「櫻井さんて、なんの映画が好きなの?」
 いつもの自主練習中、俺は岩ちゃんと櫻井さんがスパイクのフォームを確認しているのを見ながらふと頭に浮かんだことをそのまま口に出した。話題についていけないのか、岩ちゃんだけが頭に疑問符を浮かべていた。
 先日の修学旅行、俺は櫻井さんの一番好きなことを教えてもらい、それに関して少しだけ……本当に少しだけ興味が湧いた。
 というか、と櫻井さんに視線を移す。好きなことを話す櫻井さんが可愛いと思ったんだ。
「どうしたんだ突然」
「櫻井さん、洋画好きなんだって。修学旅行行った時に数万円する俳優さんのサイン買ってたし」
「及川、それバラすなって私言わなかったっけ?」
「あっ………てへっ!」
 表情は変わらずとも櫻井さんは少しだけ機嫌が悪くなった。
 まぁ、岩ちゃんだし良いじゃんと言えば、眉間にシワを寄せたもののまあいいかと呟いた。許してくれたみたいだ。
「洋画って、そこまで見ねぇだろお前」
「うん。でも櫻井さんがあそこまでハマるってのも珍しいし気になって。オススメとかある?」
「ハリポタ」
「わあ、即答」
「原作知ってる人も知らない人も楽しめると思うし、人間関係も勿論魔法の演出とか素晴らしいよね。まぁ原作読んだ上で映画見てほしいってのもあるけど、読んでなくても充分面白いし。
 世界的にも人気だし、シリーズ物だから今のうちに見てほしいかな」
 ほら見ろ。突然今までにないくらいイキイキと話し出すものだから、岩ちゃんが固まってしまったぞ。
 にしてもハリポタ。一緒に回ってる時も思ったけど、櫻井さんは割とファンタジー系が好きらしい。普段クールで現実主義者だとばかり思っていたから意外だった。
「修学旅行でも話してたよね。あとはサスペンスもだっけ?」
「ミステリーも、ね。イギリス好きだし。
 まぁ、洋画は割と何でも見る。だからアメコミ作品の実写とかも単行本持ってるし」

 うん、全然わからない。
 
 珍しくよく話す櫻井さんを可愛いなぁと思いながら見ていれば、岩ちゃんがふと思い出した様に呟いた。
「そういや櫻井って英語の成績だけずば抜けて良かったよな」
「ああ、うん。まあ……ちょいちょい海外行ってるし」
「え!?!?」
 そこまで行っていたとは知らなかった。休み時間は本を読んでいるところを見かけた事があるし、それなりに頭はいいんだろうとは思っていたけれど。
 聞けば、翻訳本が出ないものは通販で洋書を取り寄せて翻訳しているらしい。本当に同い年なのだろうか、なんて彼女の大人びた様子に軽く引く。
「え、じゃあ次のテストの時英語教えて」
「嫌だよ面倒くさい」
「そこをなんとか〜!!」
 櫻井さんは本当に嫌なようで、うんともすんとも言わなくなってボールをいじり始めた。岩ちゃんが俺に「練習中断しただろうがコラ」と視線を向けてくる。痛い。
「え、そんなにダメなの?得意科目なんデショ?」
「…だって、小さい頃から海外行ったりして馴染んだんだよ?教えるも何も、教科書読んで反復してれば覚える。
 それに、私にとって英語は勉強するものじゃなくてコミュニケーションの一環だから」
「コミュニケーションの一環」
「まぁ、そんなに英語話したいと思うのなら外人の友達でも見つければ?外国語を覚える手っ取り早い方法って、その国に好きな人を作ることだよ」
「エッ」
「そういうわけで、勉強は見ない。練習再開しよう」

 待って?それって、櫻井さんは海外に好きな人がいたっていうこと?え、待って。嘘。

「櫻井さんの好きな人って誰!?」
「は?」
 突然何を言い出すんだ。そう冷たい視線をもらったものの、櫻井さんの好きな人とか、知りたいに決まっている。いや、俺が知らない人でもその人がどんな人だとか、好きなタイプとか。そう思っても櫻井さんはその後本気で練習に打ち込み始めたものだから、岩ちゃんもそれに乗っかって依然そんな話はしなくなった。



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