忘却の姫子
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レゼナが咲いた日 
 ハウエルはレジーの手綱を繰りながら、オスガの言葉を胸内で反芻した。そうして再びミルフィの綺麗な黒髪に視線を落とした。
 今自分が考えていることはただの馬鹿げた想像に過ぎない。しかし、異様に胸の奥がざわざわした。

(オレは何を考えているんだ。そんなのありっこないじゃないか)

 自分自身に呆れた笑いをこぼした。その気配が伝わったのだろう、前に座るミルフィがわずかにこちらを振り向いた。

「なぁに。どうしたの?」
「いや。なんでもないよ。それよりも、少し急ごうか。もたもたしていると日が暮れちゃうから」

 サワリと柔らかな風が吹いた。春になって暖かくなってきたと言っても、夕方になれば涼しくなる。

「うん」

 ハウエルはやや身を乗り出した。

「そうだ。ユージンさんと、ちゃんと仲直りしなよ」

 ミルフィは「はぁい」と素直に返事をした。

「でも喧嘩じゃないわ。私が勝手に怒っていただけだもの」
「もう大丈夫かい?」

 ミルフィは大きく頷いた。


忘却の姫子