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 とりあえず、何かしらがやばい。
 廊下の先から突き刺すように聞こえてきた怒号に頭から布団を被った体がぶるりと震えた。率直に申し上げると、マゴさんがあのような非常事態に陥ってしまった事には原因が二つある。一つは宅飲みで定番の何杯飲めるか勝負を彼のみハンデをつけて行なわれた事(このままでは酔い潰される危険を察し、慌ててこちら二人はあまり酒に強くない事を告げると、自分はアルコール度数の高いもののみを飲むようにするから少し付き合ってくれ、という嫌な予感しかしない縛りルールを喜んで提案してきた)、そして二つ目は、そもそものテンションが何故だかハイに近かった事。ただでさえ生活苦を零していた彼が、風呂代をサービスするだけで留まらず夕飯まで奢ってくれた上、ましてや酒まで提供して頂いたものだからもしかして何か裏があるのではないかと疑ってしまうのも無理はない(失礼にも程がある)。
 しかし、話をしている中でそのような黒い話題を出す事は一切無く、アルコールのおかげもあってか、あまり緊張もせずに楽しい時間を過ごす事が出来た。あの、悪夢の野球拳が始まるまでは。

「……え?」

 いつの間にかしんと静まり返った廊下から声が聞こえてきている事に気付き、隣りでゆっくりと深い呼吸を吐いてはぐっすり眠っているらしい相方を余所に、特に深い意味は考えずそっと襖に聞き耳を立てた瞬間、即座に再び布団の中へと急いで頭ごと被っては丸くなった。

(や、やばいやばいやばいっ。なんか、やばい事、して、る…!)

 両手で塞いでも妙に耳につくその高い嬌声は、明らかについ先程まで一緒に飲み食いをしていたこの店の店主であり、どうしようもないくらいに酔っ払った年上のボーイの声だった。ただでさえこちらもアルコールを含んでいる為、ろくに頭は回らないとはいえ、壁一枚挟んだその先で二人が何の行為に及んでいるのかくらいは自分にもすぐに分かってしまった。

「……っ、…ん……ぅ…ぁっ……!」
(ど、ど、どどど、どうしようっ)

 よく耳を澄まさなければ聞こえない程の声量のはずなのに、何故だか頭の中でがんがんと響いては一向に離れようとせず、いつの間にか自身の下半身までもがむくむくとスパッツを押し広げている事に気付いた。自分でも信じられないその興奮と背徳感に圧し潰されそうになりながらも、どうにかこれを処理しなければ落ち着いて眠る事も出来ない。

(トイレは行けないし、でも、このままじゃっ…)
「眠れないのか」
「ひぃっ!」

 ゆっくりと布団から抜け出し、物音を立てないよう腰を下ろしたまま低い体勢を保持しつつそっと襖の引手に手を掛けたその時、どしりと重みの増した低い声が耳元に落ちる。ほんのり甘い匂いが鼻を掠って、あ、と一言、声を漏らしている間に背後から片腕が腰へと伸び、ぴたりと背が彼の胸元に密着するようにゆっくりと抱き寄せられた。

「ちょ、な、ん、おま、寝」

 あまりの理不尽さに文句の一つを飛ばそうとするも、直後、もう片方の手で膨らみの収まらない下半身を容赦なく鷲掴みされて、思わず上擦った変な声が腹の底から外へと飛び出していった。

「…ここ、膨らんでる」
「ん、う、あぁあっ…!」

 素肌からフクを引き剥がすように中へと差し込まれた手のひらの熱が、流れるように背中を撫でた場所からびりびりと体全体へ広がっていく。相乗するように一枚隔たりが重なった上から揉みしだかれる陰茎はびくびくと震え始め、蹲るように布団へ沈んだ顔全体が真っ赤に熱く塗れているのが分かって、あまりの恥ずかしさに照れを通り越して怒りがふつふつと沸き出てきた。

「く、っそ…ざっけんなよ、もう!」
「…どうして欲しいか、言ってみろ」
「あぁ、もう…最悪だ。責任とれ、ばかっ…!」
「……了解」

 ほとんど脱げかけているガチホワイトが首元へと縮み、丸見えになった背中に上から下まであちらこちらに口づけを散らばせていく。そのくすぐったさと四散する小さなぬくもりに呼吸を乱されて、いつしか前のめりに崩れていく上半身とその流れのままに浮上する腰をがっしりと掴まれては、顔を伏せた目の前の枕を皺が出来る程に強く握り締める。
 引き剥がされるように膝まで下げられたスパッツを余所に、びくびくと怯えるように震えながら勃っているその陰茎を唐突に握られ、前触れもなく上下に扱かれる度に漏れる熱の篭る息が耳に焼きついていった。

「っ、う、あぁっ、ん…あ、もっ、むりぃ…!」

 どくどくと決壊する寸前に襲いかかる熱の波は留まる事を知らず、それでも手を動かすのをやめようとしない彼に文句一つ言う余裕さえなく、もう間もなく全てが溢れてしまうと思った瞬間に、暗闇に押し付けていた視界が暗転し古い木目の天井を背景にこちらを見下ろしている相方の汗ばんだ顔が視界に映った。何が一体、どうなった、と声を零す前に、屈んだ彼のにやりと口角を上げた表情が自身の下半身へと下がっていき、その瞬間に何をしようとしているのかを察しては慌てて上体を起こした。

「んの、バカ…ッ!」
「…ほのまま、らせ」
「…く、う、ぅうっ…!」

 想像していた通りに陰茎を口で咥えながら、右手は扱いたままに彼のぬくもりの中で上下に動かされ、必死に止めようと我慢したものの襲いかかってくる激流の波を抑える力などとうになく、体が軽くなったと思った瞬間にその欲望はそのままに全て溢れ出てしまった。
本来ならば一人で処理をするはずだったのに、まさか相方の口の中で果たしてしまうとは思ってもみておらず、果てしない快感の後に重く伸し掛った罪悪感とうら恥しさに慌てて陰茎を抜き出しては、布団の横に何故だか既に設置してあったティッシュを大量に引き抜いた。

「ほ、ほら! 早くそれ出…」
「遅い、飲んだ」
「何でだよ!」
「布団、借り物だしな」
「あぁもう! ティッシュの無駄!」

 準備していたティッシュを思わず床に叩き付けると、ぺろりと舌を出して口周りに溢れた白濁を舐めとり、げんなりしたまま動けずにいる自分に対して手招きをしてきたので、散々迷惑を掛けてしまった負い目もあってか、素直に従ってずりずりと膝を引き摺りながら傍へと近寄ると、すぐさま腕を掴まれ引き寄せられた後、両脇に手を差し込み軽く足を曲げた彼の膝の上を跨ぐように体ごと持ち上げてはどっかりと深く彼の体の上へと乗せられた。明らかに大きくなって太く反り立つ目の前の陰茎が直接下半身に当たり、ようやく落ち着いてきたはずの心臓が再びどくどくと唸りを上げていく。

「…まぁ、結局汚れて終わるだろうが」
「信じられない…マゴさんに怒られても俺、知らないから…っ、あ」

 知らぬ存ぜぬとでも言うように聞く耳を持たない彼に観念し、そそり立つ目の前の男根を中へと挿し込むように床へ膝をつきながらゆっくりと嵌るように腰を下ろしていくと、ずぶずぶと沈みながら肉壁を引き裂くように侵入してくる太い陰茎が、奥まで到達したところで大きく息を吸っては長く吐き出した。そっと見上げ彼の表情を伺うと、元々細かった目を更に細めながら先程よりも息を荒げている事に気付いた。その時、不意打ちを食らわされたお返しをしてやりたいとふと思いつき、自ら腰を浮かせては唐突にスピードを上げながら中でひくつく陰茎を強く擦り上げるよう上下に動いてみた。

「っ、くっ…おい、ペース、落とせ」
「へぇっ…! オマエでも、そんな顔っ、出来るんだ、な…う、あぁっ!?」

 あれだけ余裕のあった相方の表情が歪んでいく様に微かな優越感を抱き、心の底から沸々と湧き始めた好奇心に引っ張られ、今まさに調子に乗って不規則に動き続けたのがこの先仇となってしまうとは思いもせず。中で膨れ上がる彼の陰茎にびりびりと体全体が痺れる程の快感が染み渡った瞬間、再び挿入されたまま布団を背に体を押し倒され、力ずくで持ち上げられては肩に乗せられた両足と、その衝撃でねじ込むように奥へと貫いていく快感が自然と腰を浮かせた。

「ふっ、うぅう! あっ、やだっ! なん、で」
「…さっきのお返しだ。今からオマエに身の程ってヤツを教えてやる」
「何だよ、それ! っ、あ、んっ…ふ、あぁあっ! ひ、ぐっ」

 両脇をがっしりと掴まれて下半身を持ち上げられたまま、猶予もなく早いペースで未だ萎む事を知らない彼の陰茎が、びちゃびちゃと嫌な水音を立てながら力強く肉がぶつかり合っていく。中でびくびくと血管が浮き立つのが分かる程に密着したまま擦れる度に降りかかる激しい快感に、頭の中は真っ白なままで意識を保つだけでも必死だった。徐々に視界の中で迫ってくる汗だくの表情がいつの間にかすぐ目の前にまで近づいていて、絶え間なく襲いかかる刺激に耐えるように瞑っていた瞳をそっと開けば、行為とは真逆とさえ思える優しく触れる程度の口づけがそっと落ち、不意に伸ばした両腕をしっかりとその太い首へと抱き寄せるように回した。

「あっちの、興奮するか? いつもより、締まるっ…」
「そ、いう事、言うの…やめろ、よっ…! この…酔っ払い」
「…あぁ、酔ってるよ。オマエも俺も、な」

 ぶつかっていたはずの視線は首元まで埋まり、肩から胸にかけて再び口づけを散りばめ始め、しかし腰は動いたままで漏れる息は未だに荒れたままだった。今頃体中に赤い跡がついているのかと思うと少しげんなりするものの、決して嫌という訳ではなく、それがまるで所有印のような証であるような気もして、恥ずかしすぎて本人の目の前では絶対に言葉にしないけれど、今はその存在が自分にとっては嬉しいものだった。
 ふと、いつの間にかこそばゆさがなくなった事に気付くと、腰を掴んでいた片方の腕が背中へと回り、そのまま頭の後ろまで入り込んできた腕に掴まれては胸が密着する程に力強く抱かれ、呆然としたまま空いていた口を閉ざすかのような彼の獣のような口付けが呼吸をする事さえも許さない。ぬめりと口内へ赤とオレンジの入り混じる舌が絡みつくように侵入しては、互いの不規則な呼吸を更に掻き乱していった。

「んっ、う、ふ、うぁ…あっ! も、らめっ…ひ、うぅっ」

 突き刺さるようにぶつかる赤い視線が自身の青の中へと映り込み、乱れた呼吸と余裕のない表情で見上げていると、首元から垂れた指輪がするりと顔のすぐ脇へ落ちた。中でびくびくと膨れ上がる欲望が今にも爆発しそうになっているのが嫌でも分かって、求めるように激しく突き上げてはそこから流れてくる強い快感に、両腕を彼の背中へ回しては汗ばんだハラグロラグランを皺が出来る程に握り締めた。

「…っ、はぁ…く、出すぞ…!」
「さ、き…サキッ、あっ…ん! っく…ひ、あぁあっ!」

 熟れた吐息が周りの空気に溶け込んで、微睡みが滲む薄暗闇の中で果てた陰茎とその先からどくどくと漏れ出る白濁が溢れ出る感覚に一瞬意識を失いそうになって、入れたままに布団へと沈んでいく二人の体に伸し掛るように襲いかかって来た睡魔が徐々に瞼への重みを増していった。

「は、はぁっ…あぁ…う、うぅ……ん…」
「っ…おい、寝るな」
「…も、むり、しにそ……」
「……まぁ、いい。これでお互い様、だな」

 そのままの体制で二人横になり、彼に背中から抱きかかえられたままそっと瞳を閉じる。後孔に挿し込まれたままの陰茎そのものも、僅かに空いた隙間からだらりと垂れて太ももへと流れた白濁さえ気にする余裕など今の自分には全くなかった。朝を迎えた頃に絶対に後悔するだろうと思いつつも動きそうにない体を静かに布団へと沈ませる中、その夜の最後に覚えていたのは、耳元で彼が小さく零していた、まだ微かに熱の残る自身に掛ける一言だけだった。

「…おやすみ、ヒナ」




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