02



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ブックマンへコムイがノアの一族についての話を聞くため、アレンとラビは部屋を閉め出された。
気まずい雰囲気に二人で見合ったとき、廊下の遠くから足音が聞こえてきた。
確実に近付く足音に目的地はここかと、二人は警戒する。
やがて窓からもれる光がその姿を照らした。
目を覆い隠すサングラス、髪の一筋とて見させない深いフード、羽織っているマントは黒一色だ。
アレンの疑念が、集中する。
ラビがその人物に手を振った。


「ひっさしぶりさぁ、紫姫!」


紫姫と呼ばれた人物は返事をしない。
相変わらずさぁ、とラビが笑った。


「知り合い…ですか?」

「うん。エクソシストよ〜。ちなみに貴重な女の子」


ラビが手で口を隠し、アレンに耳打ちする。


「態度がチョー悪いけど目ぇつぶって。性格じゃなくて性質だから」


急にラビが固まる。いつの間にか目前にいたその人に、アレンも固まる。


「邪魔。そしてうるさい」

「はい…すみません……」


アレンがラビの足元を見ると、ブーツのかかとで踏まれていた。
おまけにグリグリと捻られ、ラビは絶句する。
後ろで跳ねるラビを無視して、その人である紫姫はドアノブに手を掛け、押した。
鍵が掛かっているためもちろん開かない。


「今入れないさ。コムイがジジィに話聴いてるか……ら…」


ラビの言葉を無視し、紫姫は扉を蹴破った。
ブックマンとコムイが紫姫をみる。


「や、やぁ、紫姫君!」

「もう少し静かに出来んのか」


ブックマンは普通だが、コムイの様子が明らかにおかしい。
何の遠慮もなく入る紫姫が、積み重なった中から的確に分厚い本を取り、コムイに投げた。
回転しながら飛ぶ本は、コムイの頬にめり込みながら直撃した。
書類の中にコムイの姿は消え、ブックマンだけが残る。


「よくもこんな所に呼んだな…巻き毛」

「てへ! かわいいでしょ。僕のチャーム……」

「うるさい」


紫姫が書類の海からコムイを引き上げる。


「私はね、アイルランドにいたの。そう、ちょうど独立戦争が起きてるど真ん中にね。
戦争の火花を避けて、踏みにじりながら任務を完了したら、なに?
随分と簡単に次の任務を言ってくれるじゃない?」

「あの任務はね…難しいから紫姫君が適任だと思って!
それに今回は今までと少し違う任務だから、早く来て欲しかったんだ。足並みを合わせたくて」

「氷河に悩まされて、最後は徒歩ってのも計算済みで?」

「でも君は僕が思うよりずっと早く着いた! さすがだよ!紫姫君! 君はやっぱりてんさ……」


底辺よりも更に低い場所に、沈められたような鈍い音とともに、書類の山でコムイが姿を消した。

数秒か後に屈んでいた紫姫が体勢を戻し、何度か足を上下に動かしていた。


「針ジジィ、任務の内容は?」

「聞いとらん。それも含めた話をしておる。
少なくともリナ嬢が目を覚ますまでは待機じゃ」

「どれくらい?」

「決まったことは言えんが、そう待ちはせんじゃろう」

「めんどくさい」


紫姫が部屋の外へ向かう。
そしてアレンとラビの間を通り抜けた。


「早く終わらせてよ。凍死する前に」

「あ! 待つさ、紫姫!俺も行くさ!」


一人歩いていく紫姫の後ろに、ラビが付いて歩いていく。
アレンは終始紫姫の振舞いに唖然していた。
そんなアレンをラビが笑顔で呼び、結局三人で外に出た。





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