいぐいと奥までぶつかる程に挿し込まれた陰茎と、そして自身のびくびくと奮い立った先からようやく解放されたとでも言う程の大量の熱が解き放たれ、腹の奥がじわじわと埋め尽くされていく感覚と同時に勢い良く外へと排出された白濁が下半身を汚していく様子など気に留める余裕もなく、そのまま幼馴染にぎゅっと体を抱き締められぬくもりで満たされてゆく感覚にそっと瞼を下ろしてゆく。
 荒々しい熱い吐息と離すまいと言わんばかりに力を込めた筋肉質の腕、その中で薄れゆく意識と自身を綽名を呼ぶ彼の聞き慣れた声が実に心地良く、萎みかけた視界の中でそっと触れるだけの口付けを交わしてはそのまま闇の中へと沈んでいった。


***


「…と言った感じで、大変かわいらしゅうございました」
「ぐ、うぅうっ…くっそ! やめろ! もう思い出したくない!」

 割と最後まで致してしまった昨日から一夜が明けた朝。先に目を覚ましたのは限界に達して意識を飛ばしてしまっていた、今目の前で真っ赤になった顔を両手で覆って俯いている幼馴染で、起きた瞬間に昨夜自分が何をしていたのか思い出してしまったのか、それから布団の上でのたうち始めて既に数時間が経過している。
 結局二人して果てた後、静かに眠りについた幼馴染の体をある程度清め、すっかり汚れてしまったキングタンクスラッシュを脱がせては丸めて居間に投げ捨てると、疲労が溜まっていた事もあってかお互いに全裸のまま布団を被り朝を迎えていた。くっ付き合って眠ってしまえば風邪を引く事もないだろうと思い、しっかりと彼を抱き留めながら眠ったはいいものの、寝起きにはしっかりとお怒りのお言葉を頂き(何も悪い事はしていない)、信じられないと半ば逆切れのような形でぷんすかご機嫌を損なうものだから手が付けられない。
 と言えど、それは彼にとってただの照れ隠しだというのは長年の付き合いで十分に分かりきっていたので、どうこう注意するでもなく素直に自分が悪うございましたと頭を下げたものの、それはそれで納得がいかなかったのか、すっかり拗ねてしまった幼馴染を面白半分でからかい始めて現在に至る。

「もう…! 意地が悪いにも程がある!」
「仕方ねぇじゃん。お前の弱みに付け込んでつんつんできるなんて滅多にある事じゃねぇし」
「何も仕方なくなんてないんですけどッ」

 膨らんだ頬を指先で突つきながら台所で朝飯を作っている幼馴染の意気消沈具合はなかなかのもので、いつもなら上手くいく半熟の目玉焼きもしっかりと熱を入れられしまい(寧ろ焦げている)、焼いた食パンにバターと間違えてマヨネーズを塗ってしまう等、余程焦っているのか本調子が出ていないのは確かであり、それを見兼ねて悪かったともう一度一言謝ってはようやく冷静さを取り戻したのか、こっちこそごめんと照れ臭そうに苦笑しながら返事が返ってきたのだった。

「ま、たまには素直になるのもいいんじゃねぇの? …昨日のお前、いつもより可愛かったぞ」
「う…るさいッ! そうやってすぐ掘り返すところがなぁ!」
「ちょ、待って! それはほんとに危……あっづい! いや、ほんとにあっちぃっての!」

 そっと耳打ちした言葉のせいで再び火に油を注いでしまったらしく(我ながら学習能力がない)、本日何度目かも分からない真っ赤な顔を掲げながらまだ火から放したばかりのフライ返しを逆手に持ってバシバシと叩き付けてくる幼馴染に文句を言いつつも、どこか楽し気に台所を駆け回りながらじゃれ合う彼の笑顔につられてげらげらと声を上げたのだった。


(2018.05.17)


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