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「くっそ、どこ行ったんだよアイツ…」
会場で別れた時はあまりの唐突さに思わず頷いてしまったものの、どうも普段と比べ違和感のある相方の態度が気になって仕方がなかった。今いる場所からの帰り道はそう遠くもなかった為、既に疲れ果てて欠伸を漏らしていたチビッ子達を家まで送り、しっかり寝静まった後彼らにばれないよう、そっと外へと飛び出しては再び会場へと早足で向かった。一体何の用事で一人あの場に残ったかは見当も付かず、しかしどこか具合の悪そうな表情を浮かべていたような気もして、今更ながらそんな彼を一人置いて帰るべきではなかったと一人重い溜息を吐く。勿論その心配も理由の一つではあったが、どことなく嫌な胸騒ぎもしていて慌てて周囲を探すも相方の姿はどこにも見当たらない。あれだけ賑わっていた人々は数える程しかおらず、数ある屋台もほとんど畳まれていて(たまたま通り掛かったお好み焼き屋はまだ営業中で、売れ残りを安く販売していたので思わず夜食用にひとつ買った)、ゆらゆらと浮いていた提灯も今ではすっかり灯火が消えてしまっている。
(でかいからすぐ見つけられると思ったのにな)
ただでさえ背も高くがっしりとした体つきをしているので、何もない場所にぽつんと佇んでいれば自然と視界に入ってくるはずが会場の中を粗方探しても全く目につかず、もしかして入れ違いになってしまったのだろうかと頭を悩ませていると、ふと賑わいを見せていた場所よりも離れたところへぽつんと佇んでいる仮設トイレを見つけた。二つ並び、片方は誰も使っていないからなのか扉が開いたままになっている。ついでに用でも足していくか、とその中へと足を踏み入れようとした瞬間だった。
「っ…は、っぐ…ぁあ…!」
「…!?」
突如隣りの仮設トイレから漏れた微かに聞こえる悲鳴。しかもそれは知らないものではなく、毎日のように聞いている声であったものだから心臓がどくりと疼いた。ゆっくりと近付いて扉にそっと耳を当てると、どうやらやはり疑いの余地はなく、しかしどうやらこの狭いトイレの中にもう一人、相方以外の人物が入っているようで胸元をぎゅっと抑えつけながらゆっくりと息を呑んだ。
(一体、これはどういう、事…)
度々耳にする息苦しそうな相方の声、そしてもう一つの知らない声が交差する中で戸惑いを隠せず、一度自身を落ち着かせようと大きく深呼吸をしたその時だった。
「…その余裕のない顔がね、ソソるんだよ。もっと崩したくなる」
聞き慣れないその熱の籠もった声、そして今彼らがどのような状況に陥っているのか、その言葉だけでさすがの自分でも想像するのは容易いものだった。どうせ人気がない時間だからと思ったのか幸いにも扉に鍵は掛かっておらず、一瞬で沸々と腹の底から生まれた怒りに颯爽と体が動かされ、気が付けば力任せにその扉を開け放っていた。
「このッ…何やってんだよ、アンタ!」
自分自身でも驚くくらいの大きな怒声が狭い中へと響き渡り、目の前に広がった惨状を目にして無意識にも行動はエスカレートを極めてゆく。彼らからすれば前触れもなく突入を果たした自分の存在に驚きを隠せない様子だったが、今にも両腕を頭上で縛られていた相方が犯されそうになっているものだから当然怒りは収まる事を知らない。
既に下半身を露出し始めていたボーイの胸倉を掴み上げ、持っていた熱々のお好み焼きを顔面に叩き付けてやった。
「あっづ! なにこれ、熱い!」
「俺の夜食、存分に味わえバーカ!」
「っぐ! く、くそ…ざっけんな! この、覚えてろ!」
どうやら売れ残りと言えど焼き立てだったのか相当熱かったようで、おそらく顔を冷やす為であろう、仮設トイレから飛び出して水道のある公園がある方向へ颯爽と走り去っていったのだった(反撃されなくて安心した)。自ら飛び込んだ割には少々緊張を伴っていたらしく、未だ暴れたままの心臓を宥めるように胸を撫で、少々落ち着いた頃に呆然とこちらを見上げている相方に小さく溜息を吐きながらがっちりと帯で縛られていた腕を解放してあげる。
「おい、しっかりしろ! 死ぬな!」
「勝手に人を殺すな。…ンな事より、下、なんとかしてくれ」
「は? …うわ。なんだよこれ」
「アイツに無理矢理突っ込まれた。多分、奥も詰まってる」
「あ、悪趣味…。ちょっと待ってろ、今抜いてやるから」
浴衣がほとんど脱げかけているせいで、もろに露出されている下半身が目に入ると、その奥に潜む相方の後孔にいくつか棒が挿入されているのを見つけ、一番手前に見えたその赤い物体をひとつ引き抜くと、それは溶けかけたいちご飴のようだった。最早その姿が見えない程にもっと深いところまで押し込まれた他の棒を掴み再度ゆっくりと手を引けば、見上げた先で零れる苦しそうな、しかしどこか妖艶ささえ感じるその甘い声に自然と頬が赤らんでゆく。
「い、痛かったら、言えよ!」
「ん…っ、く…気を、遣うな。さっさと、出しちまえッ……は、ぁ…ぐ、うぅ!」
いちごにしては小さなりんご飴程度の大きさはあるらしく、中の肉壁をごりごりと擦りながらようやく吐き出たそれは既に飴が溶けどろどろになった実も原型を留まらない程に崩れつつあった。取り出した直後にだらりと落ちていく真っ赤な液体を出来る限りトイレットペーパーで拭き取ってやり、どうやら力が入らず立ち上がれないのか、ある程度着崩れてしまっていた浴衣を直してやっては背を向けて、その場に屈み早く乗れと促した。
「…汚れるぞ」
「そんなん今更だ]
「……」
「いいから、早くしろって」
迷惑を掛けたくない一心であるのか暫く躊躇した後、ついに観念した相方はゆっくりと沈んでいた体を起き上げ、両肩を掴んでは圧し掛かるようにその身をこちらへ任せた。しっかりと足を抑えて持ち上げた体はいつもより重く感じ、それでも絶対に離さんとばかりに一度体勢を立て直しては狭い仮設トイレの中からようやく脱出したのだった。
ぽつぽつと等間隔に並ぶ古い街灯が微かに夜道を照らし、河川敷から遠くに見えるハイカラスクエアの街は、日付が変わろうとしている夜更けにも関わらずきらきらと輝きは消えぬままだった。堤防の上の細い道をざりざりと砂を擦りながら歩き、まるでこの世界に二人しかいないかのような閑静さの中、耳元で聞こえてくる未だ熱い吐息としっかりこの身に伝わってくる早い鼓動にぎゅっと胸を締め付けられる思いだった。
そんな中、相方自身に今一体何が起きているのか。とぼとぼと帰路を辿っている間、祭り中に買ったいちご飴に催淫剤のようなものが入れられていた事、あまりに収まらないものだから一人トイレで抜いてから後を追おうと思って離脱したはいいものの、その時に薬を混ぜた本人に襲われてしまった事など、この数時間で起きてしまった騒動の話を粗方聞かされ、それに対してどう答えるべきなのか見当もつかず、悔しくもただただ俯く事しか出来なかった。
「…すまなかった」
しばらく会話の一つもしないまま、ただただ相方が無事であった事の安心感とやはり一人にするべきじゃなかったと数時間前の自分の行動に後悔もしつつ、何にせよ今は彼の体を休める事が先決だと足を速めようとした時。ぼそりと聞こえてきた、彼らしくもない弱々しい小さな声で零された謝罪の言葉に思わずその場に立ち止まってしまった。
「何だよ、急に」
「だから、その…手間を掛けさせた、と言ってる」
「手間、って…別に俺は」
「もうオマエには何も隠さないって決めたクセに、結局一人でなんとかしようとしてこのザマだ。自業自得にも程がある」
「…んな事言ったって、悪いのは全部アイツだろ」
「それでも、だ」
珍しくがっくりと項垂れて落ち込んでいる彼の姿を見て、何故だかまだ付き合い始めたばかりの頃の記憶がふと頭に過ぎってゆく。ジュースでも買いに行こうと一人夜の街をふらふらしていて面倒な不良に絡まれた時、自分のせいだと肩を落としていた相方を見て寧ろ彼に怪我がなくて良かったと安心して、そして今もまた、多少酷い目に遭わせてしまったものの無事に助けられた事にほっと胸を撫で下ろしている。
そんな自身の心境を他所に、少々強情で責任感のある彼はどうも約束を破った挙句、こちらの手を煩わせ、その上心配を掛けてしまった事に罪悪感を抱いているようで、相変わらず堅物野郎だなと思わず苦笑を漏らしてしまった。
「…笑うなよな」
「あっはは。いやあ、何というか。ほんとオマエってバカだよなって思っただけ」
「……」
「そんな顔するなよ。…俺の方こそ、もっと早く助けてやれなくてごめんな。ほんとはあの時、ちょっと様子が変だなって気付いてたんだ。でも、まさかこんな深刻な事態になってるなんて思わなかったから」
「オマエのせいじゃない。今回に限っては全部俺が…」
「分かった、分かったよ。あとで罪は償ってもらうとして…話すんのはそのでろっでろな体、綺麗にしてからな」
どこか納得していない様子の相方を見て見ぬ振りをしつつ、再び歩みを進めてからようやく辿り着いた見慣れた玄関の前で一息をつくと、物音を立てないよう扉の前まで近付き、静かに持っていたクラゲキーホルダーの付いた鍵をそっと挿し入れたのだった。
***
こういう時の彼にはどうも一生勝てる気がしない。それは以前から感じていた事でもあったが、それを改めて痛感させられてしまう日が来るとは思ってもみなかった。
最早万事休すと言わんばかりに抵抗する力さえ失っていたあの時、お好み焼きを片手に颯爽と姿を現した相方の姿を見上げ、あんな酷い状況だったというのに自身の胸の鼓動がどくりと高鳴っていて、あいつは一体何度惚れ直させるつもりなんだと溜息を吐いた程だった。
背負われたまま脱げかけていた汚れたサンダルを玄関に投げ捨て、足音を立てないように浴室へと向かった彼はプラスチック製の椅子の上へゆっくりと体を下ろし、互いに着ていた浴衣を洗濯機の中へと投げ入れてはパタンと扉を閉めた。汗や砂ぼこりでべたべたになった体と、そして未だ臀部や太腿にこびり付いた飴の残骸を温かいシャワーで流し落としてゆく。
「割と固まってんなぁ」
「…それ以上はいい。自分でやる」
「へ? あ…そ、そっか! ごめん、そうだよな。ははは」
太腿を滑るように手を伸ばし、固まった飴を湯で溶かして落とそうとする彼が次第に臀部の方まで拭おうとしたので静かにその腕を掴むと、どうやらその行動が無意識だったのかじんわりと頬を染めながら慌てて手を引っ込めた。しかしそこである事に気付いてしまい、体ごと再び手を引き胸元へと抱き寄せてはその真っ赤な耳元で口角を上げながらぼそりと熱い息を溶かしながら呟いたのだった。
「……それともここ、オマエが洗ってくれるのか」
「えっ! あ、う…え、と…その…それって、つまり…」
「俺が掻き出してやってるのを何度も見た事あるだろ。同じ要領でやりゃあいい」
「そ、そそそ、そんな事言ったって!」
掴んだままの腕を大きく開いた下肢のその奥まで無理矢理引っ張り込み、ひくつくその後孔に手のひらを押し付けるとびくりと震える右手。にやりと目を細めれば目の前の頬は更に赤らんでゆき、ごくりと喉を通る緊張感がひしひしと伝わってげらげらと声を上げて笑ってしまった。
「急になんだよ!」
「…いや、まさか今更そんな初心な反応されるなんて思ってなかったんでな。練習だと思ってやってみろ」
「あのなぁ…それ、さっきまで襲われて酷い目あってたヤツが言う台詞か?」
世間で言うお付き合いというものを始めてからそれなりに年月は経過しているはずだというのに、げんなりと肩を落としている相方は未だに夜の営みに関して不慣れな部分があるようで、しかしそういった純粋さがいつまでも残っているのも彼らしい部分でもあるような気もした。
そして彼の了承を得る間もなくゆっくりと腰を上げ、浴室の壁に前屈みになる形でその場へ立ち上がり、手をついたまま少々上へ剥ける形で尻を突き上げると、さすがに観念したのか、渋々こちらへ歩み寄ってきた相方は臀部を撫でるように手のひらを滑らせ、そのまま伸ばした人差し指の先を後孔へと侵入させてゆく。
「…は、ぁ…はぁっ」
再び中を圧迫されるような感覚と、その奥からこびり付いた固形物を掘り出そうとカリカリと壁を引っ掛けられるようなこそばゆさに自然と体が身じろぎ、自分でもどこから溢れているのか分からない熱の籠もる声が次々と零れていった。
「…粗方取れたと思うんだけど、中、少し流さないと残ってる」
「勝手にしろッ…好きに、すればいいっ…!」
「ご、ごめん。出来るだけゆっくりやるから、その…我慢、するなよ」
「あぁ、分か…ぁっ、く、ぅう!」
床へと落ちていく赤い飴の欠片が跳ねて辺りに幾つも散らばり、それでもまだ奥へと残る異物を綺麗に取り出そうと、相方は息を呑みながらも後孔にシャワーヘッドを宛がい、少しずつゆっくりと蛇口を捻っていった。途端、温い湯が一気に流れてくる慣れない感覚に呼吸が乱れしっとりと濡れた肌に汗が伝った。その様子を見た彼が心配そうに顔色を窺っていた事に気付いて、止めた方がいいかと聞かれて咄嗟に首を振る。すると次第にぽろぽろとお湯と共にようやく流れてきた幾つかの飴の塊が排水溝の底へと消えていくのを見てようやく一息つくと、互いに安心したのか、ずるずると崩れ落ちるように床へと座り込んだ。
「は、はぁっ…よか、った…全部出た、よな…」
「っ…おかげで助かった。なんだ、やれば出来るもんだな」
「全く、調子いい事言いやがって。…ま、その、じゃあ後は軽く体洗ってさっさと寝…」
「そんな状態でこれから寝られると思ってんのか、オマエ」
様子がおかしい事は彼の表情を見れば一目瞭然だった。放っておいたらいそいそと浴室の外へ逃げられてしまうのは明白で、背を向けた彼の腕を咄嗟に掴み取り、無理矢理振り向かせた直後に下半身がしっかりと膨れ上がっているのを確認してにやりと口角が上がる。しっかり興奮してるんだなと煽る言葉を贈ると、ようやく冷静さを取り戻したというのに再び沸々と頬を染めてゆく相方の素直な反応があまりに愛おしく、そのまま胸元へと引き寄せては苦しい程にしっかりとその体を抱き締めていた。
「こんのッ…バカ! 今夜くらい大人しく…」
「さっきの礼だ。手伝ってやるからそのまま凭れ掛かってろ」
太腿を跨ぐように膝立ちし、肩口に顔を寄せぴったりと密着し合った体、そして膨らみきった互いの熱を持った陰茎同士がぶつかる度に心臓が酷く高鳴り、彼の方の根元をそっと右手で握り締めてはゆっくりと上下に動かしてゆく。
「ぁっ…う、ちょっと、待てって…!」
「……ヒナタ」
「ん、っく…このまま倒れちまっても俺は知らないからなッ」
手の中でむくむくと固く大きく膨らんでゆく陰茎、負けじと両手で握り締め、にゅくにゅくと音を立てながら扱き返してくる相方を眺めているだけでぴりぴりと流れてくる快感は一層互いの熱を高めてゆく。自身の心臓はうるさい程にどくどくと震えを増し、空いた左手を彼の股下へと潜らせ、そのまま欲深ささえ感じるひくついた後孔へ二本の指先をずぶずぶと奥を広げるようにゆっくりとねじ込んだ。
「は、あっ、うぅ…ば、かっ、この…いきなりッ」
既に何度も挿入を果たし、まるで自身のモノだけが許されているかのような彼の緩んだ奥はすんなりと指が通り、じっくりと中の壁を押し広げながら一本、もう一本と数を増やし押し入れてゆく。その度に耳元に落ちる荒い息と甘さが含んだ声がぞくぞくと体を震わせ、ある一点を指先でそっと叩けばびくんと腰を逸らし、普段は絶対に聞けないような甲高い声が浴室の中に響いていた。
「ぁ…ッ、ひ、あぁっ! そこ、だめ、だって…ッ」
陰茎を握る力はとうに抜け落ちていて、ただただ添えるだけになっていたその手を重ねるように絡め取り、ぐりぐりと額を埋める彼の体をより一層力強く抱き締めては濡れた指先をゆっくりと引き抜いた。
「っ、ぁ…は、んう、ぅ…」
「…ここ、挿れていいか」
「う、ぐぐ…この、堅物ッ…! いちいち聞くなっ」
身を任せるようにだらりと項垂れた相方はなんとか力を振り絞り腕を掴んで上体を上げると、意外にも乗り気なのか硬く反り勃った陰茎を自ら後孔へと宛がい、そのまま腰をゆっくりと下ろしてはずぶずぶと厭らしい音を立てながら奥へと挿入していた。肉壁の熱に包まれてゆく自身はびくびくと奮え始め、唐突に全身へと流れた雷のような激しい快感に熱い息がだらしなく口から漏れてゆく。
「は、ぁっ…なんだ、意外とノッてきたな」
「こ、ここまでされてやめるヤツがいるかっての」
「…そのまま動いてみろ。押さえておいてやる」
胸が大きく上下する程に大きく息を吐き、俯く相方の青い瞳が次第に蕩けていく様子を静かに見上げながら揺れ動く腰を両手で支え、そのままゆっくりと上下する体の動きに合わせて突き上げれば、その度に落ちてくる甘い嬌声に思わず胸が高鳴っていく。
すると次第にその動きが止まり、自ら髪ゴムを抜き取ったかと思えば、先端からじんわりと赤みを帯び始めていた綺麗な水色の髪がだらりと顔の脇へと垂れた時、それを見せつけるかのようにひたりと額同士が触れ合って目の前でそっと呟くように名前を呼ばれた。無意識に右の手のひらで汗ばむ頬を撫でてやると、驚いたのか相方は俯かせていた顔をぱっと見上げ、ようやく見えたその表情の中には意外にも目元に涙がぷっくりと浮いていたのだった。
「…ヒナタ?」
「ぁ…う、ご、ごめんっ。えと、これはその、違、くて」
それは確実に熱で浮かされたものではなく、しかし悲しげでも冷えた涙でもない事は確かで、呆然としながらも指先でそっとその滴を掬うと、ゆっくり解れていったその表情に自身の胸の内もゆっくりとぬくもりを帯びていた。
「苦しかった、か」
「…え?」
「これからは、オマエやチビ達だけでなく自分の事も考えるようにする。だからもう、そんなくだらん事で泣くのはやめろ」
「サキ…」
目を伏せ静かにそう小さく零すと、項垂れるように体を前へと倒し体重を掛けてきた彼の背中へ両腕を回してしっかりと抱き留めた。すると未だ息を荒くさせながらも耳元でひとつひとつ落ちた言葉はしっかりと自身の脳内へと焼き付いていったのだった。
「…あ、の。安心した、だけだから」
「何…?」
「オマエがトイレん中で酷い事されてた時は助けなきゃって思いで夢中だったから…でも、今こうして、その…ちゃんと無事で、俺の目の前にいて、相変わらず調子乗りなヤツって思ったら、なんか…ぐすっ、ごめ…勝手に、溢れて、きて…ッ」
視界には入らずとも分かるぽろぽろと溢れ出しているであろう大粒の涙が肩へと落ちて腕を伝い、濡れた床へと混じっては消えてゆく。震えた濁声が嗚咽と共に零れ落ちて、ぎゅっと胸を締め付けられるような感覚に腕に込めた力が増し、そのままどくどくと直に伝わってくる彼の鼓動に思わず目頭が熱くなっていた。
「……責任は取る。だから、我慢はするな」
「う、うぅ…うぅうう〜っ…! サキの、ばかっ…あほ、デカブツ老け顔〜!」
「さすがに言い過ぎだろ、それは」
「え、へへへっ。…明日のメシ、絶対炒飯だぞ。いいな」
呼吸を落ち着かせるように背を撫で、顔を上げふと目が合った瞬間、ほのかに赤くなっていた目元に口付けを落とせば、ふにゃりと蕩けた笑顔が浮かんで堪らず釣られてゆっくりと口角を上げた。
「…仰せのままに作らせて頂きますよ、オヒメサマ」
「はぇ? わっ、ちょ…おっととと!」
そのまま奥へと入ったままだった陰茎をそっと抜き取り、相方の体を抱きかかえるように所謂お姫様抱っこの形に持ち上げては、濡れた体にも関わらずそのまま寝室へと移動しては朝まで互いに果てるまで体を重ねた。
今では当たり前になっていた彼が自分の隣りにいてくれている事、いつだって与えてやりたいと思う愛情と、胸の中ですやすやと眠っている相方の、出会ったばかりの頃から感じていた自分にはない強さに今回も負けてしまったと大きく溜息を吐きながら重い瞼をゆっくりと閉じていった。
そして早朝になり、ぱっちり目覚めていたチビガールに帰りが遅かった事及びびしゃびしゃになったままの廊下に関して散々厳しく怒られつつ、二人、苦笑を零しては致し方なく押し付けられた雑巾を搾っては起床して早々に重労働を課せられたのだった。
「そこ! まだ汚れてるでしょ! やり直し!」
「へいへい、了解でっす」
「分かったならへいは一回でよろしい!」
「…おねえちゃん。それを言うなら、はい、だよ」
(2018.10.15)
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