忘却の姫子
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青の剣士 
 私は本当に世間知らずだなぁ、とミルフィは心の中で恥じた。

「お腹はもう大丈夫?」

 ミルフィは黒猫に問いかけた。

「ええ、助かったわ」

 チリン、と彼女の首元の鈴が軽やかに鳴る。彼女は前脚を舌で舐めてじっとこちらを見つめて来た。

「あなたにはレイズヴァーグの血が流れているのね」

 言われ、ミルフィは緩く首を傾げた。自分がレゼリュウス出身ではないこと、東側の血が流れていること、それはミルフィも分かっていた。改めて言われ、彼女が何を告げようとしているのか──それを見極めようとミルフィは黒猫のオッドアイを見つめ返す。
 しかし黒猫はそれ以上は口にせずに、別のことを続けた。

「あなた気に入ったわ、あたしはソラリスよ。ソララって呼んで」

 気に入ったわ、そう言われてミルフィは驚く。ソラリス──ソララ、と名前をミルフィは口の中で繰り返した。

「綺麗な名前ね。あなたも綺麗な猫ちゃんだし、似合うわ」
「んふふ。ありがと」

 これがソララとの出会いだった。

 ソララとミルフィが出会ったこの日を境に、ユージンが失踪した。


忘却の姫子