忘却の姫子
しおりを挟む

レゼナが咲いた日 
 ウォルター=リビィント領は、王都ほどではないが、それなりに華やいだ領地だ。城下町は下領町、上領町に別れ、王都から直結した大きな運河も流れていた。田舎に住む者達にとっては、せいぜいがウォルター城下町に旅行に行くのが最大贅沢の楽しみだった。隣町には有名な風車丘もある。

「そう言えば、学校で噂になっていたけれど、レイズヴァーグの第三王子が王都に滞在中らしいわ。名目は春の収穫祭の祝辞贈呈らしいけれど、本当は王子の花嫁探しが真の目的だっていうのは本当かしら。王子ってたしかまだ御年十四歳よね」

 結婚なんて早すぎるんじゃないのかしら、と続けるミルフィに、ハウエルは苦笑して身を乗り出した。

「知らないのかい? 王家の人間は早婚が当たり前だよ。これはレイズヴァーグに限らずウルディアスでも同じさ。十四歳といったら結婚適齢期なんだよ」
「まあ。十四歳が結婚適齢期!? 王家の人間は何かと大変なのね。私は結婚なんてまだ考えられないわ」

 恋をしたことだってないのだ。そう続けると、ハウエルは寂しそうに笑った。しかしミルフィには、ハウエルに抱き抱えられる形でレジーに乗っていたので、その様子は分からなかった。

忘却の姫子