それにしても昼間から街をふらついている銀さんは相変わらず依頼もなくパチンコでも行っていたのだろうか。何処となく元気がない様子からして一文無しになり店から出てきたに違いない。
「あ、そういやキミたちお昼はもう済ませたの?」
「なんです旦那ァ。まさかパチンコでスカンピンになったからご馳走してくれなんざ言うんじゃねェでしょうね」
「お!さすが総一郎君。察しが良いねェ〜」
「総悟でさァ」
「年下の私達にそんな事言ってプライドとか無いんですか」
「こっちは一週間も糖分摂ってなくてそんなの言ってる場合じゃねェんだよ」
いちごパフェだけで良いからさ。と悲しい顔をした銀さんをこれ以上見ていられず、まぁ、いちごパフェくらいなら…とやむを得ず承諾した。
てに〜ずへ着き、銀さんのいちごパフェと少し早めのお昼休憩として私達も定食を頼むことにした。嗚呼、せっかく新しく出来た定食屋に行こうとしていたのにな。けれども銀さんには何かとお世話になる事が多いし定食屋には明日にでも行けば良い事だ。
それぞれが食事を終えると、沖田がおもむろに立ち上がった。嫌な予感がする。
「じゃ、ご馳走さん」
「はっ!?」
…やられた。抜く手も見せず沖田は姿を消した。テーブルの上には勿論沖田の分の伝票がぽつんと置かれたままだった。しかもまだ見廻り終わっていないのに…。思わず大きな溜息が出る。
一人で屯所へ戻ったら土方さんにまた怒られるだろうな。…いや待てよ、目の前に救世主が居るではないか。
「銀さんこれから暇ですよね」
「何かその言い方棘があるよ瑠璃音チャン」
「私を屯所まで送って行って下さい」
銀さんに理由を話すといちごパフェ奢ってくれたし、瑠璃音の頼みじゃ断る理由なんてねェよ。と快く了承してもらえた。
屯所までの道のりを二人で歩き、こうして銀さんとゆっくり話をするのも暫くぶりだ。何だか懐かしい気持ちになる。
「上手くやれてんのか」
「え? あぁ、はい」
銀さんの言う上手くやれてるかとは真選組の事だろう。私が元々真選組に入隊したのは銀さんが警察庁長官の松平片栗虎、通称とっつぁんに話をつけてくれた事が契機だった。その話の場はスナックすまいるで、そろそろ男所帯の真選組に新しい風を吹かせないかという事で銀さんが話しを持ち掛けたらしい。勿論酔っ払ったとっつぁんには真面な判断なんて出来なかっただろうし、そんな話覚えている筈がなかったが、男に二言は無いという訳で入隊が決まった。
女の私が入隊した事で真選組では最初こそ賛否両論であったが、現在に至っては上手くやれていると思う。これも理解ある隊士達のお陰であることは間違いない。
「あーあ。お前に依頼された時真選組なんかにやらないで万事屋に置いときゃー良かったなァ」
今からでも俺の所に来いよ。と肩を抱かれ顔を覗き込まれた。銀さんの顔が一気に近くなり思わず面食らってしまう。
万事屋に来いよ、という意味で言われていると分かっている筈なのに違う意味で捉えてしまう感覚に陥り顔に熱が集まってくる。
「俺本気なんだけど」
「ち、近いよ銀さんっ!」
「瑠璃音は俺より彼奴らの所に居てェの?」
「あのっ」
「…このまま連れて帰って良い?」
「俺の部下を口説いてんじゃねェよ万年発情期」
肩を抱かれる力が強まり更に銀さんとの距離が縮まる。耳元で鼓膜を震わせる銀さんの声にこのままでは心臓が持ちそうに無い。そう思ったその時、銀さんとはまた異なる心地良い低音が真上から降ってきた。
「んだよ多串君。テメェだって瑠璃音の事いやらしい目で見てるくせによォ」
「はぁ?何の話だ。 つーかさっさとその汚ねェ手どけろ」
声の主は土方さんだった。
銀さんから言い放たれた冗談を軽く遇らって先程まで肩を抱かれ密着していた身体を引き離された。
視線をバチバチと合わせる二人は本当にそりが合わないようで何処となく似ている。こんな事言ったら揃って怒ってくるに違いないが。
「神月、何でコイツと一緒なんだ。見廻りはどうした」
「え〜?真選組鬼の副長って束縛するタイプなのォ〜??」
「テメーは煩ェんだよ!!ややこしくなるからちょっと黙ってろ!!!」
沖田が見廻りの途中で失踪したので屯所まで送り届けてもらっていたことを伝えると、銀さんの顔に視線を移し軽く舌打ちをされた。
何だかいつもより瞳孔が開いてる気がするけど。え…何故。
「わざわざこんな所までご苦労だったな」
「お礼も真面に言えねェのかテメーは。 ほんっといけ好かない野郎だぜ」
胸糞悪ィ顔見ちまったからまたな瑠璃音。と来た道を戻る銀さんに、送ってくれて有難う!と言うと背後を向いたままヒラヒラと手を振って行ってしまった。
行くぞ。と土方さんから声が掛かり屯所までの道のりを並んで歩く。
「今度からは俺に連絡しろよ」
「……へ?」
「万事屋に頼むくれェならまず俺に言えって言ってんだよ」
「いや、でも…。銀さんに頼んだ方が早く屯所に戻れると思ったので」
「んな事言ってんじゃねーんだよ!俺が迎えに行ってやるっつってんだろーが!!」
「……?」
何故土方さんがそこまで言うのかよく分からないが、上司として一番に連絡が来なかったことがそんなに悔しかったのだろうか。それとも銀さんという存在が単純に気に食わないだけの理由か。どちらにせよ男って変なプライドがあるんだなっと少し気の毒に思った。
そして、こんな会話をしていた私達の様子を沖田が見ていたことなんてこの時は全く知る由もなかったのだった。
20170603
真選組副長補佐編 続
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