着飾れば気分も上がる乙女ごゝろ




新しい着物を着付けて小さな紙袋に入っている髪飾りを手に取った。どういう理由で私にこれを贈ったのか彼に聞くべきだろうかと考えたが上司から部下へと贈っただけという事以外思いつく事なんてただそれしか無くて、わざわざ理由なんてものを聞くなんて野暮な事する必要は無いと思い至った。それなのにこれを贈った理由が私だからだという理由であったら良いなんて思っている自分がいて、そろそろ門口に皆が集合している頃だというのになかなか髪飾りを付けられずにいた。彼にとっては何でもない贈り物だったとしても折角贈ってもらった訳だし付けている姿を見せて御礼の一つでも伝えるのが礼儀なのだろうが、何だか照れ臭い気もするしどんな顔をしていたら良いのかも分からずこんな感情を持つのは初めての事でどう対処したらと思い悩んでいた。

「瑠璃音さん?準備できましたか?」
「あっお待たせしてごめんなさい!今すぐ行きます!」

そうこうしている内に山崎さんの声が自室の前から掛かったので私は急いで手荷物を持って引戸を開いた。

「うわぁ、瑠璃音さんの着物姿すごく新鮮です」
「いつもは隊服か袴ばかりですからね」
「可愛いですよ。その髪飾りとよく合ってて」
「あ、ありがとうございます…」

山崎さんの視線の先には髪飾りがあり思わず身動ぐとシャランと音を立てて揺れた。やはり少し照れくさくてもきちんと御礼を言うべきだと思い身に付けたのだ。
山崎さんと門口へと向かうと見送りに来てくれた隊士達が居た。

「神月補佐!楽しんで来て下さいね」
「着物姿めちゃくちゃ可愛いッス!!」
「皆んなありがとう。お土産買って帰って来るね」

「馬子にも衣装ってやつだな」

隊士達に見送りの挨拶をしていると門口に寄り掛かってガムで風船を膨らます沖田が居た。沖田とは昨日何となく変な感じになってから口を利いていなかったが、いつもと変わらない彼の様子からして私の考え過ぎだったみたいだ。

「新しい着物買ったの」
「知ってらァ。  隊務中だってのに二人仲良く呉服屋の袋ぶら下げて戻って来てたもんな」

表情一つ変えずにそう言い放った沖田はやはり少し様子がいつもと違うような気がした。沖田とは普段から下らない事を言い合っているし、いつもなら「何それ嫉妬してるの?」なんて笑って冗談を言っている所だが何故か今はそんな事を言える様な気分にはなれなかった。そして何も言い返せずにいる私に沖田は軽く舌打ちをして近藤さんや原田さんの居る方へと歩いて行ってしまった。

「神月」
「あ…土方さん!おはようございます」

沖田の歩いていく背中をただ眺めていると背後から声を掛けられた。振り向くとそこに居たのは土方さんで反射的に挨拶をする。彼の姿を見ていると一気に身体中が火照っていくのを感じて顔が赤くなるのが分かった。恥ずかしくなって視線を無意識に土方さんの顔からどんどん爪先の方に移してしまう。しかし早く髪飾りのお礼を言わなければ、と思い切って顔を上げた。

「あ、の!これ…」
「似合ってる」

顔を上げた私の髪飾りに軽く触れた土方さんは優しく微笑んでいた。視線が絡み、ぎゅうと胸が締め付けられるような感覚がした。この感覚は今朝この髪飾りが土方さんからの贈り物だと悟った時と似ていた。思えば物心がついてから人から贈り物を貰ったのは初めてだった事にこの時気付いた。

「ずっと、大切にします」
「あァ」
「ありがとうございます。土方さん」


程なくしてとっつぁんが手配してくれたワゴン車で予約のしてある旅館へと私達真選組一行は向かった。

「あぁ〜着いたァ」
「結構綺麗な旅館じゃねェか」

長時間座りっぱなしだった為お尻と腰が少し痛い。ぐーっと伸びをして車を降りると立派な旅館の門口があった。門口を抜け館内に入り近藤さんと土方さんが受付に向かい予約の確認をしていた。すると間も無くして彼ら二人の大きな叫び声が館内に響き渡った。何事かとエントランスのソファに腰掛けていた私達は彼ら二人のもとへ向かう。

「部屋が一つしか予約出来てねェってどうゆうこった!?」
「ですから…真選組御一行様でご予約をして頂いた松平様にご予約のお部屋は一部屋で良いと…」
「んなこたァあっちゃならねェ!何とかもう一部屋取れねェのかい?」
「申し訳ございません。本日は満室でして…」
「何てこった…嫁入り前の瑠璃音ちゃんと野朗共が同室なんて…」

聞こえてくる内容からしてどうやら私も皆んなと同じ部屋で過ごすらしい。慌てた様子で近藤さんと土方さんが別室を確保しようと試みるが生憎今日は満室。しかし私の為だけにもう一部屋取る事になれば余計に別途料金も発生するし、第一今回は折角の親睦を深める会みたいなものでもあるので一人部屋で寂しく過ごすよりもずっと皆んなと過ごす方が楽しいに違いない。

「私は皆さんと同室でも全く問題ないので大丈夫ですよ」
「神月本気で言ってんのか」
「寧ろ私が同室だと皆さんは問題ありますか?」
「瑠璃音ちゃん!男は狼なんだよ!?」

受付のカウンターテーブルにもたれかかる様に居る二人の間に入り込んで同室でも構わないと伝えると、土方さんは眉間に皺を寄せ近藤さんは私の肩に手を乗せてブンブンと揺さぶってきたので首が前後に激しく持ってかれそうになった。私が訳が分からないというような面持ちでいると背後に居た沖田が私の腕を引いて来た。そのせいで自然と近藤さんの手が私の肩から離れる。

「何事も無いよう俺がよォく見張っておくんで大丈夫さァ。  ねェ、土方さん」
「何が言いてェ」

何故土方さん?と疑問をい抱き腕を掴まれ真横に居る沖田から彼の顔を見るとひどく機嫌が悪そうに沖田を睨みつけていた。いつもの二人の様子とは何となく違って少し怖く感じたので厠へ行って来ますと言って逃げるようにこの場を離れた。

「あれ?瑠璃音アル!」

厠を出て直ぐにあるソファに見覚えのある人達が居た。私の姿を見つけるなり駆け寄って来た青い瞳を持った美少女はいつもの赤色のチャイナ服ではなく温泉上がりなのか此処の旅館の浴衣を身に付けていて綺麗な髪も下されたままだった。彼女を追ってお馴染みの二人も此方へとやって来た。

「万事屋の皆さんこんにちは」
「瑠璃音さんご無沙汰してます」
「元気にしてたアルか〜」
「よォ瑠璃音、この間はいちごパフェあんがとな」

律儀にお辞儀をして挨拶をしてくれる眼鏡は志村新八君で誰よりも先に私の元へ駆け寄って来た美少女は神楽ちゃん。そしていつの日だったかいちごパフェをご馳走してあげた銀さん。彼に会うのはそのいちごパフェをご馳走して屯所まで送り届けてもらった振りだ。正確には途中で土方さんにバッタリ鉢合わせてしまい折角送ってもらっていたのに追い返してしまった形になってしまいそれ以来なかなか会える機会がなかった。

「銀さん、先日はきちんとお礼が言えずにごめんなさい」
「あ?  あぁ、過保護な上司が居ると大変だな」
「一人で外出する許可が出たので今度美味しいお団子ご馳走しますね」
「おう!期待してるぜ」

そんな事を話していると横から神楽ちゃんが、銀ちゃんばっかり狡いネ!私も瑠璃音とお団子食べたいアル!と抱きついて来た。嗚呼…本当に何て可愛いんだろう。そう思ったのもつかの間、痛い出費をしたばかりだった事を思い出した。銀さんだけならまだしも大食い女王の神楽ちゃんに加えて二人を連れて行くなら万事屋メンバーである新八君も連れて行かなきゃ悪いし今の私にこの三人をご馳走なんてしたら破産への道に進んでしまう、確実に。

「そう言やァ瑠璃音何でこんな所にいんだ?」
「社員旅行的なので連れて来てもらいました」
「市民の税金で社員旅行とは良いご身分なこって」
「ぐうの音も出ません…。  ところで万事屋は万年金欠なのに何故此方に?」
「言ってくれるじゃあねェか瑠璃音」
「聞いて驚くなヨ」
「神楽ちゃんが商店街の福引きで此処の旅館の二泊三日食事付き券を当てたんですよ」

そう言って私を囲んでクルクルと嬉しそうにスキップをしながら回る万事屋三人。

「へえ、凄いね神楽ちゃん。  で、いつから泊まっているんです?」
「さっき着いて、とりあえず温泉に入って来たところですよ」
「え……」
「つーか社員旅行って事は真選組の奴らも来てんだろ?お前らはいつから泊まってんだよ」

こんな事があるのだろうか。此処はかぶき町から車で何時間かする場所に在るし、万年金欠の万事屋と社員旅行なんて初めてに等しい真選組とが鉢合わせるなんて…。しかも万事屋も今日から二泊三日此処の旅館に泊まるらしい。もう色々とフラグが立ちはじめてしまっていることは否めない。

「瑠璃音?オメー顔色悪ィぞ大丈夫か」
「……銀さん、真選組も今日から二泊三日なの」
「はぁッ!?」
「えへへ、喧嘩しちゃだめだよ?」
「いやいやいや、……えぇッ?」

楽しい社員旅行になりそうです。


20171206
旅館編  続

前項  9