「それで、どうだったの初デートは」
 徹との初デートを終えた翌日、更衣室で合流した潔子に早速と言わんばかりに話題を振られ、かくかくしかじか、と昨日の出来事を話した。
 繋心さんと出かけたことはあるけれど、恋人とデートするのは初めてで、時間は短かったけれどとても楽しかった。
「普通にクリスマスデートって感じだったよ。ビックリした」
「………律は何を求めていたの?」
 それでも新しくなったマフラーを見た潔子がニヤリと笑って「クリスマスプレゼント?」と冷やかしてきたものだから、これは自分で買ったんだよと返した。
「ええ?そうなの?」
「まぁ、選んだのは徹だけど」
「お、そうなんだ。ラブラブだねぇ」
「それで、次会うときうちに泊まりに来るんだけどさ……」
 こういうこと全然潔子と話さないけれど、何かを察したのか肩に手をおかれた。でも、私初めてだしなぁ。徹はそれなりに経験ありそうだけど、だからこそ前と比べられそうというか、引かれそうというか。
「及川君、律のこと大好きだから大丈夫じゃない?」
「潔子のその妙な自信は何なの?」
「まぁ、相談くらいは乗るよ。あ、下着とか……」
「え、やっぱ気合いとか入れるべきなの」
「元旦、見に行く?」
 元々初詣に一緒に行く予定だったし、その後近くのデパートに福袋を見に行こうとも言っていた。
「あ、初詣さ。澤村達も誘わない?
 終わり次第解散して買い物に行けばいいと思うんだけど」
「私は全然良いよ。そっか……そうだね。
 なんだかんだあの三人と出かけることもなかったし」
 後で聞いてみようかと話しながら着替えていると、更衣室に仁花ちゃんが入ってきた。
「おはようございます!」
「はよ」
「おはよう。昨日律と及川君デートでね」
「あ、どうでした!?」

 春高前の部活は今日を含めて残り五日。大会前日は現地入りして東京の体育館でアップはするとは言え、一日中みっちりと練習するのはもう残り少ない。
 私も自分の練習と両立して、みんなのサポートを頑張らないといけないと頬を叩いた。
「……よし、」
 大会に持って行く荷物の確認もしたし、備品も買い足した。
 スケジュールは武田先生が考えてくれて、必需品や集合時間などが書かれたプリントも配布してある。慣れない場所で、初の全国。なるべく試合に集中できるように細かいことまで周りが気を配らないといけない。私は初の全国というわけではないから緊張とかは無いけれど、それでもマネージャーとして全国に行くのは初めてで。本当に周囲のありがたみを感じた。

    *    *    *

「よっし!それじゃ各自ストレッチは念入りにな。
 残らずまっすぐ帰れよ!」
「ウィーっス」
 最後の練習を終え、四日の朝スムーズに出発できるようにと自主練も無しに帰る事になった。いつもは日向や影山君は遅くまで残って自主練をしているけれど、「疲れは残すな!」ってコーチが言うから渋々と言った風にストレッチをしている。
 四日は朝から武田先生の運転の元、バスで東京に向かう。
 宿に一度荷物を置いて、猫又監督の紹介で使用できるようになった体育館で最後の練習だ。
 選手を避けながらモップを掛けていると、ふと体育館が広く感じた。
 ………何だろ、何か大切なことを忘れている気がする。
 そう思っていると、山口君が「谷地さん、変わるよ」と駆け寄ってきた。
「ありがとう」
「いえいえ。大会前だし、他にすることあると思うから」
「あ、それならさっき清水先輩とまとめたから大丈夫」
「そう?なら良かった」
 試合は年明け五日からだから、丁度一週間後に迫っている。
 山口君は緊張しいながらもいつもピンチサーバーを任されているから、それなりに緊張しているみたいだ。
「でも、そうだね。頑張らないと。
 三年生にとっては最後の大会なわけだし」
 最後。山口君の言葉にそうだと思い返して、気づいた。
「春高で、試合に負ければ三年生はそのまま引退なんだよね」
「?そうだね」
「だったら……この体育館で三年生と練習するの、今日で最後だったんじゃ、」
「!」
 ハッとした顔で山口君を見れば、彼もそうだと気づいて二人で固まってしまった。
「どうした二人とも。そんなところで固まって」
「え、縁下さん……!」
「大変なことに気づいてしまった……」
「え、なになに」
 縁下先輩にも話すと、そういえばそうだ。なんて呟き、それが広まってしまう。
 勝っても負けてもこの大会が最後だと意識していたけれど、もう合宿も遠征も、この体育館に練習しに集まることは無い。
 ジワッと浮かんできた涙が溢れないようにと思っても、どうしても考えてしまう。嫌だな、と思ってしまうのも必然だった。
「……まぁ、気づいてて言わなかったんだろ?大地は」
 それなのに思い詰めるどころか三年生はケロッとしていて、そんな菅原先輩の言葉に驚いた。
「そうなんすか大地さん!?水臭いっすよ!!」
「わざわざ言うほどのことでは無いと思ってたしな。
 それに、それを失念するほど試合に気持ちが向いてるってのは良いことだろ?」
「気づくなら仁花ちゃんだろうなとは思ってたけどね」
「そこまで気にしてくれるってのもありがたいけどなぁ」
 それでも、中々明るい空気に戻ることは無くて私余計なことを話してしまったのでは、なんて考えてしまう。どうしよう、でも本当に、最後なんだと今更ながら強く実感してしまった。
「どうした?お前ら」
「繋心さん」
「お、おう……!?」
 そんな空気の中、外に出ていたコーチに駆け寄った櫻井先輩は突然「今日の店番っておばさん?」と聞き出した。
「そうだが、どうした突然……」
「おばさんに、肉まん十五個用意しておいてって連絡して」
 そう言ってコーチの背中を押した櫻井先輩は、言った。
「……最後とか、気にしないでなんて言っても気にしてしまうと思う。私たちは三年で、どう足掻いても卒業するから」
「だからこそ、最後の最後まで上向いてようぜって話だろ」
「そ」
 それじゃ、はやく片付けて帰るぞとキャプテンが声をかけた。
 私はその姿に、やっぱり三年生って大きいと感じて、また一段と負けられないと思った。

    *    *    *

「私は潔子と日向と月島に奢ろ」
「あ、ズリィ!なら俺は大地と影山と山口〜!」
「じゃあ私は律と仁花ちゃんと田中」
 肉まんの保温器の前に陣取って、それぞれ三つずつ購入してから外に待機する後輩に持っていくことにした。誰が誰に奢るかを話していると、東峰がポツリと呟いた。
「にしても、あそこまで想ってもらえるなんて俺達、「愛されてるなって?」
「旭お前!あっはははは!!」
「う、うるせぇな!」
 でも、潔子が言うように気づくなら仁花ちゃんだろうなとは思っていた。全員いい具合に試合に集中しているし、そういう細々したことに仁花ちゃんは良く目を向けるから。
「最後まで上向いてたいね」
「少しでも多く勝たないとな」
「だべ。ああ〜〜早く春高行きてぇ!」
「そういえば、俺らで話してたんだけど初詣三年で行かね?」
 菅原の言葉に潔子と顔を見合わせて笑った。
 ああ、もう他人じゃない。
「良いよ。私たちもそう話してたし」
「よっしゃ!じゃあ神社の階段前に九時な!」
「了解」
 気持ちどころか考えてることまで同じで、チーム内でのこういう空気も昔は無かったよななんて嬉しく思った。
 店の外で待っていた後輩にそれぞれ肉まんを持っていき少し話す。日向と月島は性格正反対ながらも、なんだかんだお互いを見ていて夏から一緒に居る機会増えたと思う。そして、そんな彼らが夏の間師として教えを乞うていた二人の主将と春高で当たるわけだ。感慨深い。
 店の前で騒いでいると中から出てきた繋心さんに騒ぐなって怒られて、繋心さんの声が一番大きいなんて言うとみんな笑っていた。

 ああ、終わりたくないなぁ。


 大晦日は両親もいないからといつも通りトレーニングをした後は久々に自炊したり、家の掃除をしたりして年を越した。
 そして、元旦。今日は朝から初詣に行って、そのまま潔子と買い物。夕方に徹が泊まりに来るということで、
「なんか、落ち着かない……」
 部屋も掃除したし、晩ご飯のメニューも決めたから買うものリストもある。それでもどこかソワソワして、なんとなく家に居辛くて早めに家を出た。

「お、」
「……はよ。早いね」
「なんか早く目ぇ覚めちゃって」
 神社に向かうと男子三人は既に来ていて、潔子はまだだった。まぁ、あと十分あるし。私服をまともに見るのも初めてだな、なんて思いつつ潔子を待った。
「…あれ、ごめん。私時間間違った?」
「いや全く」
「あけましておめでとうございます」
 時間通りに潔子が来て全員揃うと、新年の挨拶もそこそこに参拝に向かうこととなった。
「皆で初詣なんて初めてだな〜正真正銘初詣ってな〜
 おい、てことは去年のは何だよただの詣かよ〜!」
 菅原がまた何か言ってる。そう思いつつガン無視決め込んでいると、逆にキレ出した。
「おいいい加減にしろよ!?」
「違うお前が落ち着けスガ!!」
「………」
「お前は多少のリアクションをしろよ!
 呼吸で精一杯かよ!?」
 普段後輩が騒がしいからと世話を焼いてばかりだけど、三年だけになるとこの三人も中々騒がしいよななんて思う。まぁ、仲がいいのは良いことだし、変に緊張して黙りこくるよりはいいと思うけれど。
 五人揃って参拝して、それから潔子がお守りを買いに行くと言うので私もついて行った。
「……春高まであと四日だし、緊張してるのかな」
 私も合格祈願のお守り買おうかなと眺めて、なんとなく目に入ったものをひとつだけ購入した。
「大丈夫。いつもと違うから変なテンションなだけだって」
「それって大丈夫なの?」
「まぁ、試合になったら本領発揮するよ」
「それもそうか……あ、東峰おみくじ引いた?」
 小難しい顔をしている東峰に見せてもらうと、そこには凶の文字が。
「まじか〜!お前持ってんな!」
「大凶だったらもっとネタになるし逆にラッキーみたいな感じあるけど微妙に凶!」
「朝の占い十一位的な」
「十二位だったら一位と同じくらい目立つのに的な!!」
「うるせぇよ!!スガと大地は何だよ!?」
「末吉」
「そっちの方がビミョーじゃねぇか!!」
 おみくじ一つでここまで盛り上がるものかと思って、でも私も最近引いてなかったし「引いてくる」と言った。
「お、櫻井どうだった?」
「、大吉」
「おお!ほら旭、これが一番良い例だぞ」
「うるっせえ!」
 菅原が東峰を弄る声を聞きながら書いてあることに目を通していると、澤村が覗き込んできた。
「何か良いこと書いてあった?」
「勝負、『必ず勝つ』だってよ」
「!」
「あとは……「恋愛、……へぇ?」
 潔子にバッチリ見られていて、そのまま握り潰してしまった。
「よかったじゃん。順調みたいで」
「………潔子さん、最近輝いてるよね」
「律とこういう話できるの楽しいし」
 少しくしゃくしゃになってしまったけれど、持って帰ろうと財布の中に畳んで入れた。
「おみくじって神社に括って行くんだっけ?
 それとも持って帰る方が良いんだっけ??」
「お前は悩みがいっぱいだなあ」
「大吉はこれ以上無いから持って帰って正解。
 それ以外は括って行く方が良いんじゃなかったっけ?」
「お、じゃあ括ろ」
 東峰って本当に外見詐欺だよなぁなんて思いながら猫背になって少し縮こまりながら括る様子を見ていると、そろそろ解散しようかという話になり、階段に向かった。
「そう言えばさ。お参りする時って神様にお願いするより、日頃の感謝するんだっけな?確か」
「え!!?先に言えよ!すげぇお願いばっかしちゃったよ…
 試合の事から将来の事まで……あと隣ん家の老犬の健康までお願いしちゃったよ。神様に図々しいって思われた!」
「神様はそんなに心狭くねぇさ」
「まぁ『試合に勝てますように』くらいは思っちゃうよな〜」
 階段を降りながらさっきの参拝中の話をする三人に、やっぱり緊張してるのかな、と潔子と顔を見合わせた。でも、大丈夫って信じてるし。
「神様にお願いしても試合に勝たせて貰えるワケじゃない」
「……!」
「お、おう清水…!」
「言っちゃう?今ソレ言っちゃう?」
「そういう意味じゃないんだよ」
 私の言葉に潔子はうなづいて、静かに言った。

「大丈夫。
 神様の助けがなくても、大丈夫よ」

 三人はソレを聞いて、何故かガッツポーズをしていたけれど、やっぱり大丈夫だと私たちも笑った。
 鳥居を潜って、それじゃあ。と別の方向に足を向ける。
「また三日後に」
「おう!」
「じゃーなー!」
 三人が歩いて行くのを見送ってから、私達も行くかと駅近くのショッピングモールに足を向けた。元旦だけどそれなりにお店は開いていて、販売員って本当に凄いと思う。先にファミレスでお昼を食べてから洋服を見て回ろうという話になり、お昼と呼ぶにはまだ早い時間帯の空いている店内で食事した後は、本題である下着売り場に来ていた。
 女の子らしいパステルカラーの物とかセクシーな黒レースの物まで色々あるけれど、そういう時ってどういう基準で選べばいいの。潔子も買うというのでそれぞれ手に取りながら回っているとスマホが震えた。
「…」
「、及川君?」
「うっわビックリした」
 さっきまで離れたところに居たというのに、いつの間に隣に来たのだか。
「で、何て?」
「今から岩泉達と初詣だって。写真」
「へぇ、いいね」
 潔子に送られてきた写真を見せれば、私達も撮ればよかったね。と言われた。確かに。
 あとは両親からニューヨークのカウントダウンの写真が送られてきた。時間的にあっちは夜だから、そろそろなんだと思う。
 というか、と商品を戻して話しだした。
「どういうの選べばいいんだろ……」
「勝負下着でしょ。律は可愛い系似合わなそうだけど、及川君て可愛い系好きそうだよね」
「だよね〜」
 今まで機能性重視で買っていたから、そういう目的で下着を選ぶ日が来るとは思わなかった。しかも潔子と、だ。
 薄いピンクの、レースがあしらわれた可愛い下着を手に取って「いや、無いな」と思いながら戻す。
「やっぱ黒がいい。私にこういう可愛いのは似合わないよ」
「ギャップ萌えという単語もあるけど」
「いや、ないない」
 ギャップも何も、可愛い系統の下着は趣味じゃないし、それ買って不評だったらかなり落ち込む。金銭的にも余裕があるわけでもないし、だから私が気に入りそうなデザインのものでいいのだ。でも、ううん……気合入れるって、何だ。
「セクシー路線で行ってみれば?
 律って最近身体絞ってるし、その割には出るとこ出てるし…全然わからないけど」
「セクシーなやつ……こういう?」
 そう言いながら解けるタイプでは無いけれど両サイドが紐になってる黒のパンツを手に取って見せた。「ああ、っぽいね。あとこれとか?」「ああ、好き」
 そんな会話をしながら、結局サイズとかの問題で二着。それに加えて、長々と話しながら選んでいたものだから店員さんに勧められるまま福袋を買ってしまった。
 笑いながらお店を出て、もう少し別のところも見ておこうとウィンドウショッピングに興じた。
「福袋ってさ、売れ残り一掃袋みたいな感じするから絶対買わないでいたんだけど」
「ああ、いらないもの出てきたら困るしね」
「それ。てか下着で福袋って笑えるね」
 値段とサイズと系統で分けられた福袋に「何が入ってたか教えてね」と言われ、これってもはやギャグだよねなんて思った。
「ほら、Tバックとか総レースとか。セクシー系だからそれなりにエグいやつ入ってそう」
「、Tバックならまだ履くかな……」
「え、嘘」
「女子のユニフォームって、下着の線浮くんだよね。パンツの丈も短いし。中学の時は時々履いてた」
「ま、まじか………なんか凄い。でもわかる」
「陸上も中々だよね」
「まぁね」
 ユニフォーム事情は女子はかなり気にするよね、なんて喫茶店で一息つきながら話す。丁度十五時だし、休憩するにはもってこいの時間だと潔子はケーキセットを頼んだ。私は甘い物を最近控えているので紅茶だけだけど。
「何時頃だっけ?」
「……うちに来るのは十七時。だからあと二時間?」
「心境的には?」
「映画見て普通に寝たい」
 我ながら色気無さすぎるななんて思うけれど、結局怖いんだ。
「……前回のデートで再確認したけど、及川って本当にモテるんだよね。恋人同士だし好きって伝わるけど、だからこそ不安なのかも」
「取られるんじゃ無いかって?」
 潔子の問いかけに一つ頷いて紅茶を飲んだ。
「私以外にも、素敵な女の子はいるし。実際私は女の子と徹がキスしてるところを見ちゃってるわけだしさ……
 夏と冬で彼女が違うって、やっぱりそうなのかな、なんて」
 あの女の子と徹が今どうなってるかも、どういう経緯で別れたのかも知らない。
 だけど、数ヶ月で別れるというのが私だったらと思うとゾッとする。今の私の想いは、数ヶ月で消えるものでもない。
「……及川君って、そこまで器用な人でもないでしょう」
「うん」
「私は元カノとか知らないし及川君と律が二人の時どうしてるかも気になるけど見れないし、なんとも言えないけどさ。
 それでも多分大丈夫だよ」
 潔子はホットココアを飲み干して、優しく微笑んで言った。
「もし酷いことされたら言ってね」
「ありがとう」
「親友が大人の階段昇っちゃいそうだから、ここは私が奢っちゃいます」
「え、ありがとう!」
 潔子の時は私が奢るね。そんな機会当分来ないだろうけど楽しみにしてる。なんて話しながら荷物をまとめて店内を出た。
「まだ早いとは思うけど、そろそろ解散しよっか。
 律と同じくらい及川君もソワソワしてるんじゃない?」
 まぁ、それは。クリスマスの時にあんな事言われれば、それなりに期待してしまう。
 中学のこともあったし今までの人生で恋愛に対していい思い出がそこまでなかったから、あんな熱の籠もった視線で見られれば私だって、なんて。
「我慢、ねぇ……」
「?」
「いや、気にしないで。腹括ってたところ」
 数ヶ月で消える想いなら、きっと私はここまで悩まない。
 徹の目を思い出して、アイツもそんなことしないと信じたいと思った。
「それじゃ、また三日後に」
「うん」

 潔子と別れてから家に帰るといい時間帯で、買ってきた荷物を片付けてご飯を作っているとインターホンが鳴った。
「いらっしゃい」
「お、おじゃまします!」
 これ、お母さんが持ってけって!そう差し出された紙袋の中にはケーキが入っていて、じゃあご飯の後に映画見ながら食べよう。と話す。
「え、ご飯?」
「うん、私まだ食べてないから作ったけど
 ……ひょっとして食べてきたとか?」
「ううん、俺も食べてないよ。
 ただなんか……新婚さんみたいだなって」
「何それ」
 どうぞ上がって、と招き入れてリビングに通す。なんか、割と普通に会話できているなと思った。
「ん、トマトの匂いする」
「ロールキャベツのトマト煮。もう少しだけ待ってて」
 さっきまでBGMに繋心さんに借りたビデオをテレビで流していたから見るように促した。
「どこの?」「春高初戦で当たるとこ」「ああ、トーナメント見たよ」なんて、私たちにバレーしかないのは嫌だったけれど、結局それが切れることはないのだ。チームの特色や攻撃は何か、ブロックの癖は、サーブは、と話しているうちにそろそろいい頃合いかなと思い、皿に盛り付けをする。とはいえ本当に盛るだけだし何も凝ってないんだけど。
 キッチンでパタパタと動いていると視線を感じた。
「……な、何?」
「ううん。料理してる律ちゃんも好きだなぁって」
「バレーはいいの?」
「今は、バレーより律ちゃんを見ていたいから」
 サラッとそんなことを言って、今までその言動でどれだけの女の子を喜ばせてきたんだかと少し嫌なことが思い浮かんだ。それを振り払うようにテーブルに料理を並べて向かい側に座る。
「あ、美味しい」
「ほんと?よかった」
「律ちゃんてよく料理するの?」
「まぁ、たまに。うちは共働きだし、中学でバレー辞めてからは作るようになったな…迷惑沢山かけてきたから、これくらいはしないとって」
 バレーをずっと続けてきて、帰りが遅かったり朝早かったり、合宿も遠征も行った。手術とリハビリの病院通いもだったし、お金も負担も尋常じゃなかったと思う。
 まぁ、そんなこと徹に言ってもって感じだしこれから実績作って勝ち星あげて、沢山返していかないといけないのだけど。
「俺は全然料理とかしないからなぁ。できた方がいいよね」
「でも、徹は割と何でもできるからできないことが一つくらいあったほうが良いんじゃない?」
「……それ、盛大なブーメランだって気付いてる?
 何だっけ、目を引くってわけじゃないけれど顔も整ってるし、高身長のモデル体系。
 性格も少し人見知りなところがあるけど困ってる人にさっと手を差し伸べるし、面倒見も良いし、優しいし、一緒にいると安心するし……
 それに加えてバレーも料理もできる。英語もペラッペラだから海外でも困らない??完璧では?」
「、それってインターハイ予選の時の……」
「すっごい岩ちゃんベタ褒めだったのに、俺の良いところ顔だって言うから!」
 プリプリ怒っている徹だけど、ついさっき私のことをすごい褒めたのわかってます?
 でも、そうなんだ。
「徹の顔、好きなんだよね。」
「また!?」
「顔っていうか、瞳かな。
 なんか、見つめられるとドキドキする」
「エッ」
 朗らかに笑っている時もバレーの時の真剣な表情もいいなぁってなんとなく思う。
「インターハイ予選の時は、サーブトスを上げる時の顔が好きって言ったけど、撤回して良い?」
 もう、バレーだけで繋がる私達ではなくなったから。
「私のこと好きって訴える瞳が一番好き」
「な、っにソレ……ほんとズルイ」
 多めに作った二人分のロールキャベツも食べえて、テレビの前のソファーに座ってケーキを食べながら映画を見た。
 デートの時に見た映画のシリーズ一作目のそれを私は何十回と見ているから凄い余裕を持っていたのだけど、徹が想像以上の食いつきだったから呼んでよかったと思った。
 中学時代に私が好きだと言ったものを覚えていてくれて、実際それを見て共感してくれる。バレーは同じ体育館で練習はできるけれど同じコートで試合は出来ないから、同じものを同じ温度で共有できるのっていいなと思った。
 一本見終わった頃には良い時間帯で、エンドロールが始まったところでお風呂を沸かしに動いた。
「明日、朝からランニングする予定だけど徹どうする?」
「あ、だと思ってウェア持って来たんだよね〜!」
 持参したリュックに服と財布しか入ってない!と笑って言った。岩泉の家にはよく泊まっていたそうだけど、それも小さい頃の話だからと久々ウキウキしながらお泊りセット作ったと話すものだから、やっぱり愛されてるなんて感じて、私も少し笑った。
「じゃあ、朝早いだろうしもうお風呂入って寝よっか……」
「え、一緒に?」
「待って、それはまだハードル高い」



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