「『イブは練習だけど、二十五日は午前中だけになったから、お昼からなら会えるよ。どうする?』だってよ!?
この前デートしよって話したんだけどこれってそうだよね!
どうしよう岩えもん〜!?」
「殴るぞ」
冬休みを数日後に控えた中、春高までのスケジュールが出たと律ちゃんに連絡を貰った。春高は一月五日から東京体育館で行われる為、前日に移動をするとのこと。大晦日から三日まで休みだけど、クリスマスも折角だし会いたいと話していたのだ。
クリスマス。世間では、恋人たちの日なんて言われるしね。
「デート。初デートだよ。どこに何しに行けばいいと思う?」
「何で俺に聞きに来るんだよ」
お昼休みになった瞬間ご飯をもって岩ちゃんのクラスに突撃した俺は、ずっとデートについて岩ちゃんと話していた。
世の中のカップルってクリスマスは何をしてるの?恋人たちの日なんでしょ?ちょっと何かいい案でもありませんかね?アッ岩ちゃんには彼女とかいないけど!
そう思いながらパンの袋を開けていると、「お前、なんか今俺に対して凄く失礼な事を考えたろ」と言われた。
気のせいってことにしておいてくれ。
「中学の修学旅行、ヘタレ発揮して誘えなかったもんなお前」
「ウッ」
「今回もなんじゃねぇの」
「そんなこと!」
無いと言えないけれど。でも本当に、あの時は誘えなかった俺が悪いって思ってたし、律ちゃんは何も悪くなかったのに若干あたってしまった。
この前初めてキスをした日、俺たちは普通の恋人の様に手を繋いでいた事を思い出して、なんだか中学の修学旅行と重なった。あの頃からずっと一途に想い続けて、ようやく律ちゃんと結ばれたのだ。途中色々あったけれど、もう彼女以外いないと自信をもって言える。
「……だけど、もう俺は律ちゃんの手を二度と話さないって決めた。だから失敗なんてしたくないの」
「だから何で俺んとこに来るんだよ」
確かに岩ちゃんは色恋沙汰とかそこまで興味もないし、例え部室でいかがわしい話題で盛り上がっていようとそこに決してふざけて混ざったりしない。良く言って堅実、悪く言って堅物野郎だ。でもこの頼れる幼なじみはずっと俺たちのことを見守ってきたから、相談しようと一番に頭に浮かぶ。それに、
「だって、岩ちゃんと律ちゃんて仲良いじゃん」
中学三年間同じクラスで、最初の頃はそこまで話さなかったとしても二年からはよく一緒にいたみたいだし。サッパリした性格や同じポジションだったことで物事の価値観が似ている。
「……お前が櫻井と付き合ってるんだろ。アイツなら、及川が考えたのならってどこにでも付いていくと思うけどな」
「ええ〜〜〜そう?そう見える??」
「つか、誰でもそうじゃねぇの?
お前がそこまで楽しみにしてんのは櫻井と出掛けるからじゃなくて、好きなやつと出かけるからだろ。
それならどこ行っても楽しいんじゃね?」
「い、岩ちゃん……」
岩ちゃんが言おうとしていることにも納得できる。確かに、律ちゃんと居られるなら………あ、
『このまま、ずっとこの時が続けばいいのに』
『ふふ、私も同じこと考えてた。楽しいね、及川』
……。律ちゃんと俺の関係は昔と今とで全然違う。話す内容も距離も、変わらない様でいて甘く、恋人らしいものになっているのだろう。記念すべき初デートだ。半日だけど、それでもお互い何かと忙しい中時間を作っている。ここは男として……否、彼氏として!俺がリードするべきなのでは。
「そういや、やるよ」
そう言って岩ちゃんが財布から取り出したのは、映画の割り引き券だった。
「櫻井、映画好きだったよな?なんか見てくれば」
「さっ、さすが岩えもん!!」
そう言ってチケットを受け取ると、岩ちゃんから愛が篭った拳までいただいた。言わずもがな、クソ痛かった。
* * *
冬休みに入り、クリスマスに年末にと年の瀬が近づいてくる頃。それでも私たちはあいも変わらずバレーに明け暮れていた。
「ちげぇ!重心意識しろっつってんだろ!!」
「うっせぇなあもう!」
練習終わり、影山と日向と試行錯誤しながらジャンプを強化していた。物事に熱中するのはいいことだけど、潔子が来なかったら完全にあのまますっぽかしていたかもしれない。
「律。今日十五時からデートって言ってなかったっけ」
「あっ、え。今何時」
「十三時」
うわぁ。今日は絶対練習終わったら即帰るって決めていた筈なのに。エナメルに荷物を詰め込んで、二人に「ごめん帰る!また明日!」とだけ言って、滅多に使わない学校近くのバス停に向かった。
家に帰ってシャワーを浴びてご飯を食べて、と待ち合わせ場所までの距離や時間を逆算しつつ、少し浮かれている自分にらしくないなと照れた。
* * *
俺は部活を引退しても体づくりのために時々混ざりに行ってるし、それ以外の時はランニングや筋トレをしたりしている。そうしないといけない、なんて思っていた時期もあったけど、最早これが当たり前になっているからだ。
そして、コレも当たり前。
「及川さん!?」
「えっうそ!ラッキー!!」
ああ、やっちゃったな。なんて思いながら声をかけてくれた女の子に微笑む。自分の顔の良さがわかっているからこそだし、応援してくれる女の子を無下にはできない。それは、例え彼女ができても同じだった。
待ち合わせは十五時で、まだ十分はある。せめて律ちゃんが来る前にこの子たちから離れておかないと。
「及川さん、私たちこれからカラオケ行くんですけど……その、よかったら一緒に行きませんか?」
「いや、ごめんね。先約があるから」
「っ、でも!さっきからずっとここにいますよね!?」
「ウッ……まぁ、」
ちょっといいとこ見せたいなと思っていたのもあるけれど、楽しみすぎてソワソワして、家を予定より三十分早く出てきてしまったってのもある。今まで練習の日が多かったからこそ、クリスマスによる混み具合を舐めていた。
「だったら、もう来ないんじゃ……」
「ね、及川さん!」
「え、ええ……?」
基本俺は女の子大好きだし、対応が甘いという自覚もある。かと言ってこのままっていうのも……
「私、実はクリスマス及川さんと過ごしたいなって思ってて」
「ちょっと!いきなり」
「だって〜〜〜!及川さん、」
ギュッと腕を掴まれそうになった瞬間、その手は突然横から伸びてきた手にパシッと叩かれて中途半端な位置に止まった。視線を向ければやっぱり律ちゃんで、いつもの様に……、アレ。
雰囲気が呆れた様なものではない事に気づいた。もしかして、怒ってる?
「な、何なんですか!?イキナリ」
「………ごめんね」
俺に背を向けているから彼女の表情はわからなかったけれど、それでも声は聞こえてきて。ギュッと強く握られた手はこの前と同じで寒いはずなのにどこか暖かくて。
「彼、私のだから。取らないで」
息が、止まるかと思った。
俺の方をようやく振り向いた律ちゃんは薄ら頬が赤くなって汗ばんでいた。午前中は練習だと聞いていたから、急いで来たのかもしれない。
「遅くなってごめん。待ったよね」
「律ちゃんを待つのには慣れてるし、嫌いじゃないから全然良いよ。私服姿見るの初めてだけど、似合ってる」
「、………ありがとう。そういうことだから。行こう、徹」
そう言って早足に映画館の方へ足を向けた。後ろを振り返れば女の子たちは絶句していて。それに少しだけ申し訳なく思いながらも、凄く嬉しく思った。
「……徹が女の子に人気があるのも優しいのも、断り切れないのも知ってる。でも、ちょっと妬いた」
「ウッ……ちょっと待って」
何?なんて振り返る彼女はいつもの様に凛としていて、俺は両手で顔を隠そうとした。俺、今絶対顔赤い。だって、あの律ちゃんが、うわっ。妬いたって。妬いたって!?
「………供給過多で死んじゃいそう」
「死なないでね」
事前に岩ちゃんに映画の割引券貰ったから行こうと連絡すると、それなら丁度見たかったものがあったと言われていたので、それを見ることになった。暗くなった館内に人はそれなりで、買ったドリンクを持って席を探す。
「あ、ここ」
「おっけー」
いつだってピンと伸びた背筋も、真っすぐな瞳もかっこいい。さっきの仲裁も今も、律ちゃんはサラッとこなしてしまって、それが彼氏としては少しだけ悔しく思える。それでも、今までバレーでしか関わりがなかったから、こうして映画館でデートなんてオーソドックスな事をしているのが新鮮で嬉しい。
先に座った律ちゃんにドリンクを手渡して、前の暗い画面に視線を向ける彼女にそっとキスを落とした。そのまま隣に座って彼女を見ればぽかんとしているものだから、それが面白くて少し笑った。昔に比べて表情の変化が分かりやすくなっている気がする。
「と、おるって……キス魔だったりする?」
「え?いや、うーん……でも、律ちゃんだからしたいっては思うよ。嫌だった?」
「嫌じゃ無いけど、びっくりした」
少しだけ頬を赤く染めた律ちゃんが暗くなる前に見えて、やっぱり可愛いなぁと俺も前を向いた。注意事項とか、公開予定作品の紹介が流れる中でそっと手を繋げば、握り返してくれる。修学旅行の時と重なるけれど、やっぱりあの時とは全然違う。
鑑賞中も隣に座る律ちゃんを盗み見れば、いつもよりかは目を輝かせている気がした。
それから数時間。コッテコテの恋愛映画ではなく、バトル物の洋画というところが律ちゃんらしいとは思っていたけれど、めちゃめちゃ面白かった。普通にのめり込んでしまった。CGのクオリティ凄いし、ストーリーもしっかりしていた。始まる前は日本の映画より長いな、寝そうだなとは思っていたけれど、それを全然感じさせない。
「大当たりだった……めちゃめちゃ良かった」
「最初どうなるんだろって思ってたけど、最後めっちゃ良かったね!ドキドキしっぱなしだった」
「カメラワークとか、凝ってたし。アクションシーン凄い」
「迫力あったし、どうやって撮ってるんだろうね」
「俳優さんって、凄いよね。どの角度からどう自分が見られてるのか全部わかってるみたい」
「ほんと!」
「今まで別々の作品だったから、今回ようやく繋がったんだよ。この先も楽しみ」
「そうなの?ええ、見てみよっかな」
「じゃあ、今度はうちで見よ。お正月は映画見ながらゴロゴロしてよっか」
「お家デートだね」
映画館を出ると感想を話しながら大きいショッピングモールをそのまま目的もなくブラブラと歩く。目についた雑貨屋さんを覗いたりスポーツショップに寄ったりして、最終的に本屋に落ち着いた。はじめは漫画本や参考書を物色していたけれど、雑誌コーナーで映画についての特集や月バリを二人でパラ読みしながら話していた。バレーや進路の話になると、そういえば。と律ちゃんが切り出してきた。
「徹って高校卒業したら、どうするの?」
「ああ……言ってなかったね」
いや、本当は自分から言うのが怖くて言い出せなかっただけだ。
「海外リーグ、挑戦することにした」
ようやく結ばれたのにまた離れてしまう。
それでも、進路って恋愛に左右されるものでも無いだろうし、多分俺は夏に律ちゃんと付き合っていたとしてもこの道を選ぶ。
別れるなんて、思ってない。絶対に離さないから。
でも、少しだけ……ほんの少しだけ、律ちゃんの反応が怖くもあったのだ。
「何処行くの?」
「アルゼンチン。
……小学生の時に見た日本対アルゼンチンの試合で、ホセ・ブランコ選手が印象に残っててさ。まぁ、俺がセッターやってるのもその人の影響なんだけど。
監督の知り合いの紹介で、その人と会って話したんだよね」
『自分より優れた何かを持っている人間は生まれた時点で自分とは違い、それを覆す事などどんな努力・工夫・仲間を持ってしても不可能だと嘆くのは、全ての正しい努力を尽くしてからで遅くない。
ただ『自分の力はこんなものではない』と信じてただ只管まっすぐに道を進んでいく事は、『自分は天才とは違うから』と嘆き諦めることより辛く苦しい道であるかもしれないけれど』
その言葉を聞いた時に頭に浮かんだのは、中学の頃の弱い俺と選手だった頃の律ちゃんだった。
決してバレーを嫌う事は無いけれど、苦しい時期もあった。頑張らないといけないと練習に励んだり、ライバルや後輩を疎むこともある。
苦しくても辛い思いをしても、好きだから。その先《楽しい》を知っているから、今までもこれからも走っていけると思えた。
全ての正しい努力は人によって違うだろうし、俺はまだ全然足りないかもしれない。でも、それを成し遂げようとしている子の姿なら毎日近くで見てきた。
「……そこで、俺はこの人から学びたいって思った。セッターとしてもっと上に行かなきゃ行けない。俺がアイツら全員倒すためにはまだまだ努力が足りないし、それがどんな道でも進まなきゃ行けないって思った。
だから、卒業後は彼が監督をしてる立花レッドファルコンズのトライアル受けるかなって思ってたんだけど、アルゼンチンに戻るって言うから……」
「全然おかしくないよ」
静かに聞いていた律ちゃんだったけれど、やっぱり否定なんてしないでいてくれた。
「私も海外リーグは挑戦したいって思ってるし、それが少し早まっただけ。
……中学三年の夏から三年間。徹には待たせちゃったから、会えなくても平気。まぁ、少しは寂しくなると思うけれど…」
「律ちゃん……」
「それに、一々驚いてもいられないしね。
私は、徹が若利と話していた言葉聞いてからはもう心配なんてしてない」
「牛島と……あ、え!?聞いてたの!?」
「あ、」
『取るに足らないこのプライド、絶対に覚えておけよ』
春高予選で烏野に負けた後に牛島と話したけれど、まさか律ちゃんに聞かれているとは思わなかった。律ちゃんはごめんと少し申し訳なさそうに謝ったけれど、すぐに目つきを変えて笑った。
「……徹らしいなって思ったよ。
私も、目の前の敵全員倒す。頑張るから」
そう言った律ちゃんは昔より輝いて見えて、それが凄く嬉しかった。昔は練習していても試合に勝ってもそこまでの熱を感じなかったから。彼女が再度選手を目指す事について俺は何も聞いてないけれど、それでも昔は見なかったこの熱が冷めないことを願うばかりだ。
「まぁ、勉強が大変なんだけどね」
「、アルゼンチンなら公用語ってスペイン語だよね」
「うん。英語すら危ういのに」
「簡単だよ。話したいって思えば、いくらでも覚える」
今まで一緒にいられなかった時間を埋めるかの様にいろんな事を話して見て回った。気がつけば外はだいぶ暗くなっており、イルミネーションが光り輝いていた。
小腹が空いた事だし、駅前で行われていた小さい規模ながら人で溢れているクリスマスマーケットに寄って帰ろうとなった。
綺麗だね、なんて言いながら雑貨やイルミネーションを見て回っているそんな時だった。
「徹」
「ん?」
律ちゃんに袖を引かれて立ち止まると、彼女の視線の先には小さな女の子が一人フラフラしながら歩いていた。
「……迷子かな?」
「多分。ちょっと声かけてみよ」
こうして何の躊躇いもなく困っている子に声をかけるところも好き。話し下手で人見知りの筈なのに、放っておけないんだろうなぁって。
お母さんを探しながら目に涙を浮かべている女の子の前で、膝を曲げた。視線を合わせてゆっくりと丁寧に相手をしようとする律ちゃんの隣で、俺は近くにそれらしき人物はいないかと視線を彷徨わせる。
「私と一緒に探そうか」
「っ、知らない人についていっちゃいけませんって、ママ言うもん!」
おやまぁ。さっきまで寂しそうにしていたのに。予想の返答を貰ってしまった。
最近の子はしっかりしてるなぁと感心して、どうしようかと駅の案内所の方へ連れて行こうかと考える。
「へっくしゅん!」
「風邪ひいちゃうよ。はい」
長い時間外にいたのだろう。くしゃみをした女の子に身につけていた紺と深緑のチェックのマフラーを律ちゃんが首に巻いてあげると、その暖かさからか女の子は泣き出してしまった。
あ〜らら。なんて思いつつ急いで女の子を抱きかかえて駅の案内所まで向かうと、丁度そこには女の子の母親らしき女性がいてその姿を見た瞬間「ママ!」と嬉しそうに走り出していってしまった。
「見つかったみたいでよかったね」
「そうだね」
もういっか。戻ろう。お腹すいたね。何食べる?なんて話しながら、ひっそりとその場を立ち去った。お礼を言われたいわけでもなかったし、会えたのならする事もないしと。
「……っくし!」
「そういえば律ちゃんのマフラー、あの子に渡しちゃったね」
「まぁ、安物だし全然いいけど」
チーズがかかったソーセージの盛り合わせを二人で分け合いながら食べていると、律ちゃんがくしゃみをした。コートを羽織ってはいるものの、首元が少し寒そうだ。
「……」
「?どうしたの」
「いや、なんでもない」
その白い首筋に目が行って、ジッと見つめすぎてしまった。
俺だって男子高校生だし、やっぱり性欲もそれなりにあるわけだし。いや、でもこんなところで………
「春高あるし、新しいの買ってしまおうかな…」
「じゃあ、食べ終わったら中戻ろっか」
「だね」
次会えるのはお正月。律ちゃんのご両親が旅行に出かけているからと、どうせなら泊まる?とまで言ってくれた。勿論、そこまで言ってもらって乗らない俺でもないし、それなりの期待もする。
悶々と考えていると「マフラー、徹が選んでよ」なんて話すものだから全くこの子は!なんて思いつつ顔を覆った。
「……何してるの」
「律ちゃんて、ほんともう……やだ……」
「それよく言われるんだけど何なの」
「しかも無自覚かよ……」
いや、そういうところも素敵だと思うし好きだけどね。他の人にもそうなの?なんて。
「何?惚れ直した?」
「天然タラシだよこの子……」
顔を覆った手を律ちゃんに呼ばれてどければ、フォークに刺さったソーセージを差し出される。
「あーん」
「、」
恐る恐る口を開いてそれを食べれば、律ちゃんは薄く微笑みながら「間接キス」なんて言った。
「……っ、からかってる!?」
「誑《タラ》してみようと思って」
そう言いながら彼女は柔らかく笑っていて、本当に敵わないと思った。
食べ終わると、店内に戻って雑貨屋さんを見て回る。
私に似合うのを頼む。と微笑んだ律ちゃんに使命感のようなものが湧いて、その後ひどく真面目に吟味した。結局、普段黒っぽい服装の彼女だからアクセントにでもなればと落ち着いた色合いのチェック柄のものを一つ手にとってこれなんてどう?と話しかけると、生地の触り心地だけ確かめてこれにするとすぐに購入した。
すぐに使うのでとタグを取ってもらい、マフラーを受けとったのを確認して店内を出た。時間を見れば二十時で、夏はこんな時間まで練習しても全然平気だったのにななんて思い出す。
「そろそろ帰ろっか」
「そうだね」
外に出ると冷たい冬の夜の風が沁みて、買ったばかりのマフラーを巻こうと手を伸ばす律ちゃんを慌てて止めた。
「あっ、待って!」
「、どうしたの?」
ずっと、いつ渡そうかタイミングを図っていたのだ。雪のような白を基調としたラッピングをされた小さな箱を手渡す。
「これ、クリスマスプレゼント」
「えっ」
「……これからも離れてる期間は長いわけだから、少しでも俺を思い出してくれたらな、なんて思って」
驚いた顔でそれを受け取った律ちゃんは開けていい?と聞いて丁寧にリボンを解いて中を見る。
「ネックレスだ」
「似合いそうだなって思って。あ、でもいらなければ全然!」
「いらないなんてそんな。
凄く嬉しいよ、ありがとう」
たいして高くもない、チープなそれを熱心に見つめる彼女にホッとして、俺もマフラーを取って胸元からずっと身につけていた色違いのそれを取り出して見せた。
「実は、お揃いで」
「え、あ。ほんとだ」
胸元にずっと揺れていたそれを見せると、私もつける。と言ったものだからじゃあ俺が!と声をかけた。
「ふふ、ありがとう。
あ、でも私何も用意してない……何かほしい物とかある?」
「いや、気持ちだけで充分だよ」
「でも…………」
「じゃあ、律ちゃんからのキスがほしいな」
その言葉に律ちゃんは動きを止めて「やっぱりキス魔?」なんて聞くからそうでもないはずなんだけどと答える。
多分、触れたくてたまらないだけだ。
手を繋いで、抱きしめて、キスをするだけじゃ足りない。
ネックレスとかマフラーとか身につけるだけじゃなく、もっともっとって。
「今のところ俺が欲しいのは律ちゃんしかないから」
「、そ、れは……」
少し赤くなった頬も、普段見たことない私服も好き。でも、足りない。
律ちゃんを好きだと自覚して、どれくらい経ったんだろう。最初の頃はただ、普段あまり変化することのない表情を崩したい、見てみたいなんて思っていただけだったはずなのに。
「ねぇ、ダメ?」
「だ、ダメじゃないけどっ……」
律ちゃんは目をぐっと閉じて開いた後、静かに目を閉じてと言った。
キスだけじゃないよ、欲しいのは。
首に腕を回されて、唇にそっと柔らかい感触を感じた。すぐに離れたけれど、今日はこれだけでもいいかとゆっくり目を開ける。
「はは、照れてる?」
「私も徹とキスするのは好きだけど、自分からするのは慣れないし……」
「慣れてね?……次は、もう我慢なんてできないから」
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