Happy×2 Days
美緒の朝は早い。
なにせ、実家から通っていた時に乗る電車より数本早い電車に乗らなければならない。シュウジが起きている時は二人で簡単な朝食を摂るものの、バンマスとして頑張っているシュウジはオフの日は稀に疲れからかこんこんと眠っている時もあり、美緒も彼が頑張っていることを知っているので、そんな時は静かに一人で朝食を摂り、小さな声でいってきますと声をかけ、静かに家を出る。
その日もそんな風に出ていこうとしたが、手にしていたプリントに視線を落としたあと「シュウちゃんは忙しいからな……。」と小声で呟くと、それをゴミ箱に捨てて家を出た。
それから二時間後、シュウジは目を覚まして時計に目をやる。本来起きる時間よりだいぶ遅れて起きたことに顔をしかめつつ、布団から出ると寝汗を流そうと浴室へと向かう。
部屋を出てから、自分の隣の部屋……つまり、今は美緒が寝起きしている部屋に視線をやればドアが少し開いていた。ドアの開閉音で自分が起きないようにと美緒が気遣ってくれているのを知っていた彼は、また気を使わせたな……と思いつつその戸を閉めようと手をかけた。
「……ん?」
ふとゴミ箱に目をやれば、学校のプリントのようなものが入っている。間違えて捨てたのか、もし重要なものだといけないなと思いながらそのプリントを拾い上げ、中を見る。
それは授業参観のお知らせだった。
「……あぁ、」
捨てた理由をすぐに理解した。美緒の両親は海外に行っているし、彼女を預かっている身の自分はこの通り多忙を極めている。
美緒はそんな状況をよく理解しているから、これを彼に出さずこっそり捨てたのだろう。
「日付は……、」
その日付を確認しつつ、自分のスケジュールと照らし合わせる。
授業参観当日。
周りの生徒たちが自分や、クラスメイトの親を見てワイワイと盛り上がっているのを見て、美緒は微笑むもののやはりどこか一抹の寂しさを覚えて小さく溜息を漏らした。
授業開始のチャイムが鳴り、生徒たちが席につき、教師が教壇に立つと同時に後ろの扉を開く音が聞こえ、後ろの保護者が僅かにざわめいた。教師も少し驚いたような顔をして、周囲の生徒たちもちらちらと背後を見てひそひそと囁き合っている。
「……??」
美緒は不思議そうにしながらちらりと背後を見る。そして、思わず小さな声でえっと漏らしてしまった。
保護者たちの中に、シュウジが立っていた。思わぬ訪問に放心状態になった美緒は、授業も殆ど耳に入らず、ただただ背後から見つめるシュウジの方が気になっていた。
授業が終わる少し前に、混乱を避ける為かシュウジは一足先に教室を出たが、昇降口で背後から「シュウちゃん!」と呼ばれて立ち止まる。
「な、なんで知ってたのぉ?……その……忙しいと思ったから、プリント……、」
「悪い、つい目に入ってな……仕事の空き時間が出来たから見に来た。」
「でもぉ……、」
「美緒、」
「……なぁに?」
少し困ったような顔をする美緒の頭を軽く撫でて、シュウジは続ける。
「今の保護者は俺だ、叔父さんから美緒を預かってるんだ、全部は無理でも出れる行事くらいは出ないとな。」
「シュウちゃん……、」
「……今日は遅くなる、だから先に寝てていい。戸締まりはしっかりな。」
そう言うとシュウジは美緒の頭から手を離し、外へ出るために歩き出す。
「はぁい。……ごはんはー?」
「食べて帰る、つくらなくていい。」
「わかったぁ。」
そんなやり取りをして、美緒はシュウジの背中を見送る。
が、途中で声をかけた。
「シュウちゃん!!」
「?」
「……来てくれて、嬉しかった!」
にっこりと笑ってそう言うと、美緒は手を振ってそのまま教室の方へ戻っていった。それを見てから、シュウジは車に乗り込み仕事先へ向かう。
その後、リハギリギリになってしまった事を他のメンバーたちにいろいろ言われたものの、シュウジは美緒の嬉しいという言葉で少し浮足立っていて、あまり聞いていなかった……。
end
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作成:18/2/7
移動:20/8/31