3人が感染した話



「え…?」

スタッフさんから言われた言葉に梅田の身体から力が抜けた。
ドンって背中が壁に当たって、ズルズル落ちていきそうなのをなんとか堪えて、視線を逸らさずにスタッフさんを見つめてた。
いつもだったらふらついた梅田に手を伸ばすもってぃも、今回ばかりは唖然としたまま動けない。
そりゃそうか。
俺も新も奏も、同じように固まったまま。

「だから、影山と椿と鈴木がコロナウイルスに感染した」
「それって、え、明日からどうなるんですか?」
「グループ仕事はしばらく5人で、」
「っそうじゃなくて!3人はどうなるんですか?」
「保健所の指示に従って療養することになる」
「もう会えないってことですか?」
「しばらくは。復帰時期は決まっていない」
「しばらく、ねぇ」

考えなかったわけじゃない。
現にジャニーズ事務所から既に感染者が出てる。
でもこんな身近な人が、メンバーが、未知のウイルスに感染するなんて思ってなくて。
考えたくもなくて。
『あの3人、リハ来ねえな。遅刻じゃね?』とか言ってる間に3人がリハ室に飛び込んでくると思ってたんだ。
なのに、しばらく会えない。
しばらくどころか、いつ戻ってくるかもわからないんだ。
みんながグッと唇を噛んだ時、梅田がパン!って強く手を叩いた。

「はいその顔禁止」
「は?」
「そんなしょんぼりしてたら3人に申し訳ない。しばらく私たちがIMPACTorsなんだよ。沈んだ顔してちゃだめ」
「っ、」
「私たち5人が、IMPACTorsの名前背負うんでしょ?」
「でも、」
「はい新そんな顔しなーい」
「いひゃいれす」

この状況で沈んだ顔しない方が無理だろ。
そう思うけど口には出さなかった。
出したら、梅田のから元気が無駄になるから。
言ってることは正論だし理解できるけど、無理矢理笑って、無理矢理から元気を搾り出してることは明白だった。
俺らに言ったんじゃない、自分に言い聞かせてた。
それに気づけない程俺たちは単純な関係じゃない。
少しだけ不安そうな顔した新の頬をぐいって引っ張ったけど、逆に新に顔を覗き込まれた梅田はすぐに見破られる。

「うめめ、手震えてます。あと泣きそう」
「言わなくていいから」
「うめめってやっぱり演技下手ですよね」
「言わなくていいから!」
「IMPACTorsって名前なのに演技下手ってやばいから」
「下手じゃない」
「そうだよね、うめめも不安だよね」
「そんなこと言ってないから」
「大丈夫ですよ、僕らいるんで」
「あははは、大丈夫だよ、お姉ちゃーん」
「もう!からかわないで!」

梅田は梅田なりに俺ら、というか自分より年下で不安な顔した新と奏をフォローしようとしたんだろうけど、2人ともそんなに弱くないし梅田のその気遣いにも気付いてる。
サマパラで”お姉ちゃん”は破られてるのに、まだその役目に拘ってるらしい。
不安に決まってる。
やっとグループ結成してこれからって時に3人もお休みするなんて、3人のことが心配すぎて心臓が張り裂けそう。
それでも、なんとかやっていかなきゃいけない。
梅田が言った通り、しばらくは5人でIMPACTorsなんだ。
梅田が不安なら年上だろうと先輩だろうと遠慮なしに助けたいって、新も奏も思ってる。

「じゃあ、真面目な話する?」
「真面目な話?」
「3人がいない間、俺らが何するか。なにもしなかったらファンの方たちに心配かけちゃうから、俺らは俺らでできることやっていこう」
「…うん、やろう」

もってぃの冷静な声は俺たちを安心させる。
そう、1番心配をかけてしまうファンの方になにが出来るのか、なにを届けられるのか。
ファンの方と一緒に叶えてきたグループだからこそ、ここから、どうするか。






画面越しに会う晴は今まで見たことないくらい顔をくしゃっとして、なぜか眉間に皺寄せてこっちを睨みつけてた。
睨んで不機嫌でぶすってしてたのに、かげが名前を呼んだらじわーって涙が滲んできて。

『こんなに影山に会いたいと思ったこと今までなかったよぉ』
『なんだよそれ!普段から会いたいと思えよ!』
『うぅ、』
『ちょ、泣くなって!晴!』
「あー、泣かせた」
『え、俺!?ごめん!』
『会いたいよぉ』

かげが何回謝っても晴は変な声で唸って顔をくしゃっとさせてた。
最新のスマホは画質がいいから目に滲んでる涙がよくわかる。
コロナウイルスの陽性反応が出た翌日から俺たちはホテルで隔離生活をしている。
1人一部屋だから隣に椿くんとかげがいるんだけど、もちろん会えていない。
こうやってメンバーとのテレビ電話が許されるまで丸一日かかってしまった。
急に決まったから椿くんは別件でいないし、晴のスマホには晴本人と、苦笑したもってぃしか映ってない。
とはいえ、お互いに元気な姿を確認できてホッとした。
たとえ泣いてても。

『基!なんとかしろって!』
『え、俺?げえくんが泣かせたんでしょ?げえくんがなんとかしなよ』
『っあー!もう!泣くなって晴!俺も大河も椿くんもめちゃめちゃ元気だから!』
『じゃあ2週間きっかりで戻ってきて』
『そ、それはわかんないけど…』
『うぅ、』
『ちょ、あー、晴?俺らも最短で戻りたいけどどうなるかまだわかんないし、約束できないんだって』
『うん、わかってる、わかってるけど…』
「晴、ティッシュないの?泣くとマスクの色変わるよ」
『ティッシュないや、持ってくる』

これは相当メンタルきてるな。
画面の向こうにトボトボした背中が消えていくと、それを心配そうに見届けたもってぃがこっちに視線を戻した。
ぱんって軽く合わせた両手のごめんねポーズとハの字になった眉が、申し訳なさを全身で表してた。

『ごめん、泣くと思わなくて。これじゃあ逆に2人に心配かけちゃうよね』
「びっくりしたわ。てか大丈夫なの?」
『大丈夫大丈夫。2人見て安心したんだと思うよ。新と奏がいる前じゃちゃんとしてるから』
『うわー、それ想像できるわ。まだお姉ちゃんぶってんの?』
「意味ないのに」
『本人は意味あると思ってるからそんなきついこと言わないで。それに、あの2人がいなかったらずっと沈んだままだよ。2人がいるから梅田はしっかりしなきゃって思えるわけだし』
「横原ともってぃじゃだめ?」
『だめだめ。同い年3人が揃っちゃったら我慢できなくてすぐため息」
『まあでも、顔見れて安心した。晴が1番やばいかなーって思ってたし。ほら、宮舘くんも感染しちゃったじゃん?』
『あー…』

このタイミングで感染したのは俺らだけじゃない。
SnowManの宮舘くんも感染してて、SnowManさんは予定されてた仕事が色々なくなってる。
その中には紅白歌合戦も含まれてて、SnowManさんは絶対にダメージを受けてる。
晴は宮舘くんと仲良いからきっと落ち込んでるだろう。
てか、晴は宮舘くんと連絡取れたのかな?

『うーん、たぶん大丈夫そう。心配はしてるだろうけど、それよりげえくんとがちゃんへの心配の方が勝ってるよ』
『え、意外』
『2人が思ってるより何倍も梅田は2人のこと大好きなんだよ。もちろんばっきーのこともね』
『えー?なんかそれ照れんな』
「ニヤケてんぞ」

ティッシュ持ってきたーなんて言いながらフラフラ戻ってきた晴はニヤニヤしてるかげを見て首を傾げてた。
たしかに、心配はかけたくないけどこんなに分かりやすく全力で心配されるとちょっとにやけてしまう。
本当に会いたがってるんだって伝わるから。
パチパチ瞬きをした晴は、くすくす笑ってる俺とかげともってぃを不思議そうに見てた。

『晴、俺ら戻ったら真っ先にみんなに会いに行くから!安心して待ってて!』
『お!げえくんそれいいね。漫画の主人公みたいなセリフ』
『いや、最初はご家族のところ行ってもろて』
「今、かげが晴のこと思ってかっこいいこと言ったんだから冷静になんなよ」
『ほんとだよ。俺なんかかっこつけてスベッたやつみたいじゃん』
『でもやっぱりご家族が1番でしょ。あと次は新と奏。私は最後でいいよ』
『うわ!出たよ意味わからんお姉ちゃん思考』
「泣きながら言っても説得力ないからね」

何度も何度もティッシュで涙を拭ってるけど、笑えてるから大丈夫そう。
まずは家族に、って考えは晴の本心だろうし、きっとリアルに考えたらそれが正しいんだろうけど、でも、俺らはここから出たら真っ先に会いに行くと思うよ。
俺らが休んでる間にIMPACTors背負ってくれてた5人に、会いに行くと思うよ。






車の後部座席から降りてきた3人を見て、梅田の身体が飛び出した。
あ、これやばいやつ、って気付いて咄嗟に手を伸ばしてパーカーのフードを掴んだのは正解だったみたいだ。

「うめめー!」
「椿くん!っぐえ、」
「よこぴー、うめめの首しまってる」
「はいソーシャルディスターンス」
「正解」
「く、くるし、」
「パーカー伸びちゃう」

コロナウイルスに感染してた影山くんとがちゃんと椿くんが戻ってきた。
タイミングよく5人全員揃った日だったからこうしてお出迎えしたわけだけど、お姉ちゃんぶることをやめたのか諦めたのか我慢できなかったのか、真っ先に駆け出した梅田が椿くんに飛び付こうとしたからパーカーを引っ掴んで止めた。
椿くんも両手広げて迎えようとすな。
2人の伸ばした手が虚しく宙を彷徨ってる。

「触れられないのつらいね、やっと会えたのに」
「本当にね」
「泣いちゃう?うめめまた泣いちゃう?」
「え?私泣いたことないよ?」
「めちゃくちゃ嘘吐くじゃん」
「全部嘘じゃん」
「うめめ、エアハグしよ?」
「するする」
「はいぎゅー」
「ぎゅー」
「椿くん優しいな。うめめにのってあげてる」
「ただつばっくんがハグしたかっただけ説もあるよ」
「おい晴!電話で俺に会いたいって言ってたのに椿くんが先かよ」
「いや、影山に1番会いたいとは言ってないよ?椿くんも大河も会いたかったよ?」
「なんか悔しいわ」
「俺らもエアハグしとく?」
「しとくしとく!」
「とりあえずやっておこうみたいなテンションなんなの?ハグが軽くない?」
「てかさ、なんかみんな冷たくね?歓迎してんの晴だけじゃん」
「そんなことないよ?俺らだって心配だったし会えて嬉しいけど、…ねえ?」
「そう、梅田のテンションが振り切っててこっちはついていけてないのよ」
「どういうこと?」
「心配もすごいし喜びもすごくて、なんか、それ見てると逆に落ち着いちゃうのよ」
「え、ごめん」
「いや、責めてはないんだけど」

俺らだって心配だったよ?
心配だったけどさ、目の前であんなにから元気で大人になろうとしたのになりきれてなくて泣いてたやつ見たらそれ以上落ち込めないじゃん。
まあ、それが功を奏したのか今日まで俺らは誰もメンタルやられることなくこうやって8人揃ったわけだけど。
その思いは一緒なのか、もってぃがふはって噴き出した。

「やっぱり俺ら全員揃うと騒がしいな」
「それが1番いいだろ」
「まあね」

3人が帰ってきて今日からまた全員の仕事が始まる。
もう3人の体調は心配ないのに、梅田は誰かしらの側を離れなかった。
嬉しそうにしてたのはつばっくんだけで、影山くんとがちゃんは『いい加減にしろ』ってうんざりしてたけど。



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