忘却の姫子
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ラスナーダ亭 
「アスタに行くのは俺も賛成です。しかし、あなたを危険な場所にお連れするのは……」
「いや。私だけお留守番なの? 私は大丈夫よ。もう十四歳だもの」

 ミルフィは強く断言した。いつしかルシアスの口調が変わっていたことには気付いていた。しかし、深くは考えないようにしていた。
 暫くミルフィの瞳を見返した後に、ルシアスは頷いた。

「分かりました。しかし、あなたの身の安全が最優先です」
「ルシアスが私を守ってくれるの?」
「ええ。俺が必ず」

(ふうん)

 ルシアスとミルフィの会話を傍で聞いていたソララは面白そうに二人を眺めていた。ペロリと前脚を舌で舐め、伸びをする。そうして椅子から降り、ミルフィの肩に飛び乗った。

「あなた、この子の何なの?」

 ルシアスにそう質問を投げかける。
 ミルフィはきょとんと肩のソララに顔を向けた。

「俺は彼女の護衛だ。グレン隊長が戻るまでの」
「本当にそれだけかしら?」

 ルシアスは軽く黒猫のソララを睨んだ。

「君は何者だ?」

 あたし? とソララは悪戯っぽく微笑んだ。
 すると──。
 ソララはミルフィの肩から身軽に飛び降り、再び椅子の上に乗った。

「あたしはソララよ。ただの旅人のソララ。双子の兄のカララの行方を探しているの」

 そう言ったソララの体が一瞬二重にぶれたかのように見えた。目の錯覚かと思い軽く瞬きを数回繰り返す。

忘却の姫子