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うつらうつらと夢の世界へと旅立っていったはずの意識は、その中で突然鬼の形相で姿を現した幼馴染の眉間に深く刻まれた溝と耳の痛い怒号で一瞬にて現実へと引き戻された。ひんやりと空気の冷えた狭いトイレの中で便座に深く座り込み、腕を組んで俯きながらこっくりこっくりと寝息を立てていた数分前の閑静さが嘘のようで、気付いた時は履いていたスウェットを脱がされては、腕を掴まれ無理矢理に立たされた体を扉に押し付けられた。その背後から包み込むように回された両腕と裾から侵入した肌を撫でるように這う両手が巧みに胸元と下半身を同時に攻めてきて、その快感に耐えるのに必死で壁に手を付いたまま俯きじっと唇を噛み締めた。
「っ…う、ん、ふぁあ…!」
ハラシロラグランを挟んで密着する彼の胸板と自分の背のぬくもり、そして小さなリップ音を響かせながら項と首筋に落ちる口付けがこそばゆくて仕方がなく、逃げるように身を捩らせる度に体を引き寄せ、臀部の割れ目に食い込ませるように既に大きく誇張したものを押し付けられた。
「や、だっ…も、お願い、許してっ!」
「だーめだ。俺がいない間にバカやってた罰。しかも、何であいつら店に泊めてんだよ」
「し、かたない、じゃんっ…ヒナタくんち、停電でっ…あ、んんっ」
「…チッ。どうやら、お仕置きが必要みてぇだなぁ」
ねっとりと纏わりつくように熱を擦り付けられて、しかし焦らすように挿入する事はなく今にも溢れ出そうになっているものまでも、根元を二本の指で塞き止められ欲望を吐き出す事も出来ないまま崩れ落ちそうな体を保つだけで精一杯だった。
「おら、どうして欲しい。その口で言ってみろ」
「ひ、どい、よっ…分かっ、てる、くせにっ…!」
目に生理的な涙を浮かべながらそっと振り向くと、目の前にはぎらぎらと睨みを効かせてにやりと口角を上げている幼馴染の生意気そうなしたり顔が視界の隅に映った。胸元の突起を弾くように弄り、下半身は扱くように上下に擦り上げられ、しかし絶対に挿入をしない上に果てる事さえ許されない酷すぎる状況にいつしか嗚咽が上がり、肩を震わせながらぽろぽろと自分でも止められない程の涙が溢れては床へと落ちて弾けて消えていく。
それを察した幼馴染が耳元でぼそりと一言、慰めでも何でもない、寧ろこの状況を楽しんでいるかのような苦笑の混じる声をそっと落とした。
「…俺がなんで怒ってんのか分かってるか?」
「っ、えと…ヨリの事、のけ者に、しちゃ、た、からっ…」
「…当たりだけど、はずれ」
「何そ、れっ…! も、わかん、な…いっ…あっ! ふ、あぁ!」
吹きかかる生温かい息と甘い声が脳へ直接ガンガンと響き渡り、片腕で今にも崩れ落ちそうになる体を腰で支えられ、がくがくと震えだした両足にも構わずひくつく後ろにずぶずぶと肉を裂きながら侵入する太目の指に思わず息が詰まった。
「はっ、あ、うぅ、あぁあっ」
「ごめんなさいは?」
「ひ、うっ…ごめ、ごめんなさっ…」
「聞こえなーい」
「うぐっ、ひどい、ヨリのあほっ…! ぐすっ」
「…ったく、そう簡単に泣くな! それでもボーイか、お前は!」
「だ、だっでぇ! も、むり…お願い、早く! っう、あぁ…ふぁあ!」
中を押し広げるようにぐいぐいと捩じ込んだ指を引き抜いて、幼馴染の見るに堪えない大きさにまでそそり立った先端が前振りもなく一気に奥まで突かれては、体中にびりびりと強い電流が流れていくのを感じて微睡んでいた頭の中が一瞬でホワイトアウトする。意識を失ってすぐ、こじ開けるように突き上げられたピストンで中が擦れる感覚に再度呼び戻され、自分でも驚く程の善がる声に力の入らない手のひらで口を塞いだ。
「っ、う、ふぅっ、あっん! うぅ」
「ばか、我慢すんな。今更だろ」
「…あ、やだ! んっ…恥ずかし、いっ…!?」
口に当てていった手のひらを掴み取られ、そのまま引き寄せられるように体勢を崩されたかと思えば、繋がったまま便座の上に座った幼馴染の膝の上に乗せられては、顔のすぐ横から覗いた彼の眉をひそめた表情が見え、貫く視線につられるように振り向いて激しい行為とは裏腹に触れるだけの優しい口づけがそっと落ちてきた。たった数秒間、しかし何十分にも感じたその口づけがゆっくりと離れ、呆然と眺めていると不意に腰が動き深く座り込んだせいで先程よりも奥まで入り込んでくるものがどくどくと漲り、今にも爆発しそうなそれにごくりと息を呑んだ。
「あっ、あ…ん、きも、ちっ…や、んっ、ん!」
「っ…マゴ、マゴッ…」
「ひっ…あ、あぁああっ! ヨリ…よ、りっ! んっ…う、あ、あぁっ!」
ごぽごぽと、中で勢いよく唸る熱が溢れてゆく。脳天がかち割れるような、しかし既に何度も経験しているはずなのに一つも慣れる事の出来ないその衝撃で弓なりに反っていく体と、壊れそうになる程にきつく抱き締める両腕が愛おしく感じて、薄れゆく意識の中でそっと呟かれた言葉が小さく耳元に落ちたのだった。
「…おやすみ、トキ」
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「おいしーい!」
「…二日酔いっていう割には、よくそんな甘いの食べられますね…」
「甘党だからな、コイツ。そんでもって、そこの老け顔ボーイくんも」
「……美味い」
あまりに想像をしていなかった事態を迎えてしまった夜が明けた次の日。
互いにあまり深く干渉しないまま、朝方に脱衣所でばったり出会ってしまった四人の、その直後に一体何が起きたのかを早急に察知し何事もなかったかのように風呂で仲良く(勿論、無言である)体を清めた後、すぐさまお暇しかねなかった二人を引き止め簡単に作った朝飯を済ませると、幼馴染が昨夜買ってきていたらしいショートケーキを今まさに、コタツを四人で囲みながら食べている。流れていた妙な空気も次第に解れてゆき、しかしお互い避けるべき問題のある話題には触れず、記憶が多少混濁しているせいもあって特に昨夜の事を言及するつもりはなかった(何かしら、嫌な予感がする)。
と言えど、お客さんがいるというのに大変お聞き苦しいであろう声を出しながらトイレで色々と済ませてしまった記憶は勿論残っており、意識を飛ばして看板娘の布団の中で朝を迎えた時は久しぶりに危なく本気で死んでしまいたいと思いつつも、数時間経過してしまえばいつしかまぁいいかと軽く考えられるもので、今では特に問題なく今日の夕飯の献立だけで頭がいっぱいである。
特に迷惑を掛けられていないどころか、こちらが掛け放題だった訳だったのだが、何故だか申し訳ないという表情で謝るヒナタくんにどうどうと頭を下げているのを必死に止めて、貸していた布団が大惨事になっていると聞かされてもそもそも想像をしていた通りの展開だったので別段驚きもせず、一言、知ってるよと何も考えずに返せば彼の表情は一瞬で真っ青になり今にも死にいくような顔をしていたので、なんとか元気を出してもらうよう半分残っていたショートケーキを一口分掬っては口の中へと突っ込んでやった(何故か幼馴染にしこたま怒られた。お前は関係ないだろ)。
「あの、布団、弁償しますから…ほんとすいません…」
「いやいや、洗濯すれば大丈夫だよ」
「俺は弁償してもらった方が! よっぽど! いいと思うけどな!」
「え、いいよ。お前いつからそんな潔癖症になったんだ? 今まで散々外ふらついてた癖に」
「そういう意味じゃねぇ! この鈍感バカ!」
「あっ、俺の苺ー!」
ぼうっとした頭で残りのショートケーキを食べながらぼやいていると、最後に食べようと思い残しておいた苺をひょいと掴んではぱくりと食べられ、あまりのショックにコタツ机の上に置かれた看板娘のクラゲのぬいぐるみを顔面に勢い良く投げつけてやった。テレビを見ながらその様子を眺めていたヒナタくんはただただ困ったように苦笑し、その隣りで未だショートケーキを食べていたマサキくんは気を遣ってか同じように最後まで残していた苺を手に取っては、自分のケーキの上にそっと乗せてくれた。
「いいの?」
「…いい。別になくても構わん」
「やったー! 頭にオクタグラスつけた勝手に人の苺食べちゃう、どっかのスカタンおじさんとは違うね」
「ふざけんな! それも寄越せ、代わりに食ってやる!」
ケーキの乗った皿を持ち出してはコタツの周りをぐるぐると駆け回り、こんなにも彼が苺好きだったっけなぁと、思い当たる節のない記憶を探りつつ、残りを食しながら居間を飛び出し台所まで走って逃げてきたものの、ようやく手にした苺を口の中へ放り込もうとした瞬間にがっしりと腕を掴まれた。やばい、と思った直後には時すでに遅し。すっと取り上げられた苺はあれよあれよと言うままに幼馴染の口の中へと吸い込まれ、あまりの衝撃に唖然と口を空いたままにその場を立ち尽くしていた。
「あーうまい。うまいうまい、さすが俺が選んだだけある」
「ひっ…ひどい! うわああっ、グレてやる!」
「言っとくけど、全部お前のせいだからな! お前のせいでこんな事してんだかんな! この、アホマゴ! そろそろ自覚しろ!」
「はぁ? 知らないよ、そんなの。もう信じらんない…今度絶対苺パック買ってリンちゃんと二人で食べ尽くしてやるぅー!」
大人気ないと自分で分かっていても悔しいものは悔しい事に変わりはない。ましてや大切なものをよりによって幼馴染に取られてしまうのはなんとも悔しく大変不快である為、何かしら仕返しをしなければ気が済まない。そう思った矢先、自分の背後にすぐ冷蔵庫が佇んでいる事に気付き、ふと思いついた悪行を頭の中で即実行をする事に決めた。後ろを振り返り、冷凍庫の扉を開けては彼が大事に大事に取っておいたハーギンダッスの抹茶味、最後の一つであるその茶色いカップを取り出した。蓋の表面にはしっかりと油性ペンで、ヨリの、と大きく書かれており、それを見せつけるように顔の前に掲げると一瞬で目の前のしたり顔は真っ青に染まっていった。
「そ、それは!」
「ふっふっふ…こいつを、こうだ!」
「や、やめろー!」
名前入りの蓋と、そしてビニールの中蓋剥がしては投げ捨て、引き出しから銀のスプーンを取り出してはキンキンに冷えたその緑を一気に口の中へと掻き込んだ。と同時に店の中に響き渡る悲鳴と、そして襖の隙間から聞こえてくるくつくつと溢れる苦笑につられては得意満面で高らかに笑った。
(2016.09.25)
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