二人が結婚報告する時のお話。主に律の両親視点。
 名付けに関する描写が入ります。



 俺たちの間に娘が生まれたのは、家の近くの桜並木が葉桜に変わる四月下旬のことだった。
 俺が十九の時に妻と大学で出会い、四年間の交際。後に彼女の大学卒業とともに結婚。その、約二年後。
 共に人生を歩んでいく上で、妊娠の報告を受けた時はそれはもう飛び上がるほど嬉しかった。
 
 男の子かな、女の子かな。
 妻に似た女の子だといいな。
 名前はどうしようか。

 初めての子育てに微塵も不安が無かったわけじゃない。でも、どうしても命を授かった喜びの方が強くて二人で暮らしながらどんな子に育つかな。なんて毎日考えていた。
 性別は、生まれてくるまで楽しみにしたいからと聞かなかった。「女の子ですよ」と言われ生まれてほやほやの小さい赤ちゃんを見た俺は、どうしようもなく涙を流した。
 お腹を痛めて産んだ妻より泣いているものだから、「あなた、私より泣いてたんだって?」なんて起き上がった妻に一週間は揶揄われたけれど。

 自律した人になってほしいという思いから、名前は律に即決。
 これは以前から決めていたことで、男の子でも女の子でも使えるからともう少し決めかねるものだと思っていたけれど不満もなく二つ返事で決まった。
 律はよく寝る子で、あまり体は動かさない。夜泣きも無く、手の掛からない子と言えば聞こえは良いが、少しだけ同い年の子どもと比べると体が弱かった。
 成長するにつれて本を読んだり、映画を見る俺たちと並んで見たり、どちらかと言うと活発とは言えない子だった。
 洋画が好きという趣味の繋がりで家族になった俺たちだから、律もそうなってくれたらいいなぁと思っていた。そして、事実そうなった。映画好きに限らず、律は俺たちの子どもだと感じる場面は少なくなかった。
 芯があってしっかりした様子は妻に似ていると思う。頑固なところも。でも、顔の作りは俺に似ていると周りから言われた。

 それから、律が保育園に通い始める前にアパートから一軒家に引っ越した。そして、同じ保育園で同い年の、山下華という子と仲良くなったのだと聞いた。目がパッチリしている、可愛らしい女の子。いや、律も十分可愛いけど。家も近所だという華ちゃんとはとても仲良くて、何をするにしても一緒だった。

「おとうさん、わたし、バレーボールはじめることにした」

 仕事が終わって家に帰ると「ててて」と駆け寄ってきた律がそう言った。
 バレーボール。『排球』。しばらく疎遠になっていたけれど、中学高校と俺が力を入れてきた部活だった。
 詳しく聞けば、華ちゃんに誘われたので興味を持ったのだと。確かに律は同年代の女の子と比べて身長が少し高い。ただ、律は生まれた時体重が軽く小さかったので、小さい頃から本格的に運動を始めても大丈夫なのかという不安もあった。
 それでも嬉しいことに変わりはないし、妻も良いと言っていたから俺は久々にボールを持って律と出かけることにした。
「烏養さん、こんにちは」
「おお、久しぶりだな櫻井」
「お元気そうで」
 高校最後の一年、お世話になった恩師の家を訪ねると、歳を取ったものの当時の面影を残した烏養監督がいた。律を紹介して、バレーを見学させてほしいとお願いする。
 二人で並んで、色んな人が出入りするコートを眺める。

『お前らが楽しいと思うバレーをしろ』

 正直、俺は学生時代の六年間をバレーに捧げてきたとはいえ、成績は振るわなかった。
 練習はきついし、ランニングも体力作りもなるべくしたくはない。監督の指導のもと練習はこなすけれど、試合に勝ちたいという気持ちよりも体を動かすことが好きな気持ちの方が強く、試合では他校のライバルと競うばかりだった。
「………律は、バレー上手くなりたい?」
「うん。あのね、はなとね、いっしょにしたいの」
 本気にならないことが決して間違ったことではないけれど、どうかこの子が笑って過ごせるようになってほしいと思った。

 それから律は小学校のクラブチームに華ちゃんと入り、休日は時々烏養さんのところに行く。
 ひたむきなくらい一生懸命でまっすぐで、中学生の頃になると力をつけて実力を発揮させていた。そして、それと比例して律は表情を殺すことが上手くなっていった。
「律は、バレー楽しい?」
「?、普通」
 普通かぁ。毎日バレー漬けの生活を送っているのに普通。
 一生懸命することだけが良いことではない。律が大怪我を負って、俺たち夫婦は少しだけ考え方を変えるようになった。
 何事にも真っ直ぐで中途半端が嫌いな妻に縛られていたとか思わない。そんなわけがない。
 自らを責める妻を慰めつつ、俺だって律のことを思っているようで何も考えていなかったんだと実感したのがその時だった。

 『悔しくて、死にそう……っ』

 俺たちの前では泣かないのに烏養さんの前で泣く彼女を見て、指の先から力が抜けていくかのように胸が苦しかった。律は俺たちの一人娘だ。でも、娘の心の支えになっていたのはきっと。
 拳にグッと力を込めて、俺は苦しむ律を見守ることしかできなかった。
 本気で練習して、勝負して。バレーに熱くなるって、楽しいと思えるって、きっと泣けることだと思う。
 野球、バスケ、サッカーと、今まで俺はいろんなスポーツをしてきたけれど、どれも長続きはしなかった。試合に負けても悔しくて泣く事はなかった。

 自覚が無くとも、律はバレーに本気だった。
 
 不甲斐ない父親ですまないと思う。
 高校進学に烏野を勧めたのもそれが原因だった。烏養さんは一年とは言え俺の恩師だ。あの人のことを俺がどう思っているかではなく、律にとっても特別な恩師。
 バレーを辞めてもリハビリ生活は変わらず、存在が儚げな彼女にずっと胸を痛めていた。

「お父さん、私、バレー部のマネージャーすることにした」

 仕事から帰ってきて、ご飯を食べていた時サラッと言われた言葉に絶句した。
 まだ、諦めてなかったのかと。
 高校でできた友達に誘われたと聞いた時は、正直不安しかなかった。
 何にでも染まりやすい彼女のことだから、また流されているのではないかと。それでも、律の好きに生きてほしいと結局はそれを承諾した。それから、前までとはいかないものの少しずつ元気になってきたとは思う。

 でも、それから一年。まさかまた選手に戻りたいと聞くことになるとは思わなかった。

「一生で最後の我儘です。行かせてください」

 そう言って頭を下げる律に只々困惑して………怖かった。
 また、同じ目に合うかもしれない。傷つくことになるかもしれない。将来のことを考えても得策とは言えないと反対した。だけど、もう意志の固まった彼女を止めることもできず、律の話を聞いて妻も納得をした。
「……良かったのか?」
 てっきり断固拒否すると思っていた。そう言うと、妻は静かに言った。
「だって、律があそこまでハッキリと意見を言ったことなんてなかったから………
 嬉しかったの。心配とか不安もあるけど、律も本気になれたんだって」

 本気、か。………ああ、そうだな。
 練習が嫌でも、楽しいバレーをするのは間違ってない。
 でも、練習をして勝てたとしても楽しくなければ意味がない。

 本気になるって、全力で取り組んで、全力で楽しむことなんだと。決して、悔しがることだけじゃない。

 ここまでたどり着くのが遅かったかもしれない。
 でも、この道を選んだ律が二度と傷つかないよう祈らせてほしいと思った。

    *    *    *

 今週末、実家帰るね。

 突然届いたメールに、我が娘ながら唐突だなぁなんて思いつつ、嬉しい思いは変わらない。ご飯はどうする?と会話を続けながらお父さんに「律、帰ってくるってよ」と伝えた。

 高校を卒業して東京の大学に進学すると同時に向こうの寮に入った娘は、そこそこ上手くやれているみたいだ。
 昔から人見知りなところがあるけれど仲良くなればそうでもなくなるし、中学でお世話になった先輩がいるらしく、安心している。実家を離れてから帰省することは少なく、あっちでも頑張っているみたいだ。毎日連絡を取る事はないけれど、誕生日や記念日、好きなシリーズの映画を見たときなんかは連絡をくれていた。
 大きな試合に出ると雑誌で姿を確認して、オリンピックとか世界大会はテレビで中継を見る。先輩に言われてはじめた、とSNSもたまに投稿していて、仲のいい選手とのやりとりも間近に見ることができた。
 そこには、私たちの知らない世界で輝いている律がいた。

 あの時、病室のベットに横たわる律に泣きながら縋り付くことしかできなかった私を思い出して少し感慨深くなる。昔より、今の方がずっと綺麗よ。

 《紹介したい人がいるから、連れてくる。
 ご飯は食べたいな。》

 高校でマネージャーをしていたことから、それ繋がりでSNSで男性の選手とやりとりが目立ったけれど、やっぱり年齢もそれなりになった。『そういう事だろうな』と思っていたけれど、やっぱりそうなのか。
 私の時はどうしたっけな、なんて昔の記憶を掘り返しながら「彼氏連れてくるってよ」とお父さんに伝えた。動揺したものの、律が連れてくる人、どんな人なんだろうねと笑った。
 それは、オリンピックが終わって数日後のことだった。



「はじめまして、及川徹です。律さんと、お付き合いをさせていただいています!」
 
 お土産を片手に数年ぶりに帰ってきた律は、硬く手を繋いで家のドアを潜った。
「あ、アルゼンチン代表の及川選手?」
「そうそう。これ、お土産」
「お、お邪魔します」
「律がいつもお世話になっております、母です。
 どうぞ上がって?」
 とっても緊張しているなとわかる徹君と違って、普段通りの律。「我が娘ながら肝が据わっているなぁ」と思いつつ紙袋を受け取った。
 SNSで目にしていたし私はイケメンを捕まえたなぁくらいにしか思っていなかったけれど、実際に間近に見ると徹君は想像以上に顔がいい。体格もがっしりしていて、百八十センチ越えの高身長の律と並んでも違和感がまるでない。
「まずはご飯にしようか」
「うん。あ、久しぶりお父さん」
 四人で食卓を囲みながら二人にいろいろ質問をする。
 いつ出会ったのか……は中学の頃から何かと有名だったので知ってたけど、その頃から律と接点があるなんて知らなかった。それから、高校のことや、海外のプロリーグに挑戦するためにアルゼンチンに行ったこと。
 滅多に自分のことを話さないから、他の人から自分の娘の話を聞くのは純粋に楽しかったし、嬉しかった。律をちゃんと見ていてくれる人がいると実感できて、今を知ることができる。徹君と律も懐かしむようにテンポよく昔の話を掘り下げていて、普段言葉数も少ないからこの子がここまで話せるって言うのも少しビックリした。
 
「それで、ひとまず節目として籍を入れることにしました」

 ご飯を食べ終わって落ち着いてから、本題を切り出したのは律だった。
 そういえば、選手に復帰したいと話はじめたのもこういう空気の中だった気がする。
 華ちゃんに誘われたから、とバレーを始めて烏養さんの所で練習して、大怪我して。それでも、バレーが好きだと、挑戦したいと言った彼女を思い出した。
 
 『心配させないで』
 『わかってる』
 
 大事な一人娘なのよ。心配しないわけない。離れて暮らしている間だって、心配くらいするわ。親だもの。
 でも、もう一緒に歩いていける人を見つけたんだなと目頭が熱くなった。
「おいで、律。見せたいものがあるの」
「え?うん」
 いつも通り声をかけて席を立つと、律もそれに続いた。
「どうしたの?」
「お父さんが、彼と二人で話してみたいって言ってたからね」
「そっか。徹、緊張してたし大丈夫かな」
「大丈夫よ。お父さんもあんな感じだったし」
「そうなの?」
 昔、自分たちが両親に報告する時の事を思い出して笑った。男同士で何を話すのか気になるけれど、私は私で律に聞きたいことがあった。
「律は緊張した?」
「んー……あんまり。
 もう決めたから、二人に反対されても押し切る気でいたし」
「あははは」
 律も、あの時の事を考えて話していたのかと思うと笑える。
 
「律は、今幸せ?」
「……うん」

 目を開いた後、滅多に見せない笑顔ではにかんだ律は、満ち足りた顔をしていた。
 尊敬する師がいて、仲のいい友人がいて、共に人生を歩こうとしてくれる恋人がいる。一人だった彼女を見てきたから、私はそれが嬉しくてたまらなかった。
「選手はもう引退するのよね」
「うん、もう満足しちゃったし……次は、徹とみんなを倒しに行くんだ」
「アルゼンチンか………行ったことないなぁ。
 結婚して、落ち着いたら遊びに行ってもいい?」
「勿論」
「じゃあ、楽しみにしてるね」
 あまり多く語らなくても、わかるよ。
 お父さんと徹君の様子を見計らって戻ると、二人はすっかり打ち解けたようにバレー談義に花を咲かせていた。
 夜も遅くなってきたので、二人はホテル取ってあるし、明日同窓会もあるからと席を立った。
「それじゃ、今後のことはまた追々連絡するね」
「うん。あ、徹君」
「はい」
 来た時より吹っ切れた顔で、キョトンとする彼に言う。
「律のこと、見ていてあげてね」
「……はい」
 玄関先まで見送って、二人が並んでる姿を見て少し泣きそうになった。
 幸せになってほしいと願っていた。産んだ時から、ずっと。
 よかったって気持ちでいっぱいだ。
「いい子だったね」
「律が選んだ人だもの。それで、何を話したの?」
 ワクワクしながら聞くと、お父さんは照れ臭そうに言った。
「同じ中学だって言ったから、昔の当事者だったんだと思って。
 『律のこと、幸せにしてあげてね』って言ったら………彼、なんて言ったと思う?
 
 『それは……約束できない』ってさ」

 お父さんが笑いながら答えた内容に驚いた。それと同時に、酷く困惑した。それでも、安心しきったようにその理由を話す。

 『俺は、ずっと律さんを見てきました。一番近くにいたはずなのに、何もできなかった。
 傷つけたことだって、泣かせたことだって何度もあります。きっとこれからも、そんな事はあると思います。
 それでも、彼女が望んでくれるのなら俺は彼女の隣にいたい。
 幸せにするって、口で言うより難しい事だから、約束はできません。でも、誓うとしたら……』

「『幸せにすると誓うのは、律だけにすると決めているので』だってよ」
「……は、」
 何という口説き文句だ。聞いてるこっちが照れてしまう。
 それにしても、厄介な男に捕まってしまったなぁと思う。
「まったく、イケメンは言うことも違うな!」
「そうねぇ」

    *    *    *

「と、言うことで昨日お互いの両親に話してきました」
「絶対結婚式でスピーチさせるからね、岩ちゃん……!」
「言いたい事は山ほどあるが、取り敢えずよかったな」
 
 青城だけではなく、宮城にいる関わりのあった人で同窓会をするとのことで、予約している店までの道のりを三人で歩いていた。中学からの付き合いになるがこういった機会はなかったものの、不思議と慣れている。
「真っ先に岩泉に伝えたかったから、言えてよかった」
「あとは潔子ちゃんだね」
「だね」
「お前らそういうところだぞ」
 オリンピックが終わり、選手団が集まったホテルのロビーでプロポーズをしたものだから、今日集まっているメンバーは何も知らないのだろう。
「お前この後絶対弄られるぞ」
「だろうねぇ。集まるの久々だし」
「弄られるのは慣れてるでしょ」
「そんなことないよ」
 中学の頃から喧嘩は多くとも仲が良かった。それでも、どこか雰囲気が違って見える。人の視線を気にしなければいけなかった頃とは違って、お互い名前で呼び合って、普通の恋人同士になっている。
「お前、櫻井泣かしたらぶっ飛ばすからな」
「はあ!?岩ちゃんって何でそんなサラッと男らしいこと言っちゃうかな!?律ちゃんの恋人は俺なんだけど!」
「もう結婚報告したし婚約者よ」
「……ぁ、うん……へへ」
「キメェ」
「うるさいな!!」
 俺より櫻井の方がサラッとしすぎな気もするし、そこで照れるのが及川というのも変わらない。
「というか、籍入れたら私も及川だね」
「そうだねぇ。律ちゃんのこと、櫻井って呼べないねぇ?」
「げっ……そういやそうか」
 特定の女子とそこまで話すこともなかった俺が唯一中学時代から変わらず友人であり続けるのは櫻井だけだ。でも、及川になるならば変える必要もあるのか。
 なんとなく、こういったことに慣れていないから照れ臭い。男子でさえ、ましては幼なじみのコイツですら名字で呼んでいるというのに。
「……ま、追々な」
「あ!逃げたな!?」
「慣れればでいいけど、できるだけよろしくってことで」
 三人で話しながら予約していた店に行くと、既に数人は集まっていた。
 入った瞬間手を引かれた櫻井に及川がグッと表情を歪めるのを堪えているのに笑った。
 大して話したことない烏野の奴も、高校のメンツも懐かしいなと思いながら適当な場所に座る。
「おっすおっす」
「久しぶりじゃん、及川」
「まっつん、マッキーも久しぶりー!!元気だった??」
「っはハァ〜〜〜〜!この感じ、及川だなって感じだわ」
「それな」
 酒を注文しながら笑っていると、続々と人数が揃ってきた。まぁ、滅多に二人は帰ってくることはないし、今日が休日ということもあって集まりはいいのだろう。
 今回青城の集まっている面子は松川と花巻と国見、金田一。あとは烏野のメンバーが数人と、櫻井の幼馴染みだった山下。
「、律と及川君が離れたことで絶妙に隙間が出来てるし、今日その話しにきたんでしょ?」
「寄って寄って!」
 女子二人にうりうりと追いやられて、結局二人は隣に座った。やっぱり、及川の隣は櫻井以外に合わないと思う。
「あ、そうそう。なんやかんやで籍入れることになったから、結婚報告」
「軽い」
「もっと、気持ち込めて……!」
 櫻井の発言に二人は突っ込みつつ祝っていた。
「えー!結婚式とか楽しみにしてるね!」
「そこらへんはまだ考えてないけどね」
「だねぇ。どこがいい?」
「無頓着すぎるから。潔子と龍之介はどうして決めた?」
「俺らは雑誌とか読んで、」
「相談しに行ったり」
「普通だな」
 一番結婚が早かったのはこの二人だった。高卒で地元に就職したっていうのもあるだろうけど、身を固めるのは早かった。
「ついに!?おめでとう!櫻井さん」
「及川のお世話よろしくね櫻井さん!」
「マッキー!俺の世話って何!?」
「そのまんまだよ」と笑いながらぎゃあぎゃあ騒ぐ。
 高校卒業して約八年、数字だけ見れば遅い位かもしれないけれど、妥当だと思う。
「櫻井さん、影山達に言いました?」
「言ったってか、プロポーズされた時現場にいた」
「は!?」
「オリンピックの選手団の打ち上げでね」
「クロちゃんとか、ガチギレだった」
 ついその時のことを思い出して、ふっと笑った。何があったのかと根掘り葉掘り聞かれている櫻井はあろうことか「岩泉もいたよ」なんて言ったものだから、こちらにまで飛び火した。
「プロポーズの言葉って何だったの?」
「『俺のためにバレー辞めて。アルゼンチンでコーチして』」
「そりゃ黒尾怒るわ」
「アイツ櫻井のファン第一号だから」
 ゲラゲラと笑うものの、やっぱりということは引退になるのかという話になる。
「あのチームでバレーできて本当によかったし、金メダル一個で満足しちゃったし、リベンジしたい人は沢山いるしね」
「ま!俺はもう勝っちゃったけど?……でも、まだ銀だから」
「そういうところが二人らしいね」
 柔らかく笑った山下に、櫻井は気分を良くした。
「飛雄ちゃんこそいつ結婚するんだろうね」
「影山は脳内バレーしかないですし」
「そう言う金田一はどう?順調?」
「ウッ……マァ、ボチボチ」

 結婚しても、終わりじゃない。先があるって知ってる。でも、そのためには何かを切り捨てなきゃいけねぇこともある。
 ただ、櫻井と及川はお互いのために何も切り捨てずにここまで歩んできたのだ。そして、ようやくお互いを隣に置きたくなった。きっと最後まで、そうなのだろう。

 まぁ、つまりアレだ。
 細かいことはどうでもいいが、幸せになってくれ二人とも。



 律は、及川以外と結婚した方が幸せになれるかもしれません。だけど、それでもいろんな事を乗り越えて、二人で歩んで行って欲しいなぁと思っています。
 最早当たり前のように親枠の岩ちゃん。尊い。



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