今日は雨降り
雨の音が聞こえる。
その音にわたるは薄く目を開き、隣で寝ている人物を起こさないよう枕元に置いたスマホを見ればまだ深夜の0時を過ぎた頃だ。変な時間に起きてしまったと思い、わたるは隣で自分に背を向けている相手のその背中に額をくっつけ、再び目を瞑った。雨の音に、少し前のことを思い出しながら。
その日も雨だった。
わたるは雨の中、傘もささずにとぼとぼと歩いていた。そんなわたるを気にかける人間などおらず、濡れ鼠になりながらただ行く宛もなく歩いていた。最終的に、雨ざらしのベンチに座りぼーっとしていた。
帰る家もなくなった、身を寄せる場所も行く宛もないのだ。このまま雨に溶けることができたらどんなに楽だろう。そんなことを考えて、俯いているとふと、体に雨が当たらなくなった。雨音は続いているから止んだわけではなさそうだ。そう思って顔を上げれば、白衣を着た長髪の、自分よりずっと年上だろう男が傘を手に立っていた。
「どうしたんだい?」
柔らかな言葉が降ってくる。途端に目から涙がぽろぽろと溢れ、捲し立てるように家もない、帰る場所がない、何処にもいけないと吐き出す。それをただ聞いていた彼は、わたるへ手を差し出した。
「ならうちに来なさい。」
わたるはその言葉に素直に頷くと、差し出された手に濡れて冷えた手を重ねて立ち上がり、彼に手を引かれるまま彼の家へと導かれ、風呂に入れられ、一人寝には少し広いベッドで二人で眠った。彼は自分の事を必要以上に詮索することも無いし、それが心地よかった。
目を瞑りながらそんな取り留めのないことを考えていると、その彼が寝返りを打つようにこちらを向く。起こしてしまっただろうかと思っていると、低く掠れた声が聞こえた。
「どうしたんだい?」
あの時と同じ、優しい声。
「ん……寂雷せんせに…拾ってもらったときのことを思い出してました。」
「…ああ……雨降りだからね……でももう寝なさい。」
そう言うと、こちらに向き直った寂雷はわたるを軽く抱き締め、ちゅっと軽いくちづけを唇に落とすと再び目を閉じる。
「はい……。」
相手を起こさぬ様に小さな声で応え、わたるもその胸に額を寄せて目を瞑った。寄り添う二人を包むように、雨はしめやかに振り続けている。
END
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作成:18/4/15
移動:20/8/30