レゼナが咲いた日
*
気候は緩やかに春に向かいつつあった。ウルディアス・ウォルター=リビィント領レゼリュウス町は、田園地帯が広がる中規模の長閑な町である。世間では春の収穫祭を間近に控えて、農家の人々は精を出していた。
ミルフィとハウエルは相乗りで、ハウエルの愛馬レジーの背中に揺れていた。今日は学校が休みなので、レゼナの丘にピクニックに行く途中だった。ハウエルの母親チェルシー夫人が作ってくれたお弁当のバスケットを胸に抱いて、レジーに揺られながら、ミルフィは気持ちのよい風を頬に受けて目を細めた。
「しかし驚きだね。レゼナの初咲きを見るためにわざわざ毎朝丘に通っていたのか。フィーの根性には感心するよ」
「あら。せめて乙女心と言って欲しいわ」
レイストン牧場の近くにある雑木林を抜けて、左右を田園に囲まれた公道を進む。少し先には小川が流れており、魚も棲んでいた。小さな橋にさしかかった。昔はこの小川でハウエルと水浴びをして遊んだ。今は子供達数人が魚釣りを楽しんでいる。
ここから進んだ少し先には、レゼナ花が咲く丘があった。レゼナの丘と町人達からは親しまれていた。ミルフィは毎朝、このレゼナの丘に通っていたのだ。
朝の不機嫌はいささか直っていた。今頃ユージンとルシアスは何を話しているのだろう。とチラリと脳裏を過ぎったが、ミルフィは頭を振って極力考えないように努めた。
「フィー。春休みはどこに行きたい?」
「そうねえ。あっ。王都に行ってみたいわ。王都には数年前に行ったきりだから」
「王都かぁ。遠いしお金もかかるな。それに馬車じゃないと」
ハウエルは申し訳なさそうに言った。ミルフィは楽しそうに笑った。
「いやね。もしもの話よ。王都なんて子供の私達には簡単に行けないもの」