「この前四人で話してたんだけどさ。
正直………烏養って、どうなの?」
「………何がだよ」
春高が終わり三年が部活を引退した。それによって一、二年の実力を上げる為に、あれ以来疎遠になっていた町内会チームとの練習試合の機会も増えた。
練習が終わった後呑みに行こうと誘われて、やってきたのはいつもの居酒屋だった。たっつんと嶋田、田中と月島の兄弟が集まっている。………いつの間に田中の姉は混ざったんだ。
酒を呑みながら話しているとだいぶ出来上がり、最初は今日の試合の感想とかを普通に話していただけだったのに、いつの間にか自分らの弟子や弟自慢に切り替わっていた。
「りっちゃんだよりっちゃん!
あんな子に慕われてて何もねぇの!?」
「櫻井さんと烏養さんって付き合い長いんでしたっけ」
酒が入ったグラスを置いてジト目で嶋田を見る。たっつんとコイツは高校の同級生で、その頃から俺と律の様子を見ているから、面白がっているところがあるんだろう。
田中の姉、冴子は同性であることと持ち前の人柄から打ち解けるのは早かった。この面子であまり接点がないのは月島の兄だけだ。
「まぁ……アイツが小二の時からだから、もう十一年か?」
俺が高校を卒業してから律が中学に上がる頃には烏野に練習を観に来る事は殆ど無かったらしいので面識はないんだろう。
「付き合いだけなら烏養の圧勝だな………」
「え〜〜でもアタシ、生まれた時からだから!」
「そりゃ兄弟だから当然だろ」
「丁度子弟コンビと兄弟組が二人ずついるのか」
「じゃ、第二回!誰が一番弟(子)に尊敬敬愛信頼されてるか選手け〜〜〜ん!!」
コイツら、割と仲良くなってんのも呑んでるのも知ってたけど、こいう会話してんのかいつも。
そう思いながら煙草に火をつけた。
「……で?何だよコレ。何話すんだよ」
「前回のMVPは『皆の前では兄貴呼びだけど家では兄ちゃん呼びのツッキー』かな」
「冴子ちゃんほんとそれ好きな」
「だって!あんなにクールで冷めてるツッキーが『兄ちゃん』だよ!?家と外でわざわざ呼び方変えるところも萌える!」
へぇ、月島ってそんな感じなのか。全然見えないのにな。
山口と田中についてもそういうエピソードがあったのかと聞けば、兄弟と子弟はまずスタートから違うだろ?血縁関係無いのに慕ってくれるところとかな!と嶋田に力説された。
「でも、烏養さんと櫻井さんってただの子弟関係って感じでもないですよね」
「ああ、そうだな。律の師匠はウチの爺さんだし」
「烏養監督と普通に話してるりっちゃんスゲェって思うよ…」
「ほんとそれ………試合ん時思った」
「じゃあ何?烏養君と律ちゃんてどんな関係?」
どんな関係。聞かれれば、何と答えれば良いか迷うけれど、やっぱり一番しっくりくるのは。
「妹」
「血縁関係無いのに妹ってのがわからん!」
「でも、本当に兄妹っぽいよなぁ〜〜〜」
自分でもそれなりに律に甘い自覚もあるし、アイツは親しくなればなるほどわかりやすくデレるからなぁ。
「じゃありっちゃんの妹エピソード無いの?」
「エピソードっつっても………」
「じゃあ烏養は不参加って事で!!」
「ア゛???あるわそんなもん」
煙草のフィルターを思いっきり噛んでしまって、それを灰皿に押し付けた後酒を煽った。
「………いつもクールで表情変わんねぇのに、時々頭撫でたらわかりやすいくらい嬉しそうに笑う」
「おお………でもそれ、烏養監督もじゃね?」
「ぐっ……!」
確かに、ジジイはそこまで律のことを褒めないからこそ律は余計に嬉しそうな顔をしている気がする。
「俺が選手だった頃よくトス上げてってせがんでた!」
「惜しい!!」
「初ピアス開けるのも俺に頼んできたとか!」
「もう一声!!」
「昔はアイツ、俺のことお兄ちゃんって呼んでた……とか!」
「五千ポイント!」
ぎゃあ!と冴子が胸を掴んで叫んだ。性癖に刺さったらしい。
「え、嘘!?ツッキーも中々だったけど律ちゃんもなの!?」
「血縁関係無いのにお兄ちゃんは無理だ……萌えるわ………」
「兄ちゃんに『お』をつけるところも含めて萌えるわ……」
一頻り笑った後、また新しく煙草に火をつけて咥えた。
だが俺は、律を妹の様に扱う反面ふとしたときに昔を思い出してハッとする時がある。
「………どうしたって、他人だけどな。
俺はアイツが辛い時期、何もしてやれなかった」
「烏養……」
「だから、もうアイツがあんな顔しない様に俺はサポートすることに決めた」
この先バレーをあいつに教える事はもうないかもしれない。トスを上げてと裾を引っ張られる事も、アドバイスを求められる事も最近は以前より減った。それでも、あいつの兄として、これからもずっと実の妹の様な彼女の活躍を見続けるのだろう。
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