「どうした、もう終わりか?」
「っ、う〜〜〜っ……」
 
 律と初めて出会ったのは、初夏の熱い日差しの中で涼しい風が吹く日だった。
 元教え子の娘がバレーを始めたという連絡を貰い、家で不定期にしているバレー教室に連れてきたのが始まり。人見知りなのか、知らねぇ環境にも他のメンバーと話すのも慣れるのは今までの誰より遅かったと思う。
 当時高校でバレーをしていた繋心と庭で一緒になってバレーをしていて、基本のレシーブから一つ一つできるようになるまで指導をする。同級生に話しかけられても無言で、不信感を持つ子もいたけれど、それも秋になれば変わっていた。
 
 特別才能があるわけでもないコイツは誰よりも努力家だった。
 元の身体能力は高かったというのもあるが、どんなに上手くいかなくともキツく当たっても、弱音だけは絶対に吐かない。誰よりも負けず嫌いで、頑固。
 そんな彼女と練習しているから周りもそれに引っ張られる。どこまでも強さに一直線で、試合より練習そのものに力を入れている。レシーブ練習やサーブ練習の時間が長くなるのも必然だった。

「烏養さん。私今日試合に出たんだけど、どうしてもブロックに止められちゃって」
「ジャンプサーブの打ち分けってどうやるの?」
「ねぇ、烏養さん」

 そんな彼女に頼られるのは悪い気はしないし、小さい頃から「烏養さん」と呼ばれるのは好きだった。最初の頃は控えめに小さい声で呼んでいたのに、それも慣れれば気になることはすぐに話しかけてくる回数も増える。庭で繋心と練習する律に兄妹の様だと思ったことも一度や二度ではない。
 律が大きくなって、中学二年の夏頃から【女帝】なんてあだ名まで着いた時は腹が捩れるくらい笑ったものだったが、それでもコイツがバレーを笑顔でしているところを俺は滅多に見た事がない。

「律、お前バレー楽しいか?」
「?どうしたの、そんなこと」
 普段から強さに一直線で、勝敗にこだわりはない。バレーを好きだと言わない彼女が、いつか自分の信頼する仲間とコートに立つ姿を見たいなんて思いながら今日もフラッと顔を出した律の面倒を見るのだった。

 律が怪我でバレーを辞めたのは、それから数ヶ月後だった。



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