砂塵の彼方へ

とある戦場で、ギターとヴァイオリンを演奏する2人組は有名になっていた。日夜死と隣合わせに生きている反乱軍の兵士達に気に入られ、彼らの立ち寄るその小さな酒場で2人は常に演奏を行っている。
ギタリストの男はかつて四響と讃えられ、ヴァイオリニストの女はクラシック界で将来を有望視されていた。
男はラファエル、女は栞那、兵士たちからはよく冷やかされて栞那の方が真っ赤になることが多いが、ラファエルは満更でもないようにその度彼女を抱き寄せ、人目も憚らずくちづけていた。
そんなふたりが、かつて市街地だった場所を散歩していた時だった。酷く爆撃され、殆どの建物は崩壊し跡形もない。その中にかつて教会だっただろう場所を見つけた。

「……カンナ、」
「なぁに?」

彼に呼ばれ、導かれるままその教会の中の祭壇だっただろう場所の前まで歩く。
すると、彼がその場で跪いた。

「ふぇ!?」
「……カンナ、」

あまりのことに驚く栞那をよそに、ラファエルは言葉を紡ぎ出す。

「私には、もう何も無い、四響としての栄光も何も……あるのはギターを弾くこの腕だけだ、それでも……一緒になってくれるか?」

栞那はぽかんとした顔をするも、それが所謂プロポーズだと気付けば一気に顔を赤く染める。しかし、すぐに軽く頭を揺すり、いつものようににっこりと微笑んだ。

「もちろん!……だってあなたがギターを弾く姿に惚れ込んでここまでついてきたんだもの。……ラファエルこそ、いいの?私だって何も無いよ、ヴァイオリンを弾く腕しかない、それでもいい?」
「もちろんだ、いや、君はそれ以外も持っている。」
「え?」
「……だがそれは、私だけが知っていればいい。」

そう言って笑うと、ラファエルは立ち上がってぎゅっと強く栞那を抱きしめる。

「……病める時も健やかなる時も……私は君を愛することを誓おう、たとえ神に見放されていようと、君を私は離しはしない……死がふたりを分かつまで。」
「病める時も健やかなる時も、私もあなたを愛します。……絶対離さないでね?私も離さないから……死がふたりを分かつとも。」

そう言うと、どちらともなく唇を寄せ、重ね合う。

「……愛している、カンナ。」
「……私も、愛してる……ラファエル…。」

たった2人の密やかな結婚式を、星々はただ照らしている。

END
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作成:18/7/4
移動:20/8/31

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