若い頃から習慣付いてしまい誰に何を言われようがどうしても直せない自分の拘りというものが存在して、それは最早生活の一部でもあり今更変える事は出来ないと何度訴えても伝わらないこの悔しさは恐らく誰にも理解されないだろう。こちらとて初めからそうだったわけではない。たまたま下着が無く一日何も履かなかった日があり、その際にもう驚く程の開放感に胸が踊り快感さえ覚えてしまったものだから、寧ろ運命的な出会いとも言えないのではないだろうか。
「何言ってんだ、お前…」
と、これまでの経験を踏まえながら説明をしても目の前の幼馴染には何も響かなかったようで、溜息を吐きたいのはこっちだよと文句を言えば実に悲しそうな表情でがっくりと肩を落としていた。今まで黙認され続けていた、いつ何時も下着は絶対に履かないというスタンスは随分と長い間守られていて、生活上で困った事は一度もなく客からのクレームもなし、第一他人に迷惑を掛けていないのだからこればかりは個人の自由でもある。それだというのにどうしてもやめて欲しいと言わんばかりに食いついてくる幼馴染にもどうやら言い分があるらしく、確固たる意志は既に持っていたものの仕方なく話だけでも聞く事を了承して現在に至る。そもそも何故このような話になっているかというと、珍しく二人でナワバリバトルへと参加した午前中に起きたある一件、肌寒かったのか珍しくロングスパッツを履いていた自分の股間に問題があると言い放った幼馴染が騒ぎを起こしたのが発端だった。
「捕まるから! 絶対捕まる! あと青少年に対して悪影響! 分かる!?」
「分かんないよ、そんなの。ナワバリバトルのルールにパンツ履かなきゃダメなんて書いてないし」
「ルールだけじゃなくて常識もちゃんと守って!」
詰まるところ、多少といえど股間のもっこりもきちんと隠さなければ多方面に対してセクシャルハラスメントとなってしまう為、TPOを弁えろというのが彼の言い分である(今更何を言っているのだろう)。しかし、自分としては言う程よろしくない格好をしているとは思えず、今に始まったような事でもないので勿論納得がいくはずもなく。
「…もう! だったら、バトルじゃなくてバイトにすればいいんでしょ! 俺、ちょっと出てくるからヨリは留守番してて!」
「は!? ちょ、おま…待てって! おい!」
昼下がりの午後、本来ならば店を開ける時間まで準備をしつつ居間でゆったりと寛ぐ予定だったがそれはもう過去の話である。良し悪しの判断もつかない子供ではあるまいし、そこまでだらしない格好のまま外出をした覚えはなく、こちらの言い分も聞かずに否定ばかりされては気分が悪くなってしまう。そんな中徐々に生まれるもやもやとした感情を一掃してしまいたい事もあり、手元の携帯電話でクマサン商会が今アルバイトを募集している事を確認し、幼馴染の必死な制止を振り切っては店を飛び出したのだった。
***
随分と参加回数を重ねてきた事もあり、ある程度仕事に関しては慣れたつもりではある(ただし何度漁船に乗っても船酔いだけは治る様子がない)。初めは使い慣れない支給ブキと無数に襲いかかってくるシャケの群衆に戸惑い気味だったものの、日頃の努力の積み重ねもあってか今では初顔のメンバーとも上手く協力し合ってノルマを達成できる程になっていた。貸し出されたゴム製の水産合羽の生臭さとゴム臭さはいつしか気にならなくなり、厚みのある安全靴の歩きにくさで地面に爪先が突っかかる数も今ではすっかり減りつつある。地道に通い続けた末にランクを達人にまで上り詰めた今日この頃、今回の仕事場であるポラリスという名の古い船は高低差が激しく、頂上部のイクラコンテナへとシャケを誘導して効率よく金イクラを回収しなければならない。といえど、最下層で常駐するオオモノシャケは必然的に下へ降りて倒さなければならず、その際に各箇所へと散らばって行動する場合は無理せず対処するように注意する必要があった。
「げっ…下にタワー二本か。俺、ちょっと行ってくるよ」
「オッケー。そっちは頼むな、おっさん!」
「おっさんじゃない、おにいさんッ!」
「俺らからしたら十分おっさんだよなぁ」
「き、キセツさん…分かりますけど、さすがにそれは失礼じゃ…」
今回の仕事仲間はある程度年齢層にばらつきがあり、その中でも自身が最年長だとはいえまだまだおじさんと呼ばれる程年は食っていないし言われる筋合いもない(と後ほど幼馴染に愚痴を言ったら、そろそろ素直になったらどうだと咎められた)。しかし、額に目立つ傷がある若いボーイはそんな反論も物ともせず、それどころか話を聞いていなかったのか再び見つけた獲物の方へ向かってさっさと姿を消してしまい、アルバイトには慣れている様子の褐色肌、そして少しおどおどしつつも仕事はきっちりとこなしているボーイ二人も散り散りに各自行動を始めた。
「うぐぐ…俺はまだまだ若い方だからなっ」
ぷりぷりと頬を膨らませては最下層へと降りながらぶつくさ文句を言うも、残念ながら優しく宥めてくれる人物は今は誰一人存在しないのがまた悲しいところで、支給されたH3リールガンを海辺に鎮座するタワーに狙いを定めて構えた。その周りには壁になるように群がるシャケやドスコイが次々と上陸し、それらを対処しながら一本目、そして二本目とタワーを処理しては金イクラを一つ抱えてその群れの中を走り抜けようとした時だった。
(げっ! インクないじゃん!)
頂上部へと繋がるライドレールを目の前にインク不足が生じるという凡ミスに気付いた頃には時既に遅し。冷静さを失い慌てふためいている間にも海から溢れるシャケたちに囲まれ、じりじりと迫りくる驚異に後ずさるも壁に背が付いた瞬間全ての終わりを悟った。
「く、くそ…!」
追い打ちをかけるような形で群衆の背後にはヘビが囲いを始め、力の抜けた手中から一滴もインクが出ないH3リールガンが地へと音を立てて落ち、そのまま目を瞑って救命ウキワへと姿が変貌するのを覚悟していると、暗闇の中でぶちりと何かを引き千切る音が聞こえた。何事かとそっと目を細めて恐る恐る視界に光を灯すと、目の前でにやりと嫌な笑みを零すドスコイが転がっていたはずのH3リールガンのホース部分をぶち抜き、見た目とは裏腹な素早い動きで突進して身体を押し倒されたかと思えば、無数のコジャケ達が器用にもまっすぐに伸ばされたそれで両腕を後ろ手に縛り付けていた。
「…ぁ、やだっ! やめッ…」
あんなにも小さな体のどこに力があるのか、しかし通常時の彼らの攻撃力が特化している事もあり心の中で一人納得するも誰がどうみても非常に危険な状況だった。てっきりすぐさまあのフライパンで嬲り嬲られ再起不能の状態にさせられるかと思いきや、まさに言葉の通り生き地獄というものでぎっちりと背後で縛り上げられた両腕、横たわり地から見上げた先はシャケ達の厭らしい笑みばかりが浮かんでいる。そして、深緑のインク塗れになったフクの隙間から体の中へ次々と侵入してくるコジャケ達と、安全靴、ゴム手袋だけでは飽き足らず合羽までも力任せに破き剥がしてくるドスコイに揉まれて、気付けば中に着ていたTシャツとスパッツだけという格好にまで陥っていた。
「う、うぅっ…ま、まさか、取って食おうってんじゃ…!」
今までの恨みでも晴らすつもりなのか、まるで倒すだけではつまらないとでもいうように無闇に手を出す事もなく、しかし未だフクの中でもぞもぞと潜り込んだコジャケの違和感から必死に堪えていると突然胸元を噛まれたような感覚に思わずびくりと身体が震えた。
「ひ、あぁっ! 何、して…ぁ、ひゃうぅ! へ、変なとこ噛むなぁ!」
血が出る程ではないといえど微かに痛みは伴うその刺激で恥ずかしいくらいの甘い声が自身の口から漏れ、泣きたいくらい頬が赤く染まって瞼にじんわりと熱が籠もった。何よりシャケ達に弄られ感じてしまう自身が酷く情けなく、不快であるはずなのにびくびくと震えてしまう身体に嫌気が差してくる。しばらくすると、上半身だけでは飽き足らずスパッツの裾を引っ張りその隙間から異物が入り込み慌てて足を竦めるも止められるはずはなく、ねっとりとした体液を擦り付け太腿を這われてはむくむくと膨らみつつある陰茎を胸鰭で舐めるように撫でられた。
(う、嘘だろ…こいつら、本気で…!)
しかも確実に一匹ではない。何匹ものコジャケが前後をここぞとばかりに嬲り、後ろに至っては持っている小さなスプーンの先を力任せに押し入れようとぐりぐりと差し込み、まだ狭いままの中の肉壁を引き剥がそうとする感覚に思わず引き攣る声を上げた。
「は、ぁ…っく、い、だい! この…ふ、ざけんなっ! ひ、ぐぅう」
どんなにもがき身体を揺さぶってもきつく縛られたホースは全く外れる様子はなく、フクの中で好き勝手されていくうちに全身から力が抜けて吐く息が次第に熱くなっていくのがわかった。少しずつ視界も狭まり曇る怖さでぐっと歯を食いしばるも、シャケ達の容赦ない猛攻はいつも以上に収まる事を知らなかった。
「っ、は、ぁっ…そうだ、誰か、近くに…っ!」
シャケ達の体液で体中がどろどろに塗れている中、今がアルバイトの最中だった事をようやく思い出して咄嗟にヘルプを呼ぶも辺りに反応はない。それどころか誰一人の気配さえ感じる事が出来ず、ましてや雇い主であるクマサンとの通信も全く繋がらない状況だった。
(な、なんでっ…どう、なって…!?)
現状を理解出来ず頭が混乱している最中、突然身体が宙に浮かび柔らかく大きな何かに抱きかかえられその影に沈んだ瞬間背筋に嫌な汗がぶわっと溢れた。顔を背に座らされている為に顔は見えなかったがその巨体には少なからず見覚えがあり、頭上からだらりと垂れた粘つく透明の雫が顔の脇に落ちた瞬間、どくどくとうるさく跳ねる鼓動が脳内にただただ繰り返し響いていた。
「ひっ…ま、待って…それ、どう、する気…う、あぁっ」
恐る恐る振り向くとそこには大きな装置を咥えた引き裂いたような大きな口、ぎろりとひん剥いたイクラのように大きな金色の瞳と目が合い、にやりと上がる口角に最早声さえも上がらない。
「っ、うぅ…ん、あぁあっ! あ、ぐっ」
腰に回った大きな胸鰭にがっしりと身体を押さえつけられ、太腿の間から突然ぶるりと反り立った明らかに陰茎のような、しかしあまりに太く巨大で根元からどくどくと浮き出る血管に思わず身の毛がよだった。生きた心地がしないままふるふると首を振る事しか出来ず、下半身へと擦り付けるよう腰を突き上げる動きにバクダンが自身に対して何をしようとしているのか意図も容易く想像出来てしまい、その恐怖に嗚咽を吐き溢れた涙でげほげほと咽せてしまった。すると、その涙を掬い上げるように大きな舌でべろりと頬を舐め上げられた瞬間、ついに我慢の限界、堪忍袋の緒が切れて湧き上がった怒りやら恐ろしさが一気に爆発したのだった。
「ぁ、っくぅう…ッ、いい加減に、しろ、この…アホばかオタンコナスー!」
シャケの気配以外に何も感じない今、助けを呼んだところで誰も現れない事は知っている。しかしこのまま大人しくしていればシャケ達の思う壺で、明らかに乱暴されようとしているのを分かっていて抵抗せずにはいられない。しかし、興奮しているのかバクダンの頭上にはむくむくと膨らむ巨大な爆弾の塊が、そして身体を持ち上げ力ずくでその巨根を臀部の下へと潜り込まれそうになり、失うものは最早何もないと声が枯れるまで叫び倒し足をばたつかせては、残りの力で必死に暴れて抗おうと決めたその直後だった。
「う…わ、わわわっ!」
自身に纏っていた巨体がオレンジ色のインクと共に突然破裂し、その衝撃で周りのコジャケやドスコイ達も吹き飛ぶ中、重力によって地へと叩きつけられるのを覚悟し目を瞑ったもののいつまで経っても痛みは訪れず、そっと薄い瞼を開くと気付けば見慣れない格好をした見慣れた人物に自身はしっかりと両腕で抱えられていた。
「…ったく。また何つー目に遭ってんだよ、おめーは」
「あっ…う、ヨリぃ…!」
あれだけシャケ達の声でうるさかった辺りはすっかり静まり返っていて、小さく溜息を吐きながらそっとゴム手袋を脱いだ右手のひらで深緑のインクで汚れた頬をぐいっと拭われ、未だ縛られたままの両腕に絡まるホースを解いては、先程よりも腕に力を込めると無言のまま幼馴染にぎゅっと抱き締められていた。
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