「ん、ふぁっ…ヒナタ、く…!」
「マゴ、さ…っ、んあぁ! だ、だめっ…」

 本来であれば布団を並べて三人仲良く寝ているはずだった、店の奥にある居間のど真ん中で、ぴちゃぴちゃと生々しい水音を響かせ喘ぎ慰め合っている二人と、その横で唇を噛み締めながら必死に疼く体を抑え付けている自分とジップアップカモを着込んだボーイが部屋の隅で正座をしているよう強いられた挙句、手を出す事を許されないという奇妙な状況に、今はもう溜まりに溜まった熱い唾液をひたすら飲み込む事しか出来ないのだった。


***


 事の発端は、老け顔ボーイと共に店を出て近くのコンビニへと向かった所から数十分前までに遡る。先日やむなく(別に欲しくもないのに)差し入れで頂いたおかずの礼にと、友人(であり恋人)を引き連れて店に顔を出した彼を幼馴染が一緒に食べようと夕飯に誘い、その時に何故だかどちらの方がアレに関してのテクが上手いか、などというくだらない話で盛り上がってしまったばかりに、だったら実際に試してみようじゃないかと冗談交じりに煽ってみれば、珍しく乗り気になっていた老け顔ボーイがゆっくりと頷いたものだから後に引けなくなってしまった(若干、既に酔っていたような気がしないでもない)。
 一方、素面であるガチホワイトを着た彼の恋人と幼馴染は、初めは断固拒否の態度を示してはいたものの押すに押されて半ば無理矢理に頷かされた挙句、渋々布団を敷き始め恥ずかしそうに着ていたフクを脱いだ直後にあるものが不足している事に気付き、掛け布団を肩から被り不満そうにしている二人を置いては慌てて老け顔ボーイと外に出て現在に至る。

「やっべぇ、さっさと帰らないと何言われるか分かんねぇぞ」
「…別になくても構わないんだがな」
「次また布団汚しやがったら今度こそ弁償だかんな、バカ野郎」

 いくら店から近いといえど歩いて行く分には幾分距離があり、基本は幼馴染が気の向いた時にスクーターに跨り五分程掛けて買い物へくる場所にそのコンビニは健在する。日付が変わったばかりの深夜である事もあってか、ようやく辿り着いた店内はやはり客は疎らで、うろうろとふらついては品物を眺め目的の物を買い物かごへと投げ入れる。脇から突然突っ込まれたいちごの飴玉には仕方なく目を瞑り、一応年上という面目上、奢りという形で今回の支払いはこちらで全て済ませてやった(さぞ当たり前のような態度を示されたのは非常に腹が立つのだが)。
 なんだかんだゆっくり吟味をしてしまった為、これ以上無理強いをした上に今まさに半裸のまま居間で待たされている二人の怒りを蓄積する訳にも行かず、店の門構えがようやく見えたところで自然と早足になった。小さな箱だけが入ったビニール袋を提げながら脱ぎ捨てたブラックビーンズを、後ろを歩いていた彼にご丁寧に揃えられ(何か腹立つ)、想像以上にしんとした店の中で耳を研ぎ澄ませれば、どこからか水の撥ねるような音がぐちゅぐちゅと聞こえてきた。

「おい、マゴ…ただい、ま…」

 謎の水音が気にはなりつつも、少しでも早く幼馴染の顔を見たくてはやる気持ちがそれを深追いせず何も考えないままに居間の襖を開けた直後、予想もしていなかった光景がそこには確かに広がっていた。

「…は?」

 二枚並べた布団の真ん中で向き合うように足を絡めては腰を落としていた二人は、一糸纏わぬ姿でお互いの股間に手をやりいやらしい音を立てて相手の陰茎を扱きながら口付けを交わしていた。熱の籠もる空間で浮いた息を吐き、小さく呻くように何度も漏れる甘い嬌声に思わずごくりと息を呑む。そして、足音も立てずに後ろから歩み寄ってきた老け顔ボーイもようやく現在の状況を目の当たりにしたのか、普段から細く尖らせてはぎろりと刺すような視線を向けてくる彼の赤い瞳がかっと見開いていた事に寧ろこちらが驚いてしまっていた。

「な、ん」
「おい、お前ら一体何バカなこ…」
「来ないで」

 今にも溶け合いそうな二人を引き離そうと一歩前へと足を踏み出した瞬間に、先程と打って変わって明らかに暗く低い怒りの込められた声色でその動きを止められ、う、と言葉に詰まりながら立ち尽くしていれば、小さく溜息を吐いた幼馴染がこちらを見上げてはぎろりと細めた瞳に睨みを利かせていた。

「…ぜーんぶ、ヨリとマサキくんのせいなんだからね」
「お、怒ってんのかよ! 散々我儘言って、しかも待たせちまったのは悪かったと思ってるけど、だからって…!」
「本当に反省してるなら、そこで正座でもしてなさい」
「なっ!」
「…ごめんね、ヒナタくん。続き、しよっか」
「あっ…は、い」

 聞き慣れている気の抜けたような話し方は何処へ消えてしまったのか、はきはきとした声で強い意志を表明した幼馴染の覚悟は相当なもののようで、予想をしていたよりも怒りの頂点を突き抜けている彼に許しを請うには、指示された事に対し素直に徹する他ないと踏んだ自分と何も言葉が出ないらしい老け顔ボーイは仕方なく居間の隅っこで腰を下ろし、畳に折り込まれたイグサの跡が付くのも構わず正座をして膝の上に両手を置いた。
 それに満足したのか、怪しい笑みを浮かべながら視線を戻し、最早互いしか視界に入っていないかのように再び貪り始めると、あまりにも耳元に纏わりつく二人のどろりと絡む息遣いと辺りに淀む艶やかな雰囲気に嫌な汗が全身に吹き出していた。


***


 決して自分は悪い事をしていないという自信だけはある。
 ただでさえ二人きりでも恥ずかしさで堪らなく、未だに身も心も慣れていない行為を人前で、しかも同じ部屋で一緒に行うなど考えた事もなかったので、幼馴染とマサキくんがあんな申出をしたその時はさすがの自分も心底呆れた。隣りでぎょっと眉を顰めていたヒナタくんもどうやら同じ考えを持っていたらしく、絶対にそれだけは無理だと言いのけたものの、結局のところ押しに弱い二人は流されるようにすぐさま着ていたものを全て剥ぎ取られてしまった。
 既に真夜中で町の中が暗闇に包まれ薄暗い常夜灯のみが照らされた居間の中、薄い掛け布団を一緒に被りながら怯えている前で、ぎらぎらとこちらへ目を向けている二人がフクを脱ごうと立ち上がる様子を眺めていたその時。

「あ、やべ」

 そう腑抜けた声でぽろりとそう落とした幼馴染が、ある必需品を不足している事に気付き、こちらの言葉に聞く耳を持たぬままマサキくんと共に店を出て、近くのコンビニへと出掛けていってしまったものだから沸々と腹の底で煮え始めていた怒りはついに頂点へと達した。
その感情の起伏に気付いていたらしいヒナタくんがまぁまぁと冷たい水をわざわざコップに汲んでは手渡してくれて、その優しさに僅かながら心に余裕を作り、ぐいっと飲み干しては冷静さを取り戻したものの、さすがに一度天高く昇りきった苛立ちはそう簡単に抑える事は出来ない。

「…はぁ、くそ。ほんと腹立つ。ヒナタくんだってほんとは嫌だろう。いくら知り合いとはいえ、一緒にこんな事するなんて」
「う、えと、その…まぁ、あまり気は進まないですね」
「アイツら、最近調子乗りすぎなんだ。たまには痛い目に遭わせないと、もっとエスカレートしちまうぞ」
「お、おお落ち着いて、落ち着いて…。あ、そうだ! 二人が帰ってきたら、とりあえず説得してみませんか。やっぱり、安易にこういう事するのやめようって」

 程よく肉付きのいい体の腕とぎゅっと握り締めた拳を手のひらにぽんと乗せながら、ぱっと弾けるような笑顔でそう告げたヒナタくんには大変申し訳ない事だったが、そう簡単には今回のような問題に対し万事解決の出来る道はない。理由を上げるとすれば、今まさに不在である二人はとにかく諦めが悪い。一度やると決めたら、ちょっとやそっとじゃ意志が揺らがないのはとっくの昔に知っている。しかし、このまま彼らの思うままに動かされるのも癪に障るのだから仕方がない。

「…ヒナタくん」
「あ、はい」
「ちょっと、仕返しでもしてやろうか」
「へ?」

 ここで思わぬアイディアが頭の中に思い浮かんでは堪らずにやにやと口元を歪めて苦笑を漏らすと、不思議そうにこちらの様子を窺う彼の腕を掴んではそのまま体ごと引き寄せ、勢い余って胸の中へと落としてはその手のひらを自身の股間へ押し付けるように握らせた。途端に真っ赤に染まり熱を帯びていく頬、そのままもう片方の腕で腰を引き寄せ、はらりと逃げていく掛け布団を余所に温かみのある柔らかな体をそっと抱き締めた。

「マ、マゴさっ…何、して」

 両膝を立てて座り、その間へ倒れ込み胸板へ雪崩れ込む彼の上体を抱えるように両腕で包み込むと、照れで目線が上げられないのか顔を埋めるヒナタくんに思わず少しばかり腕に力を入れては愛おしさが増していった。

「…足、伸ばして」
「え? あっ…あぁあ! だ、だめですって!」

 優しく頭を撫でた後、未だ陰茎をその手で握らせながら足首を掴み、自身の膝の下へと両足を通すように引き摺ってやれば、ずるずると腰を落とし目の前で既に反応を示している彼の陰茎が露呈する。そのまま逃げられないうちに片手で握ると、後ろに倒れないように手のひらを両脇の床に押し付けていたヒナタくんの口から甘い吐息が漏れ、必死に首を振る様子にどこか興奮を覚えてはにやりと口角を上げた。

「もう、こんなになってる」
「う、うぅっ…マゴさん、だって、もう…」
「…一緒に、抜いちゃおっか」
「で、でも…それはさすがに!」

 本来ならば溜まったものを外に出すのは一般的に一人で処理をする行為である事くらい分かってはいるものの、今更になって彼らが家へと帰る次の日まで抑え込むなど到底出来る訳はなく、そもそもそれでは目的である仕返しへと結び付ける事が出来ない。冷静に考えてみれば恋人同士でもないというのに、ましてや友人同士だとしても(とりあえず酔ってなどいなければ)まず二人きりで抜き合うなど有り得ないという気持ちと相反するも、最終的には今まさに増幅し続けている興奮と何かしらの形で二人にやり返してやりたいという気持ちが勝っていた。

「抜き合うくらい大丈夫だよ。あの二人に目にものみせてやるっ」
「は、はいっ…」

 ついに観念してしまったのか(もしかしたら彼は自分よりも押しに弱い性格なのかも知れない)、頬を染めながら眉をひそめ、そっとこちらの下半身へと腕を伸ばし始めたヒナタくんに負けじと再び上下に彼の陰茎をゆっくりと扱き始める。

「っ…う、ふぁあ…んっ」
「…ふふっ、若いなぁ」

 びくびくと浮き出る血管と震えを帯びる陰茎に気を良くしては親指で先端をぐりぐりと押し込むように撫で回すと、普段では聞く事のない高い嬌声がぽろぽろと溢れ始め、もっと聞いてみたいと思う好奇心と共に全身へ波立つ痺れに、ふるふると横に首を振る彼の頬を撫でながら、ぐちゅぐちゅと立つ音にも構わずに手を動かし続けた。

「っ…マゴさん、ばっかり、ずるいです…!」
「へっ…? あ、ちょ、待っ」

 ぼんやりとした雰囲気の中、蕩け合うように溺れている互いに緩んだ意識の隙を突くように、突然色の変わった景色と敷布団の上へと上半身が沈んだその衝撃に思わず目を瞑り、そっとその瞼を開けば、ほんのりと頬を染めた彼の甘い声がぽろぽろと落ちるように溢れたのだった。

「ヒ、ヒナタ、くん…?」
「…俺だって、ボーイ、なんでっ。されてばかりで、黙ってられると思ったら、大間違い、ですから…!」
「えっ? …あ、やだ! そんな、急に…あ、っく…ふ、あぁっ!」

 両手で押し出すように上体を起こし、下半身で蹲るようにもぞもぞと陰茎を貪り始めた彼を制止しようと腕を伸ばした直後に、雪崩るような強い快感の波が体全体に突き刺さるように流れ込み、無意識なままに溢れ出した甲高い嬌声が体を支えていた腕からふにゃりと力を吸い取っては再び敷布団へと沈ませていった。

「ひっ! あ、うぅっ…だ、だめ、そんなっ! 早す、ぎっ…あ、あんっ」
「す、ごい…マゴさんの、こんな…大きく、なって…っ! 感じてくれてるって、事、ですよねっ」
「や、あっ! ん、ひっう、ヒナタく、うぅっ…!」

 下半身へと集中して篭る熱に浮かされながらもなんとか体勢を整えながら、扱く事に夢中になっている彼の腰を掴んでは引き寄せ、それでも頑なに離そうとしない手に構わず、こちらも負けじとびくびくとそそり立つその陰茎をもう一度握り締め、激しく震える鼓動に息を詰まらせながらも既に先から漏れ始めている、今にも決壊してしまいそうな欲に手を濡らしては肩口に沈んだヒナタくんの顔を抱き寄せながら大きく息を吐いた。
 声を抑えられない程に自制が効かなくなり、お互いに限界を迎えそうになったその時。

「…は?」

 ずりずりと擦るような音と共に背後で開いた襖の奥から抜けた声が落ち、そっと振り向いた先で目を丸くしたまま動けずに固まっていた見慣れた彼が視界に入った瞬間に、腕を引っ張られていつの間にか目の前にまで迫っていた影に気付いた時には既に遅く、柔らかな唇を押し付けるように重ねられた口付けに、なんの抵抗をする間もなくその温かさに包まれていたのだった。




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