
不透明な恋情
Page 1 of 5「紫原氏よ……」
「なにそのヘンな呼び方〜。てかなんか小難しい顔してる〜」
「何故……」
「え〜? なに、聞こえなぁい」
「何故、氷室さんは私なんかと付き合ってくれたんだろうか……」
そりゃさとちんが好きだからに決まってるでしょと、前の席に座る紫原君がまいう棒を食べながら暢気に呟く。
私もそうだと信じたい……けど、氷室さんの気持ちが分からなくて最近ずっと悩んでいた。
一つ年上の氷室さん。帰国子女の彼はバスケ部に所属していてとても格好よくて頭も良いし英語はペラペラだし、何より紳士で優しい。だから女子からの人気もあって高嶺の花のような存在だった。ちなみにマイルドヤンキーと言う異名があるらしいけど私は信じていない。
親の転勤で陽泉に転校してきて日も浅い時、クラスの子に誘われて何となく見に行ったバスケ部の練習で見かけた氷室さん――無謀にもそんな彼を好きになってしまったのだ……。
同じくバスケ部に所属している紫原君をお菓子で買収しながら協力してもらって、玉砕覚悟で告白をしてまさかのオーケーに腰を抜かしてそして付き合い始めて二ヶ月。
部活で毎日忙しいし学年も違うから大抵はお昼休みに話すくらい。手はつい最近やっと繋げて、何よりいまだにお互い苗字で呼びあってる……本当に付き合ってるのだろうか。でも初恋の相手が初めての彼氏で私は満足してる――何より不満なんて抱いたらバチが当たりそう。氷室さんは本当にモテるから。
「でも好きなんだよ……大好きなんだよ〜」
「そんなに気になるなら室ちんに直接訊けばいいじゃ〜ん」
「貴様他人事だからって。それが出来れば君にこんな相談してないわよ」
私はつい紫原君の頭をガッと掴むけど指の長さが足りなくてほとんど意味をなしていない。紫原君も何してるのって目で見てくるし……。
今は一緒にお昼を食べる約束をしている氷室さんを教室で待っている。二人きりはまだ慣れてなくて緊張するから紫原君をお決まりのお菓子で買収でいてもらってるって感じかな……。
「よく分かんないけどさ〜、さとちんはこのままじゃダメだって思ってるから悩んでるんでしょ〜?」
「……うん」
私は手を離して座り直す。そして飲みかけのパックジュースをズズーっと一気に飲み干した。
「だったら訊いてみればいいじゃん。まぁ、室ちんはちゃんとさとちんのこと好きだと思うけどねぇ〜」
「何で分かるのさ……」
「え〜? 気付いてなかったの〜? さとちん見てる時の室ちん、何かキモチワルイ顔してるよ〜」
「き、キモチワルイ顔!?」
「えっとねぇ、なんかだらしない顔してる」
「氷室さんは格好いいからそんな顔しない!」
本当だよ〜と紫原君が興味なさげに鼻で笑ったからまた頭を掴んでやった。今度は両手で思いきり。それにしても本当大きいよね紫原君て。同じ高さの椅子に座ってるのにそれでも私より全然座高が違う。
「佐藤さんにアツシ……一体何をしているんだい?」
「あ〜、室ちんやっときた〜」
「えっ、あっ、ううん、何でもないです……!」
いつの間にか氷室さんが側に来ていて私は慌てて手を離す。変なところを見られてしまった……ま、ま、まさか、浮気だと思われたらどうしよう!?
「あの、本当に何でもないですからっ……!」
「分かってるよ。だからそんな泣きそうな顔しないで?」
ポンと頭に手が置かれた。
信じてもらえたのは嬉しい。触れてもらえたのも嬉しい。でも、欲を言うなら、少しくらいヤキモチを妬いてもらいたかったかな、なんて……じんわりと感じる熱に本当にちょっと泣きそうになった。
緊張であんまり味の分からなかったお昼も終わって、紫原君は氷室さんに無理矢理連れられて外へバスケをしに行っている。他のバスケ部のメンバー達も集まってきて皆とても楽しそうだ。私はそんな彼らを教室から一人眺める。氷室さんにおいでって言ってもらえたけど、あんなに楽しそうな輪の中に入っていける自信はとてもない……。
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