「あれはさすがに堪えたな」
「…それはこっちの台詞だっての」
まるで大した事などないとでもいうような言い回しで苦笑交じりにそう零す相方に対し、どっと疲れが滲み出るような深い溜息を吐く羽目になったのは、何を隠そう四人で出向いた祭りの日に起きてしまったある事件が原因であった。
時を遡る事、数日前。年甲斐もなくはしゃいでしまっている自覚はあれど、一度高鳴った胸はお囃子や和太鼓が響く華やかな雰囲気のおかげで落ち着く事を知らず、久方振りに着た浴衣の裾をぱたぱたとはためかせながら、すぐ側で夢中で駆け回っているチビッ子達と共に人混みの中を掻き分けていた。
子供の頃は幼馴染のケイと共に二人で出店を見て回り、今ではもう一歩後ろに下がって見守る側へと立場が変わっていた自身に深い感慨を覚え、少しでも目を離したら見失ってしまいそうなチビガールと彼女に腕を引っ張られ付いていくだけで精一杯のチビボーイの小さな背中を早足で追っていく。既に隣りでチビッ子二人が食べきれなかった分の綿あめをもそもそと無言で食べながら(袋の柄は子供に人気のあるアニメキャラが印刷されている為、それがまたあまりにも似合わず思わず笑いそうになる)、真っ黒の浴衣の袖をはためかせる相方は特に慌てる様子もなく、道沿いに並ぶいくつもの屋台へちらちらと視線を向けてはゆっくりと足を進めていた。
「おにいちゃん、アレ食べたい!」
いつの間にやら戻ってきていたチビガールにぐいっと腕を引っ張られ連れていかれた先には、今まであまり見かけた事のなかったりんご飴ならぬいちご飴を売っている屋台が佇んでいた。自身よりも一回り年齢が上に見える店主らしきボーイが威勢よく客引きをしており、ようやく食べ終えたらしい綿あめの袋を丸めて側にあったゴミ箱へ投げ捨てた相方がようやく三人に追いついた頃、既にチビガールは店に並んだ多数のいちご飴からどれを食べようかと熱い眼差しをじっと向け続けている。
「ユウも食うか?」
「ううん。僕、あっちの方がいい」
「あぁ…大判焼きね」
艶やかに光る赤い宝石より、チビボーイにとっては向かいの屋台で今まさに焼き立てが完成した大判焼きの方がお好みだったようで、未だに悩んでいるチビガールを相方に任せては、餡子とカスタードクリームの二種類を二つずつ購入した。迷わず餡子が詰め込まれた方を手に取ったチビボーイは目を輝かせながらそれを頬張ると、はふはふと熱々で柔らかい生地を噛み締めながらさぞ美味しそうに喉奥へと押し込んでいる。
そもそも毎年行われているらしいエンガワ河川敷で開催される夏祭りに皆で行こうと言い出したのは、昼間友人からその存在を知らされたというチビガールで、どうやらたくさんの屋台が並ぶ事を知っていた彼女は初めから出向く気満々の様子だった為に駄目だと言えるはずもなく、特に用事があった訳でもなかったのでそれならと箪笥の奥にしまっておいた浴衣を昨年振り程に全員腕を通したのだった。
どうやら天気には恵まれたらしく、満点の星空の下で高く聳え立つ祭りやぐらと複数人のはっぴ姿のインクリングが神輿を担いで通りを歩き、その脇に立ち並ぶ屋台は活気に溢れていて不思議と元気が沸き出してきて年甲斐なく高鳴る鼓動に口角は上がってゆく。少々腹が満たされたところで、二人分の大判焼きが入った袋を胸に抱いたチビボーイと共にもう一度いちご飴が売っている店のところへ戻ると、ようやく選び終えたのか口の中で真っ赤な苺を頬張る二人の姿を見つけ、花火の時間も近付きつつある頃、他の屋台をもう少し見て回ろうと提案すればすぐさま御三方の許可を得られたのだった。
***
二十年以上歩んできた人生の中で祭りに行った記憶などほとんど残っていない。まだ両親が健在だった頃、まだ幼かった姉と二人で見たぼんやりと脳裏に浮かぶ真っ赤な提灯が果たして定かなものであるかどうかさえ記憶が薄く、それでも口に含んだいちご飴はどこか懐かしい味がして、白黒だった景色が色付いていく感覚に一人静かに笑みを零した。
しかし、それ以前から自身の体に異変が起き始めている事はすぐに気付いた。あらかた屋台で食べたいものを全て購入し、雲一つない夜空の中で咲き乱れる花火を見上げながら四人で食べるお好み焼きはとても美味しく、大きな破裂音が鳴り響く度に辺りを飛び回りながら楽しんでいるチビッ子を眺めては一人静かに笑みを浮かべた。隣りで一つも残らず唐揚げやフライドポテト、たこ焼きを全て平らげた相方もどうやらようやく満足したらしく、デザートにかき氷でも食べるか、などと悪気もなく零すものだからいくらなんでも食いすぎだと咎めては額を指先で弾いてやった。
祭りも終わりを迎え始め、道が混まないうちに帰ろうという話になり始めた頃。体の中で起きていたその異変は白を切るにはさすがに耐えがたい程の苦しさを伴い、ごくりと息を呑みながらも平然を装いつつ三人には先に帰るように伝え、一人仮設トイレの中へと駆け込んでは現在に至る。
たまたま使用している人が他にいなかったから良かったものの、息も絶え絶え、徐々に熱を発してゆく体、そして浴衣の裾から覗く下半身が明らかに膨らんでしまっている事実に思わず頭を抱えていた。
(あの飴…何か仕込んでやがったな)
腹の底から沸々と込み上げてくる異様な熱に舌打ちを打ちながら、さっさとここで吐き捨てて今頃家に到着しているであろう相方やチビッ子の元へ帰ろう、そう思い便座に腰掛けてそっと右手を陰茎へと伸ばしたその直後だった。
「!」
一瞬視界が黒く染まり、そのまま狭い後ろの壁へと重い体を音を立てて押し付けられ、その衝撃で履いていた下着とスパッツがずるりと足元へ落ちるもそんな事を気にする余裕などなく、はらりと落ちた細い帯を咄嗟に奪われ手練れた様子で両腕を頭上に縛り上げられてしまい、最早その見上げた先へと細く睨み付けるだけで今の自分には精一杯だった。
「……どういうつもりだ」
「そろそろ効き目が出てきたかなぁと思って」
「っ…どうかしてるんじゃないか、アンタ」
「仕方ないでしょ? だって好みだったんだもん、キミ」
どこか蕩けたような真っ白な瞳で端から端まで舐めるように視線を当てられ、片手で腕を抑えられながら空いたもう片方の手で浴衣の共衿が重なった隙間にすっと滑るよう侵入を果たし、褐色の手のひらが素肌に滑る感覚に小さく声を漏らす。興奮しているのか耳元で熱い息を荒く吐き、ふと目についたのかそっと揺れる赤いピアスを指先で触れられたその瞬間、自分でも驚く程に目の前のボーイを強く睨み上げ、おっと、と一歩後ろにたじろいだその隙を突いて上げた右足で急所を狙うもぎりぎりのところで避けられてしまい募る苛立ちのせいもあってか思わず音を立て舌打ちをついた。
「…ちょっと量が少なかったかな」
「さっさと失せろ。痛い目、遭いたく、なけりゃ…っく」
「そろそろ限界のくせに意地張って。なかなか我慢強いんだね」
既に力の入らない体は壁伝いにずりずりと地へ落ちてゆき、自然とはだけさせながら開いていく下半身の目の前へと屈み、履いていた下着を下ろされその中に潜む、完全にそそり勃っている自身を根元からがっしりと握り締められた。ゆっくりと上下に扱きながらもう片方の手で浴衣越しにぐりぐりと胸元を摘まみ、嫌でも小さく漏れてしまう自分の甘い声に呆れて最早物が言えない。
「じゃあ、こっちはどうかな」
ふむ、と困ったようにそっと距離を取り、ようやく気持ちの悪い感覚から解放されたかと思えば、一体どこから取り出したのか直前まで屋台で売られていたと思われるいちご飴を目の前に取り出し、あろう事かその赤い先端を浴衣に隠れた下半身へと潜り込ませ、まだ開ききってもいないその後孔へと、無理矢理捻じ込みその実が完全に中へと入り込む程にぐりぐりと押し込まれていた。
「あっ、ぐ」
「何で俺がりんごじゃなくていちご売ってるか分かるでしょ? このね、尖った先端がね…奥まで届いてつんつんって触れると、結構気持ちいいって評判なの」
「っ、この…ふざ、け…早く、出…」
「…みっけた」
「…ッ!」
内壁の熱で溶け始めた蕩けた飴がだらりと外へ漏れ、それが滑りを良くしているのか難なく奥へと到達したいちごがぶつかる度に痺れるような快感で体が震え、それでも唇を噛み必死に食い縛ってはその波に耐えるも、薬の効果か力を入れているつもりでもみるみるうちに下肢は開けてゆき、次第に崩れていく体は自然と名前も知らないボーイの目の前でひくつく後孔を見せつけてしまうような体勢へと陥ってゆく。
「もう一個くらい入るかなぁ」
「ぁ…っく…いい、加減にッ! っ…は、ぁあ…ん、ぐ、うぅう!」
ただでさえ苦しさで呼吸も乱れているというのに隙間からもう一本、だらりと飴が滴るいちごを無理矢理に詰め込まれ、外へはみ出たままの重ねた二本の棒を前後にぐちゅぐちゅと音を立てながら動かされ、その互いが擦れ合う度に熱い息とはしたない声が嫌でも溢れていった。あまりの失態ぶりに視線を向ける事さえ出来ず、痛みを伴う程に首を背けながら目を細め、ただただ全てが終わってくれるのを心の奥で願っていた。
「そんな顔したって、まだまだ楽しみはこれからだもん」
「……随分と、趣味が悪い事をする…ッ、ぐ、がはっ! げほ」
「君みたいな生意気な子、こうして黙らせて醜態晒してあげるのも大好きだから、否定はできない…かな!」
「っ、は、ぁっ、く」
帯を外された浴衣は既に両肩からずり落ち、汗まみれになったインナーと太腿まで下ろされた下着、最早ほとんど半裸に近い状態のままサンダルが脱げ落ちた両足首を掴み上げられると同時に立ち上がったボーイは、クツを履いたままかかとでぐりぐりと股間を踏み付け、普段であれば痛みでしかないその仕打ちでもびくびくと震えてしまう自身に堪らず声を上げた。
「っ、は、ぁ…ぐッ、あぁっ!」
「気持ちいいでしょ? すごく気持ちいいよね? 顔、隠してないで見せてごらん、ほら、早くっ」
前に垂れた長い一本の髪を退けられ、激しく胸を上下させながら熱い息を吐き伏せていた顔を顎からぐいっと掴み上げると、ぼやけた視界に微かに映るにやにやとした厭らしい表情に目を細めた。それでも自身の体を痛み付けてくる行為は止まる事を知らず、足を持ち上げたせいで突き出た臀部を蹴り付けてきた。その拍子に未だ刺されたままのいちご飴の棒がどろりと抜け落ち、いつの間にか地面に膝をつき下半身を露出した彼が飴まみれになった後孔へと熱を宛がっている事に気付いて抵抗するも、がっしりと抑え込んだ腕が拘束を解く事はなかった。
「…その余裕のない顔がね、ソソるんだよ。もっと崩したくなる」
「は、ぁっ、っく…やって、みろよ…そう簡単に、堕ちると思ったら…っ、大、間違い、だッ」
「なかなか負けず嫌いだなぁ。ま、その強気な態度がいつまで持つのかっていう…っ、な、に…?」
出来る限りの抵抗はした。それでも駄目なら彼が思う存分自分を犯してさっさと手放してもらえるまで好きにさせておけばいい。そっと瞼を下ろし、最早そんな諦めの気持ちにもなりつつあったその最中の事だった。薄暗かった仮設トイレの中へ細い光がゆっくりと入り込み、真っ暗な視界が薄らと人工的な明るみを帯びたその直後。
「このッ…何やってんだよ、アンタ!」
聞き慣れた、しかし稀に聞く事のない力の籠もった怒声。先程まで自信に満ち溢れていたボーイの声は一瞬にして悲鳴へと変わり、数回何かを殴る音と共に漏れる嗚咽、その衝撃でぱっと目が覚めるように瞳を開けば、情けない声と共に遠くなっていくボーイの背と、入れ替わるかのように目の前には肩を激しく上下させてわなわなと握る拳を震わせていた相方が立ち尽くしていたのだった。
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