「あーーーッ!!!!!櫻井さんや!」

 大会二日目の初戦で烏野に負けた俺たちは、時間まで試合を見ようと会場に足を運んでいた。先に集合場所と時間を決めていた為、烏野と鴎台の試合を見終わってから双子を連れてそこで部員を待っていた時。侑が突然指をさしてそう叫んだ。
「うっさいわクソツム」
「突然なんやねん」
「だっアレ!!櫻井さんやんな?烏野のマネの!」
 『集合場所から離れんな』という言いつけを守っとるのか、侑は視線を彼女から話さないままにオーイと手を振っている。
 侑に櫻井さんと呼ばれた烏野の彼女は音駒の選手と話していたかと思うと、彼らと別れて律儀にもこちらに駆け寄ってきた。

「どーも!宮侑です〜櫻井律さんやんな?」
「う、ん………そうだけど、えっと………?」
「見るからに困惑しとるやん」
「てか、いつの間に知り合ったの」
「ユース合宿ん時、飛雄くんと臣くんが話しとるの聞いて調べたんよ!名前は元也くんに教えてもろうたしな」
「ああ、なるほど…………」
 櫻井さんは如何にも慣れていないといったテンションで侑と会話をしていた。とは言え侑が一方的に話とるのに相槌入れとるだけやけどな。
「侑。櫻井さん困惑しとるやろ。辞めぇや」
「あ………大丈夫です。えっと、北くん」
「そうか?」
「そもそもなんで話しかけとんねん」
「櫻井さんは飛雄くんと同じ中学出身で、中学時代は選手やったんやって。調べた限り、昔はかなり凄い選手やったらしいで」
「ほおん?」
「……昔は、ね。私はこれからだから」
 その一言に、俺たちは櫻井さんを見た。会話に慣れていないようだった先ほどまでと一風変わったその表情はどこか試合中侑が見せる顔にも似ていて、驚きに体が疼く。
「選手、辞めたわけやないんやなぁ」
「これから全員倒しに行くところだよ」
「ほおん?」
 侑も櫻井さんから何かを感じ取ったのか、目を細めて観察するような視線を向けた。
 マネージャーをしていたのに再び選手として活動するって、どうなんやろうな。俺はもうバレーを続けることはないけれど、一度離れてまた始めるってきっと並大抵のことではない。
「そうだ。昨日の稲荷崎との試合中」
「あ?」
「宮侑君、第三セットの序盤に低いボールをアンダーじゃなくてオーバーで上げてたでしょ?他にも、試合中所々でそういうぷえーがあった。
 ………震えた。かっこいいなって思った。
 技術とか、レベルの高いセッターであることは間違い無いと思うんだけど、そうしてトスを上げてくれるって、スパイカーにとってはありがたいと思うんだよね」
「…………!」
「何純粋に照れとんねん」
「うっさいわクソサム!」
 異性に凄いとか天才とか褒められるのは日常的にあるんやろうけど、このプレーが凄いと言われることはバレー好きな侑にとってそこまで無いんやろう。そもそも男子バレーを技術面や戦術目的に真剣に見とる子もあんまおらんやろうしな。
「君はこれからすごい選手になるんだろうね。負けないけど」
「性別ちゃうのに?」
「……実際試合できなくても、私はあいつらに勝つことを考えてるからさ。おかしいかもしんないけど」
「木兎光太郎とやりあったって聞いたけど、櫻井さんってほんま何者なん?」
「普通の、選手に復帰するマネージャーだよ。今はね」
 そろそろ戻らないと怒られるからと言って櫻井さんは最後に挨拶をして行ってしまった。

「………なんで話しかけたん?」
「大した理由なんて無いで?ただ、臣くんや飛雄くんが褒める人に興味あっただけや。
 でもまあ、話したところであの人のことわかるわけやないし。これからって言うてたから今後に期待やない?」
「なんで上から目線やねん」
「臣くん曰く、同年代で敵がおらんって程の選手やったんやと。そんでサーブも俺以上らしいで」
「はぁ?」
「いや、な?ほんまそう思うやん?そこまで言うくせに臣くんは何も教えてくれへんしさぁ。
 動画もあんま残って無かったし実績も出て来んかったけど、だからこそ得体が知れん女やなって」

「でも女やし、そこまで興味もないけどな」なんて笑った侑が、数年後には櫻井さんのプレーを見て自分のバレーにまた一段と磨きを掛けることになるとは、この時誰も思ってへんかった。



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