異変
ジー、カチャ……
ふと目を覚ました。耳に嵌めたウォークマンのイヤホンが片方外れて腕に絡まっている。
聴いていた音楽は最後の曲が終わり、入れていた数十曲は最初から再生になる。
「ん……ふぁ……」
窓に凭れていた体を起こし、凝った筋肉を伸ばして大きく欠伸をした。
カタン、カタタン……
電車は一定の揺れを保ち軽快に走り、しかし車内は静寂に包まれていた。
同じ車両に乗っている乗客が、いつの間にか一人も居ない。
(あれ……)
不思議に思ったが然程気には止めず、窓の外に視線を移した。
しかし、そこで不審に眉を潜めた。
「あ……?」
窓の外には通常ならば街並みが流れているはずだった。
しかし、視界は曇りガラスが張り巡らされているかのように、灰色だったのだ。
目がおかしくなったのかと疑った。
瞬きを何度も繰り返してみる。
窓に手を触れてみた。冷たい感触が伝わる。
トンネルにでも入っているのかと思った。しかしそうではない。
微かにだが、灰色の視界の中に建物らしき影が映っていたからだ。