「アウラ」
小さな手に杖を持ったジレーネは、叔母のアウレリアの元へと駆けて行った。
「彼がどこにいるか知っていますか?」
彼、とは多分アウレリアの息子のことだろうと思い、彼女は屋敷から少し離れたところにある森の方向を指差した
「アドラーなら森に入って行ったわ。彼を探すにはいいけれど、くれぐれも迷子にならないように。いい、ジレーネ?」
「ああ、ありがとう!」
男のような口調で感謝を伝えて部屋を出ていった彼女をみて、アウレリアはため息をついた。
彼女はジレーネが、変人の母親に毒されないように、面倒は基本自分で見て、できない時にはアドラーと遊ばせた。それはよかったが____つまり、小さいジレーネは変人にはならずに済んだが、新しい問題が浮上した。彼女の口調や身のこなしが、アドラーに影響されて、雄々しくなったことだ。従姉がこの前、彼女たちを訪ねて来た時は、ジレーネのあの可愛らしい顔から、「わたしはジレーネだ」とかなんとか、男の子らしい言葉が出てきたので、腰を抜かしかけた。従姉はぎょっとした表情を浮かべていた。ジレーネの母のグレーテが、初めて彼女の婚約者の前で奇行を見せた時の、その旦那の顔に似ていたものだから、アウレリアは苦笑いをしてしまった。
どうにか矯正しようとは思ったのだが、アウレリアは一ヶ月前生まれたばかりの赤ちゃんの面倒を見るのに忙しく、なかなかジレーネたちに構ってやれることがない。他の人に頼ろうとしても、グレーテには当然頼れず(というか頼ってはいけない)、その夫のイワンは、ジレーネが生まれてから、母の具合が悪いと言ってロシアに逃げるように帰っていった。その他には石頭の老人しかいない。この家にいるまともな大人はアウレリアだけなのだ。
ベビーベッドから赤ん坊の泣き声が聞こえた。彼女はドイツ語で子守唄を歌った。