青城に通っている律と付き合っている及川。ほのぼの。
二月十四日《バレンタインデー》。好意を持つ異性をはじめ、家族や友人に日頃の感謝と愛情を込めて日本ではチョコレートを渡す日である。
二月に入り仮卒期間だった三年生も、青城では午前中の登校が言い渡されていた。とはいえこればっかりは先生方の配慮の結果なのか、週に一度の登校日が偶然重なったのかわからないけれど。
カレンダーを眺めると、自然に明日に迫ったバレンタインの字を睨みつけた私は、就職も内定しており休みだからと飽きもせず部活に向かった。
殆どの受験生が勉強に追われ家に籠る中で、わざわざ制服に身を包んで学校に足を運ぶ人なんてそうはいない。勿論進路によってはそれが必要になるんだろうけど、私は実業団チームを持つ企業へ就職が決まった。この先もバレーからつかず離れずの生活を続けていく事を選んだし、後悔もない。
学校なら、設備も家より充実してるし。そう思って時々隙間を縫っては体育館へ足を向けていた。
「律せんぱーい!なんか、一年生の子?が呼んでます!」
後輩に指導をしていると、体育館に声が響いた。呼ばれた方に向かうと、可愛らしい、言ってしまえば体育会系が全く似合わなそうな女の子が立っていた。
「えっと、はじめましてだよね?櫻井律です」
「と、突然スイマセン!
えっと、櫻井先輩にお願いしたいことがあって来たんですけど、部活中にすいません!!」
「うん、とりあえず落ち着いて?
引退してるし、ゆっくりでいいよ」
落ち着かせるようにそう言うが「すう、はあ」と大きく深呼吸をした彼女はそれでも緊張が抜けなかったのか、ギュッと拳を握りしめて言った。
「今年のバレンタイン、及川先輩にチョコレート渡してもいいですか!?」
「いいよ」
「及川先輩、三年生だし………同じクラスの金田一君から卒業後は海外に行くって聞いて、それで、最後だから渡したいって思って、って………いいんですか!?」
「うん」
そんなにアッサリと私がOKを出したのが意外だったのか、女の子はぽかんとした。この子は、本当に及川の事が好きで、最後だからどうしてもって。でも恋人である私に申し訳なくて、慣れないのにここまで来たんだろうなぁと思った。
「人の好意は無下に出来ないしね、及川も。
なんだかんだ毎年他校の子にも貰ってるみたいだし……貴方みたいに聞きに来る子、今までいなかったから少しびっくりしたけど私のことは気にしなくていいよ」
青城どころか他校の女子からもモテる及川は、バレンタインだってとてつもない。でも、私と付き合っていると公言しているからか校内で渡す女子はほとんどおらず、それは圧倒的に他校の女子からだった。同級生の女子からは『顔が良い男』扱いではあるものの、バレーをしている時や普段の様子を見ている後輩からは羨望の眼差しを受けている。
中学の頃から今まですごくモテていたみたいだけど、後輩にファンが多いからか今年が一番凄そうだなぁと思っている。
「あ、でも渡すなら靴箱に突っ込むのはやめてあげてね。不衛生だからそのまま捨てられちゃうよ」
「は、ハイッ!」
ありがとうございますっと深々と頭を下げたその子は、軽い足取りで体育館を後にした。その背中を見守っていると、肩に手を置かれ声をかけられる。
「律、あんなこと言ってよかったの?」
「うん」
華に聞かれて即答すると驚かれた。そんなに意外なのかな、私はそこまで嫉妬深い彼女ではないと思うのだけど。
「私だって貰ったりあげたりするのに、及川は私と付き合ってるんだから私以外から受け取らないでなんて言えないし」
さっきの子、凄く良い子だったねと言うと、華はそれに同意した。
「ああ、わざわざ聞きに来たんでしょ?」
「うん。今まで押しつける子ばっかりだったから、直接聞きにくるなんて勇気あるなぁって」
「でも、それだけ本気ってことでしょ?本当によかったの?」
「うん、大丈夫」
私は元々こういうイベントはそこまで乗り気になれるタイプじゃないし。
ハロウィンはかぼちゃをくり抜いてランタンを作る。
クリスマスは七面鳥が出てくるディナー。
そしてバレンタインは、男性から女性に感謝を伝える日だと教えられて育ってきたものだから。バレンタインを用意するのは基本会う機会が減る三年生にだけで、貰った人に後日お返しを配っていた。おかげで一年の時は及川に泣き付かれたけれど、まぁそれはそれで良い思い出だし、今では及川の分も作るようにしている。
「今年も楽しみにしてるね!律のお菓子が一番美味しいし」
「チョコだと飽きちゃうだろうし、もうバレンタインは花ってイメージが離れないからなぁ」
ちなみに去年は薄切りのリンゴのコンポートを薔薇に身立たせて一人一つお返しをしたら、凄く驚かれたのと同時に評判が良かったのを思い出した。今年は何を作ろう。
でも、そうか。
高校生活も残り半月。バレンタインは最後のイベントみたいなものなんだ。私はこれからも及川と関わりがあるのだろうけれど、大多数の人はここで途切れる。そう考えると何となく彼女としての優越感があるような気もする。
バレンタインデー当日。私は朝から昨日の夜に作っておいたカップケーキに冷蔵しておいたコンポートを綺麗に盛り付けて、学校に着くと真っ先に体育館へ向かった。
「律先輩!おはようございます」
「はよ」
バレンタインの朝は練習もそこそこにお菓子の交換になる。体育館に入った瞬間から挨拶と同時にチョコやクッキーを渡してくる後輩へお返しを渡していく。
渡す予定だった人のを抜いて予備で十個くらいは持ってきたから充分足りるだろうと思っていた。
「おはよ、律。今年は結局何にしたの?」
「はよ。カップケーキにコンポート乗っけただけだから、だいたい去年と同じ。朝作ってきたから、早めに食べてね」
「わ、ありがと」
華をはじめとする同級生にも渡し終わり、残る個数を数えていると、既に食べ始めている人が数人いた。
「律先輩ってお菓子作り本当に上手ですよね!
ありがとうございます」
「普段から料理とかしてるんですか?」
「暇な時とか、時々ね」
料理はできて損は無いし春から一人暮らしを始めるので、ここ最近暇なこともあって家事はだいたい自分がこなしている。元々両親が共働きだし、部活が現役の頃は試合や練習で迷惑をかけたからと、その分の親孝行だ。
「そういえば、同じクラスの友達が及川先輩にチョコ渡すって言ってましたけど」
「うん、別にいいよ。及川も断りはしないと思うし」
「え、いいんですか?」
「及川先輩、普段アレなのに顔はいいからモテますよね」
「取られたりとか」
「全然平気。大丈夫だから」
* * *
さて、今日は女子には勿論、男子諸君にとっては特別な日。バレンタインデーである。
律ちゃんと付き合い始めて初めてのバレンタインは何ももらえないというハプニングがあったものの、去年は普通にお菓子をもらえた。両親の影響で洋画が好きというのは中学の頃から知っていたけれど、まさかイベントごとまで海外に寄せてくるとは思ってもいなかったから一年生の時は本当に驚いたものだ。
付き合っているからととても楽しみにしていた分、貰えなかった時は普通に泣いた。いや、まさか用意されてないとは思わないじゃん?ウキウキしながら放課後の自主練を終えると普通にバイバイ。膝から崩れ落ちそうになった。というか落ちた。
でも今年は三年生で、午前中の登校ということもあり午後からデートすることが決まっている。
「あの、及川先輩!チョコレート、もらってください」
「え、ああ……うん。ありがとう」
キャッキャと楽しそうにしている女の子たちには申し訳ないけれど、俺は今年こそは律ちゃん以外の子から受け取る予定はなかった。でも、昨日の夜本人から「受け取りな」と言われればそうもいかないわけで。
いつも俺ばっかり律ちゃんに夢中で、それなのに律ちゃんは俺に全くと言っていいほど執着していない。
クールで、カッコいい。孤高。そんな我が道を行く律ちゃんのことが好きだけれど、付き合っているのだからもう少し甘えてくれてもいいのになぁといつだって思ってる。
彼女はどんな気持ちでこの日を迎えるのだろう。学年一モテてしまう俺の彼女だから、優越感を抱いてるとか?でも、俺としては妬いてほしいのであんな………ねぇ?普通、女の子からのチョコは全て受け取りなさいなんて、言う??
学校に到着すると、既にいたるところで可愛らしい紙袋を持った数人の女の子が見える。仲良い子や同じ部活の先輩後輩に渡して回っているのかな。そう思いながらえっちらおっちらと廊下を歩いていると、後輩の女の子から声をかけられてチョコレートをもらう。「ありがとう」「大事に食べるね」なんて当たり障りのない言葉を吐いて教室に向かった。
「あ、及川来た」
「って、何お前チョコ貰ってんだよ。櫻井さんと付き合ってんのに」
「これだから及川は」
「なんだよ三人とも!」
同じクラスの彩音ちゃんとマッキーとまっつんが話しているのにサラッと加わって、机の上に貰ったチョコを広げる。
「はい、私からも。抹茶のクッキー」
「え、何で抹茶?」
「私が好きだから。花巻と松川にも渡したし、残り岩泉と及川だけだったんだけど………
そういえば、及川。朝から律さんに会った?」
「会ってないけど」
「ふうん?」
含みのある笑いをした彩音ちゃんを見て不思議に思っていると、岩ちゃんが教室に入ってきたから、同じようにラッピングされたお菓子を渡していた。
「及川、お前いくつ貰った?」
「え、今のところ六個」
「やっぱこれ、全然ダメだろ」
「だよね。賭けにすらならなかったくらいだし」
「何の話?」
そう疑問に思ったのも束の間、廊下で明るく話す女の子たちの声。
「貰ってくれてよかったぁ。てか、櫻井先輩ってほんとかっこいいね」
「あんな風に生まれたかった」
「それな」
「………?」
「及川、今んとこ櫻井に負けてるぞ」
「エッ」
「学年一モテてるの、及川じゃなかった説」
「草」
岩ちゃんに話を聞くと、朝教室に来た時には既にバレー部の後輩達と交換してきたらしく、それでもそれ以外の後輩の女の子からも貰っているのだと。
バレーに限らず運動神経抜群な彼女の事だし、陰ながら人気があることは知っていたけれど、まさか負けているとは………。いや、でもチョコの数って競うものでもないし?全然気にしてなんかないよ。うん、全然。マジで。
「ずっと隠れファン多いって知ってたけど、今年最後だしね。律さん、今めっちゃたいへんなんじゃない?」
「え〜〜〜。俺、櫻井さんにお菓子もらいたかった」
「去年美味しかったもんな」
「あ、三人に預かってきてる」
「マジ?やった!帰りジュースでも渡しとこ」
「え、じゃあ岩泉渡しといて。これ律さんの分だから」
、ひょっとしてこいつら。
明るい会話の中でチョコレートの数をサラッと聞いたこと。それから、律ちゃんのこと。
「何か俺たちで遊んでるな!?」
「いや、賭けようと思ったけど意見が合いすぎて賭けにならないからやめた」
「今日の放課後までに及川と櫻井さんの貢物の数比べようって話になってね」
こいつら。いや、普段からこういうことをしてるメンツだから全然おかしくはないのだけど。
にしても、バレンタインチョコを用意しない律ちゃんなのに渡しに行くとか………ん?待てよ
「そういや岩ちゃん、俺の分は?」
まっつんとマッキーに律ちゃんから預かってきたのであろう個包装されたものを渡す岩ちゃんに聞けば、さも当然と言ったふうに告げられる。
「あ?ねぇよ。こいつらのぶんしか預かってねぇ」
「はああああああ!?俺、彼氏なんだけど!」
「知るか。本人に聞け。
つっても、櫻井は予備も早々に無くなったからって御丁寧にメモ帳にクラスと名前聞いてたけどな」
「え、俺の分は!?無いの!??」
「でも、放課後デートするんでしょ?」
するけども!!!え、嘘でしょ?本気で言ってるの岩ちゃん。
そう思って見た岩ちゃんの目は純真無垢で、これは本気だとすぐにわかった。って事は、俺また律ちゃんからチョコ貰えないの?
「てか、及川とデートする櫻井さんとか想像できん」
「普段のデートって何してるの」
「買い物したり…映画見たり……」
「え、映画って家で?そういうことは?」
そういうって、と考えて数秒で否定しておいた。
「………いや、ナイナイ」
「は?つまんな」
「及川の事だから初めては中学の時、年上のお姉さんに食われてるものだと」
「何言ってんの朝の九時から!」
「え、まさか及川のくせに童貞……?」
「それもそれで逆に引くよね」
「みんなして俺のことなんだと思ってるの!?」
「え、クズとか……?」
「ひどい!!」
そう騒いでいると先生が入ってきたのでそれぞれのクラスに戻っていった。
律ちゃんはバレーがうまくて後輩から人気があるいい先輩って知っていたけれど、彼女に心からの愛を伝えられるのは自分だけだと思っていた。
それなのに、バレー部の女の子どころか他の部活の下級生の子からも貰っているみたいでムッとする。いや、俺だって貰ってるしバレンタインだから仕方ないとは思っているけれど。
四人の言うような関係にこれから先発展していきたいなぁとは思っているけれど。律ちゃんの家に初めて遊びに行った時は「ひょっとして」なんて淡い期待を寄せていたし、何なら今でも期待してるけど!?でもそんないい感じの雰囲気になる気配なんて全く皆無だし。
そもそも今時の高校生ってどこまでするのが一般的なの?
キスで止まってるのって別に普通だよね?
午前中は卒業式の練習や掃除で終わり、そのまま三年生は帰宅となった。
「結局いくつだった?」
「俺二十くらいかな。でももう律ちゃん以外から受け取る予定は無いよ」
「あれ、他校の子とかは?いいのに」
玄関で会った律ちゃんと並んで帰る。
ケラケラ笑いながらチョコレートを貰った数を聞いてくる律ちゃんは相変わらず嫉妬のかけらすら見せない。そのくせして彼女もまたチョコレートが入ったと思わしき可愛らしい紙袋を持っているものだからそれに目が行き、ムッとする。
いつから俺は女の子にまで妬くようになったのやら。
「律ちゃんが俺のためを思って、気遣いからそう言ってくれたって知ってる。それはありがとう。
でもね、俺は律ちゃんの恋人なんだから、律ちゃんだけから受け取るつもりだったのに」
「それが聞けただけで徹の気持ちは伝わりました。
ありがとう」
大きな目をパチリと瞬かせて、律ちゃんは微笑んだ。
家に荷物を置いて着替えてから行くと伝えて別れたものの、俺の機嫌は急降下したまま。
言葉が嬉しいってのは俺も嬉しいけれど、それだけでいいなんて絶対言わせないつもりだったのに。やっぱり俺ばっかり律ちゃんを好きみたいだ。
サイフとかを入れたショルダーバックにスマホを放り投げ、それを持って家を飛び出し、少しお土産を買ってから律ちゃんの家に向かった。両親は共働きだから平日の真っ昼間に家にいることは無いと聞いている。インターホンを押すと、律ちゃんの間延びした返事に続いて玄関のドアが開いた。
「気持ちが伝わった??
俺からの気持ちは言葉じゃ表せないのに!」
「え、これ……」
「受け取ってください!」
来る途中寄ってきたのは前からこの日のためにと予約していたお花屋さんだった。
バレンタインはチョコより花だと話す彼女には前から花束を渡したいとずっと思っていたのだけど、去年までお互いバレーに追われていてそんな時間がなかった。だから、こんなことをするのは今年が初めてだった。花だから優しく、なんてことはなくグイッと律ちゃんに押し付けて家に上がる。中学の卒業式の時に俺が告白して、恋人になって三年。家にも数え切れないほど来てるから勝手知ったるというようにリビングに向かう。
「どうしたの、これ……いや、嬉しい。ありがとう徹」
白くて小さなかすみ草に映える真っ赤な薔薇が十一本。シンプルだけど、ネットで見たりお花屋さんに聞いたりして最後まで自分で決めてから購入したものだった。
そしてショルダーバックから小さな箱を取り出して渡した。
「あと、これも。俺、卒業したら海外に行くからさ」
「ネックレス?」
「うん」
アメリカでは、花束やアクセサリーと共にプロポーズや告白をするのが主流らしい。両親の影響でそっちの文化に敏感になっている律ちゃんだから、やっぱりお菓子よりこっちの方が良いのだろうなと思う。
「ブレスレットと迷ったけど、どうせならいつでも付けられるものの方が良いかなって。どう?」
「嬉しい……本当にありがとう。
ケーキ作ってる途中だったから、食べながら映画見よ」
「えっケーキ?」
「うん。さすがに恋人には去年と同じ物なんて渡さないよ」
ケーキ。ケーキ……。確かにそれは、中々学校では渡せないよねと途端に気分が上がる俺はとても軽い男だと思う。
「ちょっと時間かかるから、好きなもの見てていいよ」
「はぁい」
もっぱらデートはお互いのしたいことに合わせる為、今では俺もすっかり洋画に詳しくなってしまった。大抵は律ちゃんが見たい映画を見ることが多く、家にある物だったりレンタルしたものだったりする。一日オフが重なることがあまりなかったからか、外に一緒に出かけることの方が少ないかもしれない。
鼻歌を歌いながら収納されているパッケージを眺めていると、ふんわりと甘い香りが漂ってきてそちらに視線を向けた。
ダイニングキッチンでケーキ作りに励む律ちゃんは普段と違って赤のロングニットに身を包んでいる。膝上の丈から伸びる足は黒タイツを纏っており、正直言って艶かしい。上から紺色のエプロンをつけているけれど、その姿が手に持つボウルと相まって新妻感が半端ない。
ううん、ぶっちゃけドストライク。
「……いや、私じゃなくて映画見なよ」
「好きなもの見てていいんでしょ。
てか、去年も勿論美味しかったけど律ちゃんて料理得意だよね。普段からするの?」
「いや、今までは滅多にしなかったけど両親共働きだし。レシピ通りにすれば失敗なんてほとんどないでしょ」
「俺はそんな料理しないけど」
「じゃあ、今度は何か一緒に作る?仮卒期間って逆に暇だし」
一緒に。ご飯を。作る?
俺と律ちゃんが並んでキッチンに立って料理をする姿を想像して頬が少し緩んだ。
「なんか、それって新婚さんみたい!」
「そうでもなくない?」
そうこうしているうちにケーキは焼き上がったみたいで、手際よくチョコレートをスポンジケーキに塗って飾り付けていく。
「時に及川徹君。
今日はバレンタインデーということで、顔がよく性格もある意味いい貴方のことだから女の子たちから沢山のチョコレートを貰っていましたね。さぞ気分が良いことでしょう」
「ある意味って何?」
「私としても、恋人がモテモテというのは鼻が高いです」
「え?ああ、うん。ある意味って???」
「私からのバレンタインチョコはこのケーキになります。私も食べるけど」
「美味しいものは分け合って食べたいからねぇ」
ケーキを切り分けてお皿に乗せ、ついでにと紅茶を入れる。甘ったるいものにはノンシュガーのストレートティーと決めているみたいだけど、ペットボトルの甘い紅茶の味に慣れている俺からしたらそれはかなりハードルが高いので砂糖を出してもらった。
「よし、今日は何見ようかな」
「でも俺、まだ律ちゃんに怒ってるからね」
映画を見る気満々になっていた律ちゃんが可愛くて流されそうになっていたけれど、俺はまだ律ちゃんからの愛が足りないことに怒っている。
「え?」
「だってこれ、普段してることと変わらないじゃん!
もっとこう………バレンタインらしくさぁ、恋人らしい事しようよ!」
「例えば?」
例えば、え?これは、いや。言えるか!
脳内に『は?つまんな』と笑う朝の三人の顔が思い浮かんだけれどそれを一瞬で振り払った。
「……世間一般の恋人らしいって、何なんだろうね」
「そういうこと。他所は他所、うちはうち。ってことで、私たちらしくいればいいんじゃない?」
「でも、でも〜〜〜〜!」
フォークを握りしめたまま何を叫んでいるんだと律ちゃんは笑った。
そういう、少し大人っぽいところとかかっこいいところも好きだけど、俺はもうちょっと、本当に少しでいいから愛されてると感じたい。ぐううう。とお腹と口から出た音にあははは。とまた律ちゃんは笑って言った。
「私以外の女の子にチョコ貰っても全然良いよ、気にしないよって言ったのは、徹が私以外に目移りしないって自信があったからなんだよ。電話した時だって、あからさまに声のトーンが落ちてたし」
そう、突然律ちゃんが話した言葉に目を丸くして聞いていると、珍しく歯切れ悪そうに言葉を切った。
「それにまぁ、なんというか………調子のんなって言いたかったのかな」
及川の事を好きな女の子達に、そして何より及川に愛されてると自覚している自身に。
「私も大概良い性格してるな」と笑う律ちゃんも、浮かれていたのかもしれない。まぁ、バレンタインは恋する人達の為の日だしね。
「普段からその可愛らしさを小出しにしてくれれば、ここまで大打撃を喰らわないで済むのになぁ」
「何か?」
「イエ、何も」
俺も大概調子乗ってる。
大抵のことは許してくれる懐が深い櫻井さん
引退後はバレーのスポンサーもしており実業団チームを持つスポーツ大手の企業へ就職が確定。選手として活躍するかどうかはわからないけれど、一応これからもバレーは続けるよ。
甘いものは月に一度めちゃめちゃ食べたくなることがあるけれど、基本しょっぱい系が好き。
チョコより花束の女。
彼女の方が実はモテていた及川さん
進路に関しては原作通り。
律ちゃんがバレンタインチョコを作らないと知った一年の時は本当に泣いた。いや、中学の時も義理とかなかったけど。
でも二年の時からはね、ちゃんと自分から用意するようになったし。でも律ちゃんも用意してるから完全に交換になってるよね?
甘いものは食べるけど、どちらかというとお腹にたまるものの方がありがたいかな。
Special thanks. 文
「及川、櫻井律にバレンタインのチョコの数負ける」
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