「櫻井さん、俺に隠してることない?」
練習終わりだった。明日から中学最後の試合が始まるという中で少しだけいつもよりひりついた練習を終え、制服に着替え体育館を後にする。今日は試合前だからと自主練は早めに切り上げることになったのだ。
普段のチャラついた空気を晒すことなく、真っすぐな目で私を見つめる及川が言った。
「……別に、なんでもないよ」
一時期、これまでずっと私に上がっていたボールが上がらなくなった。どんなに打つ状態が万全でも、華は私の方を見ない。それが悔しくてしょうがなかった。どれだけ頑張れば、輝けるのだろう。特別になれるのだろう。天才という言葉に埋もれて、私はいつまでも暗闇の中に一人でいる。
及川はそれを知ってか知らずか、試合前になって確信をつくようなタイミングで話し出した。こんな時に限って、なんでそんな苦しそうに言うの。
「なんでもないって、………」
「私は大丈夫。明日から試合だし、そっちに集中しよ。
……最後だもの」
そう。これが最後の大会なのだ。私はきっと、これから先もバレーボールを続ける事は無い。もう、叶いもしない夢を追い続けることはしたくない。
いつだったか、若利と聖臣に零したことがあった「努力し続けることの辛さ」は、私がずっと抱え続けている痛みだ。
進路だって同じにならない。進む方向も見ているものも違うのだから、当たり前だ。華の隣に立てない私は、いらない。
特別になれない私は、必要無い。
納得がいかないという顔をされても、私はあなた達に迷惑をかけたくないの。わかってよ。
「大丈夫」
私の体が震えていることに、誰も気づきはしないまま。
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