ピンクグレープフルーツキス

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「……あ、こはる先輩だ」

 部活に向かう途中に見つけた小さな後ろ姿。歩く度にふわふわ揺れるさらさらの髪の毛。先輩を見ると何かちっちゃい動物みたいで無性に抱き締めたい衝動に駆られるから困る。

「こはるせーんぱいっ」
「わっ……やっほー黄瀬君。これから部活?」
「そーっスよぉ。はぁ〜、このまま先輩と一緒に帰りたいっス」
「あはは。頑張ってよ海常バスケ部のエース君」

 こはる先輩は小さい。オレはまぁ、そこそこな方、かな。だから先輩の身長はオレの胸くらいだ。
 直ぐ隣にある小さな手。たまに頭を撫でてくれるその手を今すぐにでも握りたい。オレが先輩の事好きだって、気付いてないだろうなぁ……この人、変なトコでニブちんだから。

「ね、こはる先輩。部活始まるまでまだ時間あるしちょっと話相手になって下さいよ」
「私でよければいいよ」

 先輩じゃなきゃ意味ないっス。先輩と気まずくなりたくないから口には出さないけど。
 こはる先輩はニッと笑う。ニコじゃなくてニッて笑う辺りが先輩らしい。そう言う飾らないところがすげー好き。自分で言うのもアレだけどモデルやれちゃうくらいの見た目だから寄ってくる女の子もあからさまって言うか……だから普通に接してくれる先輩が大好き。
 とりあえず先輩と二人きりになれる口実も出来たし、やべーニヤける。



「おじゃましまーす……わ、男子の部室ってもっと散らかってるイメージだったけど綺麗にしてるんだね〜」

 先輩は物珍しげに部室の中をキョロキョロと見回している。何て言うか本当、小動物みたい。
 オレは先輩に気づかれないように後ろ手で静かに内鍵を閉めた。

「まあ、キャプテンがあれっスからねぇ……」
「あはは。でも笠松君、結構優しいよ」
「えっ! こはる先輩、キャプテンと知り合いなんスか!?」

 それは初耳だ。て言うかなんで笠松先輩と話したことあるんだ? まさか笠松先輩が好きとか!?
 いや、あり得ないな。先輩好きな人いなそうだし……ただしオレ調べだから信憑性はそこそこ低い。そしてそれはそれで複雑だ。だってオレの気持ちに全く気づいてないからますます望み薄になる訳だし。

「あれ、言ってなかったっけ? 私笠松君と同じクラスだよ」
「マジっスか……」
「マジですよ。授業で分からないところがあって訊いたらちゃんと教えてくれたり……て言っても笠松君て女の子苦手なのかな、そう言うときくらいしか話せないんだけどね」
「え? 席近いんスか?」
「隣の席だよ」

 マジかよ……笠松先輩羨ましすぎるだろ!
 こはる先輩が隣の席だったらオレ授業真面目に受けれる自信ある。マジで。

「うわぁ……トロフィーがたくさんだぁ……さすが海常バスケ部だね」

 先輩は無防備だ。
 鍵を閉めたことにも気づいてない。そんなずる賢いことしないと思ってるんだろうな。そしてきっとオレなんて弟みたいに思っているに違いない。
 今先輩を押し倒すなんてオレにとってはなんて事ない、でもそんな事したら先輩に嫌われるから何とか我慢してるけど先輩を抱き締めたいしキスもしたい。欲を言えばその先の深いコトもしたい。
 オレは先輩が欲しくて堪らないんスよ。

「ねえ、こはる先輩。先輩って彼氏とかいるんスか?」
「えぇっ!? なに、急にどうしたの?」
「気になったんで訊いてみたんスけど……いるんスか?」
「い、いないよ、彼氏なんて……私のことなんて好きになる人いないし……」

 だろうね。その反応は誰かと付き合ったことがある人間には出来ない。顔もチョー真っ赤だし……可愛すぎでしょホント。
 つーか、先輩を好きな人間が目の前にいるんスけどねぇ……こんなの本気で気づいてないって言われてるようなもんじゃん。付き合ってる奴がいないのは嬉しいけど手放しじゃ喜べねーや。

「き、黄瀬君はどうなの?」
「え? あぁ、まあ……オレは先輩よりはそこら辺は、ね」
「なっ……!」
「てことはキスもまだって事っスよね」
「き、キス!?」

 ヤバ。ますます顔が真っ赤っかになっちゃった。それこそ頭から湯気出そうなくらい。
 しかも先輩まだキスしたことないとかさぁ……あーもー、これ以上煽んなよ!

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