「梓先輩〜〜!卒業しないでください〜!!」
「いや、するわ。あんたたちと同級生とか、嫌だからね?」
三年生の卒業式。
式典も滞りなく終了し、校門の前で三年生が教室から出てくるのを待っていた私たちは、花束を抱えてちらほら咲き始めた桜を眺めていた。
新主将に任命されたのは華で、リーダーシップはあれど中々慣れないのか副主将の幸と時折話しているのを見かける。二人は仲がいいと言う訳ではないけれど、適材適所というやつで役割分担をしながら部内を円滑に回している。
私は一応この部のエースだけど、校内で同級生を中心に蔓延する噂だったりのおかげでそこまで卒業生に自分から話しかけに行くことはなかった。
及川と岩泉に「何もしないで」と言ったあの日から、誰にも本心を晒すことをしなくなった。人前で泣いたのも、弱さを見せたのも、あれが最後だ。
卒業生の中でも人気を集めているのは主将と副主将の二人で、それでも一、二年生はポジションが同じ先輩やお世話になった人に花束を渡しに行っていた。
「櫻井!」
「、中野先輩」
いつもは着崩している制服を規定通りピシッと着てその胸元にコサージュをつけた中野先輩は、先程後輩から揉みくちゃにされたと笑って避難しに来たと言った。
「最近、どう?良い噂聞かないけど大丈夫?」
「……まぁ、いつかは消えるかなって」
「人の噂も七十五日、ね。
それにしては少し長すぎる気もするけれど?」
「………」
まさか三年生の耳にも入っていたとは。学校でこうなってくると本当に嫌だなと眉間にシワを寄せた。
「ところで、その花束は誰宛?」
「……中野先輩ですよ。ご卒業、おめでとうございます」
「うん、ありがとう」
おざなりに花束を渡そうとすると中野先輩は笑って言った。
「私、櫻井が入部してきた時一番に話しかけたの覚えてた?」
「、はい。寧ろ、覚えてたんですか…?」
「身長高くてスラッとしてて、手足も長くて。
ミドルブロッカーじゃなくてウィングスパイカーだったら良いなって思ってたの。他の子も良い子ばっかりだけど、同じポジションで初めてできる後輩だ!って、一番に仲良くなりたいって思ってた。
夏に色々あったけど…私、櫻井の事ちゃんと見てるからね」
「はい」
「来年、待ってるからね」
「………はい」
花束を抱えて満足そうに笑った中野先輩は、同級生に呼ばれたのかそちらに行ってしまった。
私は、先輩のように笑顔でここを卒業できるのか。この先バレーを続けていくのだろうかなんて思いながら、人混みから少し離れた桜の木の下で笑い合うチームメイトを眺めていた。
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