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「…で。結局、こうなっちゃうワケだ?」
「まぁ、そうだな。今度あの人には謝礼でもしておくか」
「その前に俺に謝罪をして欲しいんですけどね!」

 すっかり日が暮れて辺りが暗闇に塗り潰された頃。さすがにそろそろチビッ子達を迎えに行かねば収拾がつかないことになると慌てて相方の腕をジップアップカモの袖ごと掴んで引き摺っては、マゴさんが営む銭湯へと足を運ぶと、店の中からきゃいきゃいと実に楽しそうな声が聞こえ、なんだなんだとそっと玄関の引き戸を開けてみれば、番台のすぐ脇にある廊下の先、休憩所にもなっている小さな部屋でやいのやいのと騒ぎ立てながら遊んでいるチビッ子三人組が暴れ回り、それを収束しようとするも振り回されているヨリさんを遠くで眺めてはげんなりと溜息を吐いた。
 番台でにこにこと笑顔を掲げながら手を振るマゴさんに一体どうした事かと事情を聞いたところ、チビガールとチビボーイはすっかり遊んでくれるお兄さんをお気に召してしまったらしく、このまま泊まっていきたいだなんて言い出すものだから、こうなってしまうともうこちら側の言う事などまず聞かない。そこに看板娘のリンちゃんがもう帰っちゃうの、と寂しそうに問い掛けてきた事もありついには完全にノックアウトされてしまった、という訳である。
 マゴさんも別に今夜預かるくらいどうという事は無い、と言ってはくれたものの、こちらとしてもこのまま二人で帰るのは少々寂しい気持ちもあり、さり気なくチビガールの側でおにいちゃん達、二人で帰るの寂しいなぁとそっと零してみるも、いい大人なんだから一人でもおうちに帰れるようになりなさい、などと何故だか叱責を頂いてしまった(色々な意味で悲しくなってきた)。
 これ以上粘る事も難しいだろうと踏んだ相方は、マゴさんに明日の朝また迎えに行くと約束を交わし、いい子にしてるんだぞと二人に告げて、どうやら心情を察しているらしいマゴさんにお土産にと普通のビン牛乳といちご牛乳を手渡されては渋々帰路を辿ったのだった。
 そしてその数時間後。何故だかベッドの上に押し倒されている自分、そしてサファリハットの鍔の陰で怪しく光る赤目を細めながら口角を上げる相方が体を抑えつけるように伸し掛かっている現状のち、話は冒頭へと戻るのである。

「…散々バトルして疲れてんじゃないのかよ」
「デザートは別腹って言うだろ」
「ちょっと言っている意味がよく分かりませんね」

 そんな冗談を交わしている間にも、自分よりも太く逞しい彼の手のひらがイカホワイトVの裾からするすると肌を撫でるように滑り込み、無意識にもびくりと震える体と小さく零してしまった甘い声に慌てて口を塞ぐ。しかしその手はあっさりと頭上へと掴み上げられ、いかにもこの状況を楽しんでいるとでも言うような、目の前の彼の厭らしく且つ腹立たしい笑顔に大きく溜息を吐くこと以外抵抗の術はなかった。
 辛うじて存在する胸筋の肉を掬い上げるように揉まれ、次第に太い指先二本が既にぷっくりと立ち上がる先端をぐりぐりと摘まみ、あろう事か顔を近付けてそのもう片方までもフク越しに噛み付き、挙句の果てにはじゅるじゅるとはしたない音を立てながら吸い上げていく。その度に体全体へと、特に下半身へ響く微かな刺激に身を捩らせ、出したくて出している訳ではない自身の甘い声が寝室の中で響く度に沸々と頬が熱くなっていくのが分かった。

「っ、ひ、あぅ…! ば、かっ…も、それ、やめろって!」
「今夜は我慢しなくていいぞ。多少騒いだところで、誰かさんに怒られる心配もないしな」
「お、オマエなぁ…も、そこ、触んな! …ぁ、んうぅっ」

 左脇に未だ色濃く滲む青紫を手のひらで撫でられ、そっと指先で摘ままれる度に震える正直な体に思わずげんなりと肩を落とす。しかし恥ずかしがっている余裕さえも最早なく、ただただ逃げるように顔を背けては目を瞑って我慢をしていると、想像していた展開とは全く別、自身の股間に跨るように圧し掛かってきたかと思えば、いつの間にか脱ぎ捨てられたスパッツの締め付けから解放された彼の陰茎がぶるりと目の前で唸りを上げていた。

「は…ちょ、おま、それどういう…」
「これ、随分溜めてたみたいだな。俺が動くから、オマエはそのままおっ勃ててろ」
「おっ…たててろ、って…いや、嘘、ま、待って! っ…あ、ひあぁ!」

 慣れた手つきでこちらのスパッツも下着ごと剥ぎ取られ、太く垂直に力強く反り立った自身の息子を目の前にして照れ臭がる暇もなく、その根元をがっしりと握られ何度か上下に扱かれた直後。両膝をつきベッドシーツに深い皺を作ると、そのまま自身の臀部に自ら宛がっては既に拡げられていたらしい入口からゆっくりと挿し入れていた。

「ば、か…っ、この! 急に、挿れるヤツが、いる、かっ…ぁ、っく!」
「っ…う、どっちが先にくたばるか、勝負するか…!」
「何、言って…! ぁ、は、うぅっ…奥、ぶつか…ぁ、んぅ!」

 胸元へと上半身を前屈みに凭れさせ、そのまま後頭部の後ろへと腕を潜り込ませると、がっしりと体を密着させながら唇を押し付けられた。そのままぬるりと口を割るように侵入してきた舌が中で絡み合い、呼吸をするのもままならないまま僅かな隙間から熱い吐息が溢れ、互いに余裕などないはずだというのに止まらない腰に声が漏れずにいられる訳などなかった。

「ひゃ、あっ、やん! そんな、早いの、も…出ちゃ、あぁあっ」
「は、っく…どうしたっ…もう、降参か…!」
「だ、だってぇ! 中、すごい…こす、擦れ…っ、ん、うぅ」

 自らの意志とは全く違う動きを強いられている陰茎はまるで無理矢理に絞られているようにも感じて、唐突に響き渡る快感が挿入する側にも関わらずびくびくと体を震わせていた。自然と力が入り握ったシーツに皺を作り、ふるふると首を振るだけの抵抗も空しく、ただひたすらに彼の中で搾取されては時より貪るように口付かれては底から込み上げてくる熱に意識は浮かされていった。

「腕、こっちに、回せ…ッ!」
「サキ、ッ…ぁ、はぁ、んっ…も、や…っ、ぁ、ひあぁあ!」

 何度も腰を上げ下げし痛い程にぶつかり合う下半身と、その度にぐちゅぐちゅと撥ねる水音が脳内の中でうるさい程に響き渡り、自然と彼の首へと回った両腕、そのまま肩口に顔を押し付けながら今にも溢れそうになる欲を必死に抑え込む。すると、そんな中で彼が耳元で呟いた言葉が胸の奥に火を付け、少々苛立ちを覚えてか一体どこにそんな力があったのだろうと自分でも分からないくらいの勢いで、重みのある彼の上半身を押し上げてはそのままベッドへと背を沈ませていた。

「っ…何だ、オマエもやれば、出来るもんなんだなっ…」
「は、はぁ…うる、っさいな! お、俺だってな、ケンカ売られて、っ、そのまましてやられる程…ん、っく…黙ってられると思うなッ」

 もしかしたら上手い具合に罠に嵌ってしまったのかも知れない、と心の底で小さく溜息も吐くも、普段ではなかなか拝む事の出来ない相方のあられのない姿に興奮しているのは事実であり、何故だか緊張の面持ちのままごくりと息を呑んでは未だ繋がったままの臀部の後ろを露にするように両足を膝が胸元に着くまで持ち上げた。う、と少々苦しそうな声と、乗じて彼の下半身の重さに音を上げそうになりながら(まさか自分の非力さをここで悔やむ事になろうとはと思いつつ)ぐいぐいと腰を前へと押し入れていった。

「はぁ、はっ…ごめ、も、止まんな…ぅ、んうっ!」
「っ…く、あぁ…! は、ぁっ…出すんなら、早く出しちまえッ」
「そっち、こそ…ンなでっかくさせてるクセに、我慢するなよ、なっ!」

 ぐちぐちと肉を引き裂くような圧搾された水音と、何度も腰を前後させ半ば強引に捻じ込んだ陰茎は今にも熱が溢れそうになる程に膨れ上がり、普段の日常の中では絶対に見られない、痺れる快感で歪んだ相方の表情と気付かない間に赤く染まっていた頬、滴る大量の汗の匂いに胸の奥の鼓動は更に激しさを増していった。

「っ…サキ、の中…あったか、い…」
「…! ん、く…っ、ヒナ、ぁッ!」
「ぁ、んっ…ごめ、俺、もう…! ぁ、ん…ぅ、ふ、やぁあっ!」

 もっと奥へ入れろと要求しているかのように太い腕が首の後ろへと回り、決して柔らかくもない互いの汗ばむ胸板が自然と密着してはそのまま貪るように口付けを交わした。乱れた甘い声が飛び交う部屋の中でぴちゃぴちゃと交わる音が脳内に響き、それでも止める事の出来ない欲がついに相方の中で一気に決壊し、怒涛の勢いでその熱が溢れてゆく。
 まともに呼吸も出来ず荒々しく息を吸っては吐き、ぐったりと彼の胸元へ沈ませると耳元で小さく落とされた苦笑する声を聞いては、それにつられて乾いた笑みを零したのだった。


***


「随分遅かったじゃないか。二人に何かあったんじゃないかって心配しちゃったよ」
「あ、あは…あはは。すいません…」

 結局、二人して絶頂を迎えそのまま朝を迎えた翌日。目を覚ました時にはもう既に約束していた時間は過ぎており、慌てて支度をしてマゴさんの店へとチビっ子二人を迎えに行く事が出来たのは昼を過ぎた頃だった。
 案の定、頬を膨らませたチビガールが遅いと一言文句をいいつつも、どこか寂しげにリンちゃんに別れを告げ、ヨリさんに頭を撫でられていたチビボーイも名残惜しそうに俯くも、相方にすぐ抱っこをせがんでは眠そうにその胸の中で早くもすやすやと眠りについたのだった。

「まぁ…気持ちは分かるけども、もう大人なんだからあんまりはしゃぎ過ぎないように。この子たちの為にもね」
「本当に面目ない…ほら、オマエも謝れよっ」
「…すまん」

 どうやらマゴさんは遅刻の原因を完全に察しているらしく、ここぞとばかりに完遂してしまったばかりにチビっ子二人と彼らに心配を掛けた事に酷く申し訳無さを感じて、自身を頭を深々と下げつつ、隣りで眠そうに目を擦る相方の頭を力づくで下げさせたのだった。
 と、言えどマゴさん自身はそこまで怒っている訳でもなく、寧ろリンの遊び相手になってもらえて彼女も喜んでいたと嬉しそうに昨夜の出来事を語っていた(その一方、こちら側の遊び相手になって頂いたらしいヨリさんはどこかげっそりとしていた気がする)。

「ふふっ、二人で仲良く夜を過ごせたみたいで俺としては嬉しい事なんだけどね。ま、今度は四人で泊まりにおいでよ。二人が一緒の方がこの子達も喜ぶだろうし」
「あっ…はい。その時はご迷惑じゃなければ是非!」
「え、またおじさんちお泊まりできるの?」
「おじさんじゃなくておにいさんね、ナギちゃん」

 マゴさんの言葉を聞いて(都合のいい事に肝心なところは聞いていない)、やったぁと両手を上げバンザイをしながらぴょんぴょんとその場で飛び回るチビガールと、その様子に乗じて頭上のお団子を揺らせながら走り回るリンちゃんを見て、少々気まずかった雰囲気をいつの間にか取り払われ、嬉しそうに笑い合う二人に思わずつられてマゴさんと共に笑みを溢したのだった。
 そんな中、すぐ側でヨリさんと何やら小声で話していた相方は何か頷くように受け答えをしているところを目撃し、結局何の話をしているのか分からないままマゴさんらと別れを告げ店を後にしたその日の夜。どこか心の中でその風景が引っかかったまま、既にチビガールとチビボーイがソファーですっかり夢の中へと旅立ってしまった深夜。散々遊び相手にされたおかげか眠たそうに欠伸を漏らす相方が突然落とした言葉に一瞬で何処かに眠気が吹っ飛んでいったのだった。

「…そんなにシたけりゃ」
「はっ!?」
「たまに預けに来い、だと」

 まさか突然そんな話題を切り込んでくるとは微塵も思っておらず、一体何処からそんな話が舞込んできたのかと冷静に考えてはもしかしてそれはつい先程まで自分が少し気になっていた案件に関係しているかも知れない、と恐る恐るとんでもない事を無表情のまま言いのけた相方へと少々声を震わせながら言葉を返した。

「そ、それってもしかして、えと…ヨリさんが、そう…」
「しっかりどっちにもバレバレだったって事だな」
「あぁああぁっ…さ、最悪だ…」

 まさかヨリさんにまでも心中察せられていたとは思ってもおらず、更には変に気までも遣わせてしまった現実にがっくりと肩を落としたのだった。しかし、そんな自分を他所にくつくつと苦笑を零す相方は隣りでぐっすりと眠っているチビボーイの頭を優しく撫でながら、小さく息を吐きその優しい寝顔を見下ろしていた。

「と言えど、そういう理由じゃなくてもたまにコイツらを連れて店へ遊びに行くのも悪くないな」
「…サキ?」
「背伸びしたってまだ子供だ。これから先も、悲しいことだけじゃなく楽しい事もこの世界にはたくさんあるんだって教えてやりたい」

 仲良く小さな体を寄り添わせながら柔らかな寝顔を見せる二人を静かに見つめては、そう呟く相方にそっと頷き返し胸の奥でじんわりと生まれたぬくもりを感じていると、気付けばチビガールへと伸びた右手が彼女の額を優しく撫でていた。

「うん…そうだな。俺も、そう思う」

 小さな子供に愛情を与えられる程、相方を含め親の愛情を受けた経験がある訳ではなかった。それでも、今の自分達に注ぐ事の出来る全てを与えてあげたい。二人を守ると決めた日からその気持ちは変わっていない事、それはお互いにしかと認知している事。それらを再確認する事が出来たようにも感じて、こんな日々がいつまでも続いてくれたらいいと、一人そっと心の中で呟いたのだった。


(2018.04.30)


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