異変
視界が慣れてくると、灰色なのは空と、そしてこれは霧らしいと見当がついた。
(なんだコレは……)
こんな霧は初めてだった。薄気味が悪い。
その時、車内アナウンスが流れた。
『ご乗車ありがとうございます。間もなくガイシ通り二番街……』
目的の駅だった。車掌の声さえ無機質に聞こえて、今更ながら、車両に自分一人な事にも疑問を覚え始めた。
電車は徐々にスピードを失速させ始める。
やがて車両は淀みなく駅に滑り込み、停車した。
荷物を抱えて駅構内に降り立ち、不信感は増した。
降りた乗客が一人も居なかったのだ。
構内はシンと静寂に包まれていた。
(はぁ?)
何なんだ一体。
駅員さえ見当たらない。
降りた電車は、警笛もなく走り出してあっという間にその姿を消した。
まるで廃駅のようだった。
辺りの通路にはゴミや木っ端が散乱し、ここ最近に清掃された様子はなく、建物にはヒビが走り、コンクリートの塊がそこかしこに転がっていた。
何かの紙切れが風に吹かれて宙に舞っている。
それを捕まえて目を落とすと、駅ビルの広告チラシだった。
随分と薄汚れている。印刷の文字は掠れて辛うじて判読出来た。