
不透明な恋情
Page 2 of 5 しばらく眺めていたらコートに女子生徒が数人やって来て一緒に加わりバスケを始めた。素直に羨ましいと思った。羨ましくて、胸が苦しい。
それなら見なければいいのにって頭では分かっていても目が離せなくて気になってしまって、氷室さんと女子生徒がハイタッチをしたところで私はやっと視線を外すことが出来た。
やっぱり自信ないなぁ、本当。紫原君に言われた通りこのままじゃいけないんだよね……私は本当に氷室さんが好きだ。氷室さんに触らないで、なんて可愛くないことをここから大声で叫びたいくらい。
私は携帯を取り出して、氷室さんに明日の昼休み時間があったら屋上に来てほしいとメッセージを送った。こっそりと様子を窺ってみたらメールに気付いた氷室さんがこっちを見上げる。二階にいるのに目が合ってしまって私は咄嗟に逸らしてしまった。
◆ ◆ ◆
氷室さんは普段はバスケ部のメンバー達とお昼を食べる。それは私と付き合う前からだから文句も不満もない。嘘……ちょっとだけバスケ部にヤキモチを妬いています。本当は氷室さんを独り占めしたいです。
でも氷室さんと二人きりでご飯なんて、緊張して無理だ……今だって紫原君がいるのに緊張しちゃってるし。
私は一人屋上にいて、さっさとご飯を食べ終えている。微かに吹いている風は秋の匂いがした。
「……恋しくなるではないか」
氷室さんと付き合って迎える最初の秋。あとまだ冬と来年の春と夏もある。まあ、全部一緒に迎えられるか分からないけど……。
「佐藤さん……なぜ正座なんかしているんだい?」
「えっと……決意表明、と言いますか……」
氷室さんが屋上に来た。メールの返事もちゃんとくれたけど、来てくれた。それだけで嬉しくて顔がにやけそう。脚は痛くないかと心配してくれるからなおさら……事実痛いけどね。
向かい合うように氷室さんが座ってしばしの沈黙……早く切り出さなきゃいけないのに、やっぱり訊くのが怖いとさっきまでの強気さが見え隠れして唇が縫い付けられてしまったかのように開かない。
「佐藤さん? 何か話があるんだよね?」
「……あの、氷室さん……いや、氷室様」
「何だい、氷室様って」
「何で、私なんかの告白、オーケーしてくれたんでしょうか……」
「え? そんなの、佐藤さんが好きだからに決まってるだろう?」
「本当ですか? 実はあまりにも勢いがすごくて断りきれなかったとか……そう言うのじゃないんですか?」
私はずっと膝の上で握りめた手を見つめている。顔なんて見れるわけがない……氷室さんは今どんな顔してるのかな。
「本当に違うよ?」
「私は、氷室さんが本当に好きです。格好いいし、でもそれだけじゃなくて。優しいし、一緒にいて安心できるし、とても落ち着くんです。一歳しか違わないのに不思議なくらい……だからそんな王子様みたいな氷室さんと付き合えて本当に嬉しいです」
「王子様と呼ばれるのは恥ずかしいな……」
「それくらい素敵ってことです。でも、氷室さんと知り合って日も浅かったしはっきり言って私は全然可愛くないしスタイルだってよくない……最近ちょっとお腹回りとかあれだし……」
「そうかな? オレは気にならないけど……」
「頭だって良くないし、やっぱり全然可愛くないし……なのに、何で氷室さんはこんな私なんかと付き合ってくれてるのかなって……」
自分で言っておきながら、改めて氷室さんに不釣り合いな人間だということに気付かされた。
鼻の奥がツンとして喉が苦しくなる。ああ、泣きそうなんだ私。ますます顔が上げられなくなってしまった。
「佐藤さん、顔を上げて?」
「……む、無理です。今、気持ち悪い顔してるから」
「オレは君がどんな表情でも気にしないよ」
「ぬあっ……!」
ガッと顔を挟まれて、半ば無理矢理顔を上げられてしまった。情けない声も出ちゃったし……。
今だかつてないほどの至近距離に氷室さんの綺麗な顔がある。睫毛長いんだ……髪の毛もさらさらだな。なんて、見蕩れてしまう。
「鼻が赤くなってる」
「ぜ、前世がトナカイだったもので」
「ふふ、何だいそれ……泣いてるの?」
「な、泣いてないです……」
「泣いてるじゃないか」
私は今にもこぼれてしまいそうな涙を必死に引っ込めようとしたけど願いも空しく目尻からポロリとこぼれ落ちてしまった。
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