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「まさかだったな」
「ほんと、まさかだよ」
風呂上がりのさっぱりとした体に浴衣を身に付け、長い渡り廊下を二人で並んで歩きながら泊まる部屋へと戻る。
いかにも高級旅館といったような木造の古い建築物に、つやつやの漆であしらわれた襖や壁の煌びやかな装飾は、何度見ても来る場所を間違えてしまったのではないかと思ってしまう程に豪華な装丁ばかりが目についた。隣りに立っている相方も同じような思いでいたらしく、胸のうちがそわそわと落ち着かないままにとりあえず風呂に入ろうと大浴場に行ってみれば、そこでは普段足を運んでいる銭湯の店主とその幼馴染とばったり出くわして、あまりに意外すぎる存在に驚きつつも歓談を交えながら共に体を休めては各自部屋へと戻っていった。
聞いた話だとどうやら家の近くの商店街で開催されていたくじ引きの商品のうち、二本あった旅行招待券を相方が引き当て、そしてもう片方は銭湯の常連客が引いていたらしく、そのおこぼれが彼らの手に渡ったという事だった(同じ相乗りバスで向かったはずなのにどうして気付かなかったのか、という疑問に関しては、朝の苦手な相方がすっかり寝坊をしたものだから、仕方なくいつも世話になっている居酒屋の店主に無理を言って車を借り、自身の足で目的の旅館まで向かった為である)。
「オマエがマゴさんにあんな事するから、俺が意味もなく体力使ったんだからな」
「なんだ、嫉妬してるのか」
「そうじゃないって! 人様に迷惑をかけるなって言ってんの!」
全くもう、と溜息交じりにそうぼやく彼を横目にそっと苦笑を漏らしては膨らむ頬を指先で突いてやった。そんな中、戻った部屋の一面を眺めれば風呂に行っている間に布団を敷いてもらっていたらしく、それに気付いた相方が早速飛び込むようにふかふかの布団の上へと寝転がっては、大きく息を吐き出し、持っていた携帯電話をうつ伏せになりながら弄り始めたかと思えば、今までにも何度か聞き覚えのある音が耳に入って思わず小さく溜息を吐く。
「…またそれか」
「んー…ナギに教えてもらったんだけど、これが意外と面白いんだよなぁ」
ぴこぴこと携帯電話の画面を親指でタッチして遊ぶそのゲームアプリはどうやらチビガールの薦めがあって先日インストールをしたらしく、同じ色が四つ揃ったら消えていくパズルを揃え連鎖を起こし、各ステージのハイスコアを狙ってクリアをしていくという昔からあるような単純そうで実は深いシンプルなゲームのようだった。少々中毒性があるようで、一度始めるとなかなか画面から目を離さなくなってしまう事はここ数日何度も目にしていた。しかし、せめて二人きりの時くらいはどうか手を出さないで欲しいと心の中で願ってはいたものの、ゲームに絶賛ドハマりしてしまっている彼は、やはりそういう訳にもいかなかったようで。
「アイス食べながらやろーっと!」
「……」
布団の上で足をばたつかせながら、浴衣がはだけて足が見えているにも気にする様子はなく、すぐ側に置かれていた小型冷蔵庫の扉を開けて、旅館に辿り着いた時に売店で買っておいたアイスバーをごそごそと手を伸ばしては引っ張り出した。
(何だか知らないが、気に食わない)
まるで自分の部屋のように、自由気ままに好きな事をしてさぞ楽しそうに居心地の良い場所で各々の時間を過ごすのは悪い事ではない。しかし、せっかく二人きりでゆっくりできると思っていた今日という日に、恋人である彼に相手をしてもらえぬまま一夜を過ごすというのはあまりに寂しすぎる。それどころか、自分がいなくても楽しそうにゲームで遊んでいる彼がどうにもこうにも納得がいかず、するなとまでは言わないものの旅行に来た時くらいは控えて欲しいというのが本音でもあり。
「…あっ、このアイスしゃりしゃりしてうまい」
器用にも片手にサイダー味のアイスバーを持ち、もう片方の手でゲームアプリを起動した携帯電話をいじくりながら肘をつきうつ伏せになっている彼の傍へとそっと腰を落としながら歩み寄る。夢中になっているせいか、自分がすぐ後ろにいる事も気付いていないようでにやりと口角を上げながら、捲れた浴衣と足の隙間からゆっくりと太腿を撫でるように手を差し入れる。
「っ、う、ひゃあぁっ!?」
いとも簡単にするりと入り込んだ右手は太腿から腰元まで入り込み、途中肉付きのいい臀部を握るように揉み下せば、ようやく事の重大さに気付いたのか、危うく持っていたアイスバーを落としそうになりながらもなんとか今の体制を維持し、慌てて振り返った先でその光景を見かねた彼は、口の中のアイスをすぐさま飲み込みながら弱弱しく声を上げた。
「な、ななな、何してんだよ!」
「別に何も」
「嘘付け!」
「…アイツに揉まれたのは、この辺か」
「あっ! ちょ、ひ、いぃ! や、やめろって!」
摘まめる程の柔らかな肉が乗った臀部を手のひらで撫でるように持ち上げ、それを制止するように伸びてきた腕を咄嗟に掴んでは、くるりと体を転がしては仰向けになった彼の体をそのまま引き上げた。
「あっ、おい! 待って、アイス!」
「そんなん知るか」
「ひゃふほほ、ほまえ、ほんほにひいはへんひ…」
根強い勿体ない精神によるアイスのどか食いを目の前で披露する相方に苦笑をしつつも、お構いなしに未だ軽快なリズムを刻む携帯電話を取り上げては部屋の隅へと投げ捨て、あっ、と声を上げては文句を零す隙さえも与えぬうちに自身の下半身を跨がせる。自然と肌蹴た浴衣の帯を抜き取って、はらりと目の前で落ちた裾から見える真っ白な肌に思わずごくりと息を呑んだ。
「んっ、ぐぐ…ひぃ、ちべたい」
「安心しろよ、今からしっかりあたためてやる」
「げっ…う、嘘だろっ。せっかくこんないい旅館に来てまで、そんな…! あ、んぅっ」
腕を引っ張り顔を引き寄せては体制の崩れた彼の体を受け止めつつ、押し付けるように唇を重ねるとほのかにこびり付いて残っていたアイスの甘さを舌で舐めとり、そのまま貪るように奥へと入れては絡まる赤と青に自然と口角が釣り上がる。小さく不規則に漏れる苦しそうな声、目を閉じ眉を顰め限られた隙間から酸素を取り込もうと必死に息を吸う余裕のない表情を眺めながら、するすると胸元から肩へと手を滑らせてそのままはらりと浴衣を脱がせていく。染まっていく頬からようやく距離を置き、既に反応を示し始めている互いの下半身に苦笑しながらも上半身を布団へと沈めては肘を付いて困った顔のままで固まっている相方を見上げてはそっと呟いた。
「…今更、シないなんて言わせないぞ」
「うっ、うぅ…! アレ、ゲームオーバーになってたらオマエのせいだからなっ…!」
そっと部屋の角へと向けた視線の先には先程ゲームを起動したままに投げ捨てた携帯電話が転がっており、どうやらセーブをしないまま電源が切れる事を恐れているらしい彼が目を細めながら悔しそうにそう零したものの、自身の欲を満たそうとする焦りは最早止められるはずもなく、そんな心配を他所にその腕を引いては仰向けになった自分の体へと俯せで乗るように胸元へと倒れてきた彼を受け止めては、突き上げられた臀部の割れ目へぴたりと勃ち上がった陰茎を宛てがった。
「ひ、あっ…! や、やだ! あ、ついっ…!」
「どうした、挿れる前から興奮したか」
「ち、違うし! 勝手に決め、るなっ…あ、ひうぅっ!」
むにむにと指先で臀部の肉を摘んでは揉みほぐし、もう片方の手で彼の陰茎を握っては強弱をつけながら扱き親指の腹でぐりぐりと亀頭を撫で回していく。びくびくと震える体とその痺れから耐えようと胸元に顔を埋め、爪痕が付く程に強く肩を掴んでくる様子に興奮した胸の奥からぞくぞくと震えが帯びていた。
「はっ、ぁ…も、離せって!出ちゃ、あっ…!?」
「だめだ、我慢しろ」
「な、何で…っ、あ、やだ! いきなり、そんな…っ、や、ん! だ、だめっ」
むくむくとみるみるうちに手の中で膨らんでいく陰茎の根元を強く押さえながら、腰を落とさぬよう手に力を籠める彼を他所に我慢ならない熱を先端から溢れさせては、最早限界といったように臀部にぬらつく陰茎を半ば力づくでまだ開ききっていない入り口を抉じ開けるように突き刺した。
「ひっ、あ、あぁあっ! 深っ…、あ、っく、うぅう!」
「どうしたっ…、もう、降参か…!」
「う、っさいな! ぁ、うぅっ…腰、揺らすなっ、ばかぁ!」
沈んでいた上半身をなんとか持ち直し、ゆっくりと顔を上げた彼のその表情は、細められた水色の瞳がとろりと蕩け、まるでこちらの欲を掻き立てる虚ろさに、強く疼いた下半身が自分の意志とは無関係に全てを満たそうと乱暴に貪っていく。自身に跨った体へと何度も挿入を繰り返しては彼の意識が遠のく程に揺さぶられ、あっ、あっ、と零れる甘い嬌声を脳の中で響かせては止める事など出来るはずもなく、その間にも片方の手で彼の中の熱を留めていた根元が、もう耐えられないと訴えているかのように伝わってくるその熱さにそっと口角を上げた。
「は、あぁっ! ん、や、らっ! もう、離せってぇ…!」
「…っ、自分から動いてる癖に、よくもまぁ言えたもんだなッ」
「ンな、ワケ…ぁ、だ、だめ…そこ、やだ! あっ、ん、ふあぁっ」
まるで周りを遮るかのように帯の解けきった浴衣の中で、ぐちゅぐちゅと厭らしい水音を立てながら自ら腰を打ち付ける彼と、もう今か今かと吐き出す寸前の根元を押さえていた陰茎が我慢出来ずに少しずつ漏れ始めているのを眺めつつ、体が落ちないように腰に当てていた手をそっと左脇腹に滲む紫色の痣を手のひらで撫でてやる。すると、指の腹で擦るように触れる度、あからさまにびくびくと反応を示す正直な体に、堪らず動きはそのままに握っていた陰茎を再び上下に扱いていく。そしてまだ奥へと押し込んだままの自身の陰茎を打ち付け、ゆさゆさとその体を揺らしては悲鳴に近い嬌声に胸の奥の鼓動はみるみるうちに高鳴っていった。
「あっ、ひ! や、らっ…そんな、のっ、むり! も、おかひく、なっちゃ…あっ、やあぁあ!」
「っ…、このまま、いいよな…ッ! 出すぞ…!」
「ひっ、うぅっ! ま、って…さ、き…サキぃ! も…俺も、出ちゃ…あ、あぁ…んっ! ふあぁあっ!」
数カ所同時に性感帯を責められて次第に体の力が抜けていったのか、俯くようにゆっくりと上半身を落としては首元に顔を埋めては小刻みに荒い呼吸を繰り返す相方の頭を今までの激しさとは裏腹にそっと優しく撫でてあげた。少し安心したのか暴れていた心臓が落ち着きを見せた頃にその耳元で小さく彼の名を呼ぶと、ひゅうひゅうと抜ける息とぽろりと青から零れた雫に口付けては背中に腕を回し、しっかりと一回り小さなその体をしっかりと抱き締めては今にも爆発しそうな自身を彼の中で再び突き上げていく。
「はっ、あぁあ…! あ、ついっ…だ、だめ! や、んうぅっ」
互いの胸を押し合う程に密着する体、背中に回る腕に篭もる力と欲しくて堪らないとでも言うように唇を貪り合い、このまま食べてしまいたくなる衝動を腹の底へと沈めては気が狂ったように何度も何度も突き上げては滾りきった熱がみるみるうちにその奥で膨らみを増していった。
「…っ、もっと、声が聞きたい…ヒナッ…!」
「あっ、あん! 恥ず、かしっ…ひ、うぅうっ! さ、き…さきぃ!」
突き出すように上がっていく臀部ごと、奥へ奥へと侵入させるように、肉が食い込む程しっかりと片手で掴んでは押さえつけ、ごりごりと壁にぶつかる感覚に満たされていく先でついに溢れ出した欲が彼の中で一気に激しい波となって放たれていった。と、同時に腹の上でびゅるびゅると音を立てながら果てた彼の陰茎の先からあたたかい白濁が勢い良く飛び出し、つうっと脇を伝って布団へと垂れては消えていくその白を細めた目でじっと見つめていた。
「は、あ…! ぁ、つい…は、っあ、うぅ…」
「…なんだ、もう寝ちまうのか」
「ん…やだ、寝たく、ない…」
「部屋に風呂が付いてる。今から入れるか」
「う…ん、平気…」
段々と瞼が落ちる中でもなんとかこちらの問いに答えようとする相方に小さく微笑みを落としながら、ほぼ意識が飛んでいきそうな状態の彼の中からゆっくりと自身を抜き出し、下半身を伝って流れゆく白濁を気にせぬまま、重くなった体を横に抱き上げれば、見下ろした先でぐっすりと眠る柔らかな表情にやっぱりなと心の中で呟いては小さく溜息を吐いた。
***
「やっぱり入れなかった?」
「は、はい…というか、入ってた時の記憶がきれいさっぱり…」
「わーい、俺も一緒一緒」
一生に一度しかお目に掛かれないのではないか、と思わせる程に豪勢で立派な旅館に宿泊をしてから数日が経過していた今日この頃。いつものようにバトル帰りの夕刻、相方と共に日課となりつつある銭湯へと足を運ぶと、入り口から入ってすぐ、いつものように番台で新聞を読みふける店主に声を掛けられ、それに応えるようにそっと頭を下げた。
日頃の疲れを取るようにゆっくりと湯船に浸っては、すぐに上せてしまう自分は相方を置いて先に出るとだけ告げては早々と着替えを済ませ、彼が風呂から上がってくるまで奥にある休憩室でテレビでも見ていようと、番台の前を通り過ぎたその時、ちょいちょいと手招きで呼び止められ現在に至る。
数日前、たまたま同じ商店街のくじ引きで当たる旅行券を手に持って同じ旅館へと宿泊した先でばったり出会ってしまった挙句、悲しい事に部屋が隣同士だったせいか、それを知らずに風呂から上がり部屋に戻った後、特に気にも留めないまましっかりと致すものを致してしまったものだから時既に遅し。行為に夢中になっていた自分は全く気付いていなかったけれど、どうやら相方と壁の向こうにいたヨリさんは声が漏れていたのを知っていたらしく、その話をアパートに帰ってきた後から知らされたものだから質が悪い。
「酷いもんだよ、せっかく高級旅館を隅々まで堪能しようと思ったのに」
「まぁ流されるままにって感じだったので、文句は言えないですけど…」
「だめだよ、そんな甘いこと言っちゃ。ほんとはみんなで夜通しで卓球したりゲーセンで遊んだり、同じ部屋でババ抜きとかしたかったのに!」
「ああいう旅館には置いてないと思います…多分…」
普段の生活が庶民的なせいもあるのか、何処へ行っても普段通り過ごそうとするマゴさんに苦笑を零しつつ、そのまま当たり障りのない談笑を続けているとある時突然、エゾッコメッシュの鍔の影から怪しい視線を送り始めた彼を不審に思いながらそっと小さな声で綽名を呼んでその表情を窺った。
「あ、あの…何か俺、変な事言いました…?」
「いやぁ…そうじゃなくて、ふふっ…。いやぁ、実はさぁ…むふふ、俺も聞こえちゃってたんだよなぁ」
「へ? な、何がですか…?」
非常に、嫌な予感がする。
これはもしやこのまま背を向けて店を出た方がいいのではないか、その直感に従い咄嗟の判断で下駄箱からクツを取り出そうと手を伸ばした瞬間。背後からがっしりと腕を掴まれ、番台から身を乗り出したマゴさんがにやにやといつにも増して一人楽しげに怪しく微笑みながら、ゆっくりと耳元に近づいてはぼそりと零した一言に対してすぐに理解する事など到底出来る訳がなかった。
「……ヒナタくんって、二人きりの時は見かけによらずえっちな声でマサキくんの事呼ぶんだね」
「っ…な、何を、言って」
「大丈夫。聞かなかった事にしといてあげるから。アイツにもよく言っておくよ」
まるでただの世間話のように淡々と話を進めていく彼の勢いについていくことなど出来るはずもなく、聞きたい事は山ほどあったはずなのにその時に限ってなにも口を出せずにいて、あれよあれよというままに休憩室へと追いやられてしまった。
「あっ…う、うぅうっ! ま、マゴさんのいじわるー!」
「…一体人の店で何を叫んでる。他の客に迷惑だろう」
「誰のせいだと思ってんだよ、ばーか!」
真っ白なタオルを首にかけ、ハラグロラグランに着替えては小脇に着てきたジップアップカモを抱えながら後から休憩室へとやってきた相方の、知らぬ存ぜぬといった無表情のまま的外れな事を言ってくるその様子に自業自得とはいえど少なからず腹が立っては一発腹を殴ってやった。そして、廊下の先の入り口でくすくすと聞こえてくる笑い声にげんなりと肩を落としながら、店の看板娘であるリンちゃんに普通の牛乳とイチゴ牛乳を注文し、未だ不思議そうに頭の上へとクエッションマークを浮かべる相方を横目に思わず大きく溜息を吐いたのだった。
(2017.04.16)
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