琥珀の揺りかご
「お蝶〜、」
ジャンヌが入院している産院に、氷空が顔を出しに来ていた。個室の病室で寝ていたジャンヌは、目を覚ましたようで体を起こそうとする。
「あ〜!身重なんだから!」
「ん……そうですけど。」
「ってか、肝心の旦那さんは?」
病室内にはジャンヌしかいない。
「ふふ、喫煙室じゃないですかね……。」
「嗚呼、なるほどね……今は体大丈夫?」
「ええ……ふふ、予定日は明日なのに、みんな心配症ですねえ。」
そう言って笑うジャンヌに、氷空は少し肩を竦める。
「明日すぐ来れるかわからないもの、今顔出しておくしかないじゃない?」
「まあそうですけどねぇ。」
そんな会話をしていたとき、病室のドアが開いてダンテが入ってきた。
「おかえりなさい。」
「ああ……来てたのか。」
「ええ、順調そうで何より。」
氷空の言葉ににやっと笑うと、ダンテはベッドに腰を下ろす。
「俺のガキだしな、丈夫だろうさ。」
「そうだといいですけどねぇ。」
クスクス笑うと、じゃあそろそろと言って氷空は帰っていった。
「ジャンヌ、」
「なんですか?」
声をかけられれば、不思議そうな顔で顔を上げる。そんなジャンヌの顔を軽く撫でて、ダンテはにやりと笑う。
「今更聞くが……後悔はないか?」
「あら、今更後悔してるなんて聞いたらどうするんです?」
可笑しそうに笑うジャンヌは自分の顔に触れる彼の手に、自分の手を重ねる。
「残念ですけど、今更後悔なんてしてあげませんよ。大体後悔するようなら15年も待ちません。」
「そうか。」
そうして、空いている方の手で膨らんだ腹部を撫でてやる。
「……じゃあ無事に産んでもらわないとな?」
「安心してください、ちゃんと産んであげますから。」
くすくすと笑い合う、親二人のその会話に呼応するように胎児がその手を蹴り上げるように腹を内側からどんどんと蹴ってきていた。
END
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作成:19/5/7
移動:20/8/31