誰もが通る道

 きゃあ! 扉を開けてすぐ視界に入った大きななにかに驚いて悲鳴をあげれば、かくんと足に力が入らなくなってそのまま地面へと倒れ込む。が、後ろにいたディルック様が腕を掴んで支えてくださったおかげで尻餅をつくのは免れた。一体何がいたのでしょうか。ばくばくと心臓が慌ただしい。よく見ればそれは大きなきのこ。ディルック様が慣れた手付きでもぎ取って、見せてくださる。
「な、なんですか、それ」
「これは慕風のマッシュルームと呼ばれるモンドの特産品の一つだよ。突然生えるから驚くのも無理はない」
 まっしゅ、るーむ。聞けばモンドの街や清泉町の民家の壁によく見られるきのこらしい。昨日まで生えていなかったのに……。1日でここまで生えるなんて驚きの成長速度だわ。
 感心したようにきのこを眺めていれば後ろに控えていたアデリンさんがくすくすと楽しそうに微笑みながら口にする。
「ふふ、ディルック様も小さな頃は驚かれていましたよね。懐かしいわ」
「えっ、そうなのですか?」
 ディルック様も。確かに幼い子供が見たらもっと大きく感じるのかもしれない。特に夜だと白さも相まってより怖さが増してしまうわ。ディルック様はごまかすように小さく咳払いをし、それから照れたように口にした。アデリン、言わなくていい、と。