この心はあなたでできている

 摘み取ったヴァルベリーの実を籠に入れて立ち上がれば、ひんやりとした風が頬をなでた。日中は暖かくても、夜はさすがにすこし肌寒い。気づけばもう日が沈みかけで、あたりはほんのり茜色。家を出てから随分と時間が経ってしまっていたようだ。
(ディルック様を待たせてしまっているわ、急いで戻らないと。)
 少し遠く。木に背を預けながら腕を組むディルック様に歩み寄れば、目線がうごく。終わったかと緩やかにほほえみ、籠を持ってくださった。
「はい。たくさん採れました。これだけあればヴァルベリーパイだって作れそうですね」
「作ったら僕の分も残しておいてくれ」
「ふふ。もちろん」
 今日の分はほとんどがお店のカクテルで無くなってしまうのだけれど。私とディルック様、二人分くらいは残しておいてもいいかしら。それからワイナリーの従業員の分も含めてしまうとかなりの量になってしまうから、ふたりきりの秘密にして、みんなにはまた今度。
「じゃあ帰ろうか。レティシア」
「はい」
 当たり前のように私の名前を呼んで、一緒に帰ろうと声をかけてくれる人がいる。ひとりではないと実感できるこの瞬間が、この日常が、大好きだった。帰る場所があるというのはとてもしあわせなことだから。